大和田 紫苑

 ふと目が覚めると、常夜灯の灯りとカーテンの隙間から漏れる光が、知らない部屋を映し出していた。


(…………。……あぁ、……昨日は、寮に泊まったんだった……)


 右手を頭の上に伸ばして、置いたスマホを探す。

 無事、スマホを手にすると画面に映る時間を確認した。


(んっ……。アラームが鳴るまで、後十分ぐらいか……)


 大体、いつもこんな感じでアラーム前には目が覚める。

 遅刻が厳禁な芸能界では有用の、少ない自慢の一つだ。

 もっとも、もっと仕事が忙しくなり、睡眠時間が足りなくなった時にもできるかどうかは不明だけど。


(それぐらい、仕事が増えればいいんだけどね。……さて、そろそろ起きますか)


 少し体勢を変えて左の方を見ると、そこには同期生の仲間がぐっすりと眠っている。

 六期生のエースともくされている、とんでもない美少女が無防備に寝顔を晒していた。


(……本当に可愛いわね)


 萱沼 美久里。


 これまで出会ったことのある芸能人や候補の中で、一番美人だと思っていた梨奈ちゃんに匹敵する超絶美少女。

 多分、今後のシュステーマ・ソーラーレは、この二人が引っ張っていくんだろうねと考えている。


 そんな彼女だけでなく、プラスして七澤 のぞみという少女をサポートするために六期生に選ばれたのが私だ。


 背景に大企業グループの影が見え隠れする彼女も、フォルテシモにとって重要な人物である。

 味方に付ければスポンサーをしているテレビ番組やCMの仕事が期待でき、敵に回せば逆にライバルグループへ持っていかれてしまう。

 そのようなことを、直接的ではないが六期生候補に選ばれた時に社長から言われていた。


 そんなことから彼女たちを注意して見つつ、他の六期生たちとの関係を取り持つ。


(今のところは問題無いわね。……もっとも、私のおかげとも言いにくいんだけど)


 同じ養成所出身の智映ちゃんが萱沼さんに懐き、口数が少ない市原さんも会話をよく交わしている。

 他の三人ともそれなりに仲が良くて、一期上の五期生とは全く違う内情だ。


 六期生があんな風にならないように、私は動かなくてはいけない。


(まったく……。もう少し、重倉さんが頑張ってくれればいいんだけど)


 同じ養成所出身である、五期生リーダーに文句を言ってしまいたくなる。

 実際は口に出すことはできないんだけど。


(流石に年上で期も早い人には言えないよね……)


 梨奈ちゃんも迷惑を掛けたくないのか、私にも相談してこない。

 五期生として動くことが少ないのが、せめてもの救いだろうか。


『トゥルルル~、トゥルルル~』


 そんなことを考えていると、いつの間にか起床時間となりスマホからアラーム音が鳴り響く。

 慌てて音を止めると、よく眠っている三人を起こしに掛かった。


「はいっ! 朝よっ! 三人とも、起きなさいっ!」

「すぅ……、すぅ……」

「ん、ぬぅ…」

「…………」


 誰も起きない。

 意外と寝起きが悪い三人だ。


「ほら、萱沼さん起きて」


 まずは、一緒の布団で寝ている彼女を起こそう。

 肩に手を掛けて身体を揺らすと、悩ましい声を上げながら薄っすらと目を開ける。


「……んっ、あっ、あぅ……」

「もう朝よ。時間だから起きなさい」

「うっ、はぁ……。し、紫苑、さん……。おはよう、ござい、ます……」

「はい、おはよう。ちゃんと起きてね、後の二人を起こすから」

「ふはぁい~」


 まだ完全に目を覚ましていない萱沼さんは、上半身を起こしたがボーッとした感じで動きが止まっている。

 二度寝してしまいそうな彼女に笑いがこみ上げてきたが我慢して、ベッドで眠る古澤さんと金谷さんを起こそうとした。


「二人とも起きなさい。ぼやぼやしてると朝の時間が無くなるわよ」

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