第54話

「……残念です。美久里ちゃんと違う部屋だなんて……」

「智映も、です……」

「くじ引きの結果だから、仕方ないよ」

「でも……」

「二人とも、 萱沼さんが困っているでしょ。もう決まったことだから文句言わない」


 俺に纏わりつくのぞみちゃんと智映ちゃんに、紫苑さんが注意する。

 原因は、お泊りする部屋の割り当てをくじ引きで選んだことだ。


 俺は佐起子さんの部屋となり、一緒になったのは六期生リーダーと友菜さん。

 残った三人が、茉美さんの部屋に泊まることになった。


「順番にシャワーしないといけないんだから、そろそろ解放してあげて」

「……仕方ありません」

「が、我慢します……」


 最近、この二人の懐き具合が凄い。

 お互いに競い合うようになっているのが原因か。


「それじゃ、のぞみちゃん。智映ちゃん。おやすみ」

「おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」



 +++



「ふぅ~。お待たせしました」

「はい、古澤さん」


 佐起子さんがシャワーを浴び終わり、後は寝るだけの状態である。

 元々有る佐起子さんのベッドは彼女と友菜さんで使い、借りてきた布団を床に敷いて俺と紫苑さんが寝ることになった。

 どちらもシングルなので、二人で寝るには狭いが俺には問題ない。

 逆に、身体に触れても言い訳ができて大歓迎だ。


「リーダー。さっきのたちって、どう思う~?」

「どう思うって、……アイドルとして?」

「そうそう」

「ん~。……みんなはどう思うの?」


 まだ、寝たくなさそうな友菜さんが紫苑さんに尋ねる。

 微妙な話題のせいか、彼女は少し考えると俺たちにも振ってきた。


「え~っと、美久里ちゃんは?」


 佐起子さんも答え難かったのか、俺にバトンを渡してくる。

 ここは、将来の人気メンバーが確実視されている俺から答えた方がいいか。


「そうですね。……シュスソーラでデビューしたと仮定して」

「仮定して?」

「客観的に見て、人気投票で愛称が貰える順位に入るのは難しいんじゃないかなと」

「「「…………」」」


 俺から辛い言葉が出たのが予想外なのか、部屋の中に沈黙が舞い降りる。

 確かに厳しい意見だが、間違ってはいないはずだ。


「そう……。確かに、それが一般的に思われることかもね」

「八期生候補に選ばれればいいんですが」

「八期には例のロリッ子がいるから~」


 やはり、みんなも彼女たちの良い未来は想像できなかったようだ。

 せめて、五期生より前に入れたのなら違ったのだが。


「やっぱり、高校入学と同時にフォルテシモの養成所入りは遅いと思いますよ」

「うちは若い子が優先みたいな感じだからね~」


 その辺りは言葉にして欲しくなかった。

 紫苑さんがシュステーマ・ソーラーレに入れたのが高校二年生だから、養成所入りを基準にしたのに。


「今後の努力次第だと思うわよ。養成所も人材不足らしいから」

「八期には例の小学生が選ばれるとして、残りの一枠ですか」

「そこはオーディションの応募者次第でもありますから、どうなるかわかりませんね」


 応募者のレベルが低ければ、養成所からのシュス・ソーラ入りも増える可能性がある。

 その辺りはシュス・ソーラ運営の考え次第だから、俺たちがどうこう言っても意味は無いのが現実だ。


「ところで……。美久は新しい個人仕事の話とかないの~」


 ここで、友菜さんが俺に新しい話題を振ってきた。

 どうやら、まだ彼女は寝たくないらしい。


「個人の仕事ですか? 話はありますが、新しいかどうかは微妙ですね」

「えっ、あるんだ? 今度は何なの。ドラマ? 映画?」

「CMですよ。前の続編みたいなものらしいです」

「あの、宮下みやした 美穂みほさんと共演した?」

「はい、ソレです。今度はコールド系の清涼飲料水CMと聞いてます」


 去年の十二月最初から二月末までテレビで流れた、ホット飲料のCMは好評だったらしい。

 超絶美少女が二人も出ているのだから、動画共有サービスに掲載された公式チャンネルでのCM視聴数もかなりの数だ。

 となれば、同じ題材を同じ出演者を使って撮ろうという動きが出てきて当然である。


「もう、本決まり?」

「みたいですね。来月には撮影して、夏に流すらしいですよ」

「へえ~」

「夏らしい衣装ですから、撮影日も暑くなるといいんですが」


 四月だから寒くはないと思うが、それでも気温は高い方が良い。

 今度はロケーション撮影で、都会から少し離れた街での撮影を予定しているようだ。

 泊まりではなく、撮影時間を考えても日帰りで行ける範囲らしいけど。


「友菜も個人の仕事が欲しい~」

「それは、みんな思っているでしょ」

「シュスソーラの基本は、一年過ぎないと個人の仕事は来ないからね。例大祭後を楽しみにしてなさい」

「は~い」


 その基本の数少ない例外が、俺やのぞみちゃんに梨奈さんである。

 逆に言えば、のぞみちゃんみたいな特殊な背景や俺や梨奈さんクラスの美貌でもないと、デビュー一年目は大人しく勉強して経験を重ねなさいというわけだ。


「というか、そろそろ寝ないと明日のレッスンが辛くなるわよ」

「もう、こんな時間ですか」

「この寮はプロダクションに近いから、もっと話をしていても~」

「ダメよ。睡眠時間は大事だから」

「そうですね。もう寝ましょうか」


 友菜さんが抵抗していたが、俺たち三人が布団に潜り込むと彼女も流石に諦める。


「あっ。照明は常夜灯にしてね。初めての場所で真っ暗なのは困るから」

「大丈夫です、普段から常夜灯は点けてますから。では消しますね」


 リーダーと佐起子さんの会話が終わると、照明が落とされる。

 薄暗い中、紫苑さんと肩を並べて目を瞑った。


「それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみ~」

「「おやすみなさい」」

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