第53話

「──寮暮らしも、大変なんだね」

「そうなの。仲間であり、ライバルでもあるからね」


 清涼飲料水を飲み、スナック菓子を摘まみながら話は弾む。

 ダイエットの話から、今日のミニライブの話、養成所や寮での出来事の話が話題に上がる。


「んっ……。長い期間、養成所に居ると大変そう……」

「それは、そうよ。精神的にくるものがあってね」


 苦労人の紫苑さんが、目を瞑って昔を思い出している。

 彼女も結構な長期間を、デビューできずに養成所で燻っていたから。


「まあまあ、紫苑さん。ちゃんとデビューできたんですから」

「そうですよ。大和田さんがリーダーで、私たちも助かってます」

「そうそう」

「ええ。本当に」

「……ありがとう、みんな……」


 俺たちの励ましに、目を開いて嬉しそうに微笑む六期生リーダー。

 周りのみんなも笑顔で良い雰囲気となっていると、外から声を掛けられた。


「あ、あの……」

「……市原さん。古澤さん」

「んっ? ああ、小代田さんに成田さん」


 声を掛けてきたのは二人。

 俺よりは年上と思われる、おそらく高校生な少女たちである。

 両方ともなかなかの美少女だけど、シュステーマ・ソーラーレにはたくさん在籍しているレベルだ。


「紹介しますね。こちら、小代田こよだ 愛奈まなさんに成田なりた 文夏あやかさん」

「は、初めましてっ! こ、小代田愛奈ですっ!」

「成田文夏です。よろしくお願いします」

「二人ともここの寮生で、年齢は私と同じ。一年前に地方から出て来て、高校入学と同時に養成所に入ったそうです」


 そういえばミニライブ後の握手会で、裏方の手伝いとして見たことがある顔である。

 しかし、茉美さんと同じということは俺より二歳年上か。

 正直、メンバーの顔触れが微妙な七期生にも選ばれていないところを見ると、あまり期待されていない可能性が高い。

 八期生には、噂の超絶美少女ロリが決まっているみたいだしな。


「初めまして。六期生リーダーの大和田紫苑です。そして知ってるとは思うけど、六期生のメンバーたちです」

「こんばんは」

「よろしくお願いします」

「どうも」


 とりあえず、同期たちは挨拶を返す。

 俺も優しく笑顔で、緊張している二人に返事をした。


「は、はいっ! し、紫苑先輩、会えて光栄ですっ!」

「えっ? 私?」

「養成所に在籍する者なら目標とする存在ですよ。大和田先輩は」

「あ、ありがとう……」


 注目が集まった彼女は、予想外のことに照れているようだ。

 これまで、六期生の集まるところで注目を浴びるのは、俺やのぞみちゃんが多かったからな。


「やっぱり、養成所では有名だったんですね」

「真の養成所所長とか、聞いたことがあります」

「友菜は、養成所の影の支配者とか聞いたことある~」

「ちょ、ちょっと、なにそれっ!?」


 養成所での紫苑さんの存在感は、とても大きなものだったとは俺も聞いている。

 養成所の所長や上の方から、かなりの信頼を得ていたとも。


「智映ちゃん。養成所時代の紫苑さんは、どんな感じだったの?」

「……そうですね。養成所に通う人たちからの信頼は一番だったと思いますよ、美久里さん」


 俺の質問に、六期生でもう一人の養成所組である智映ちゃんも褒め称える。

 そりゃあ、梨奈さんとの関係も良いはずだ。


「もう。智映ちゃんまで……」

「それだけ、紫苑先輩は養成所出身者に尊敬されているんですよ。ねっ? 文夏ちゃん」

「はい。小代田さんが言う通り、大和田先輩は尊敬されるべき先輩です」


 養成所の後輩二人にも褒め称えられる、うちのリーダー。

 顔を赤くして動揺している姿は、あまり俺たちには見せない姿だった。


「そ、そんなに褒めても、何も出ないわよ」

「恥ずかしがる大和田さんは新鮮です……」

「うん。なんか可愛い……」


 確かに、今の紫苑さんは普段より可愛く思える。

 仲間もそう思ったのか更に褒め言葉を投げ掛けていると、遂に彼女も我慢できなくなったようだ。


「も、もう、終わりにしないと、怒るわよ」

「意外と照れ屋なのね」

「……松延さん」

「わかったわかった。みんな、もう終わりにするわよ」

「は~い」

「残念ですが、仕方ありません」


 まぁ、引き際も大事である。

 このぐらいが限界であろう。


「小代田さん。そろそろ……」

「あっ。そうだね、文夏ちゃん。……先輩方、お邪魔しました。私たちは部屋に戻りますね」

「お騒がせして申し訳ありません」


 ここで、小代田さんと成田さんから言葉を掛けられる。

 六期生だけの集まりだから、彼女たちも遠慮したのだろう。


「……ううん、大丈夫よ。これからも大変だろうけど、頑張ってね」

「はいっ! 紫苑先輩!」

「大和田先輩……。ありがとうございます。それでは失礼します」

「バイバ~イ」

「今後もよろしくね」

「さようなら」


 頭を下げて去っていく二人を見送る。

 同じ期生でシュス・ソーラに入れたのなら、間違いなくコンビになるだろう。


「ふぅぅぅ」

「……美久里ちゃん。コップが空になってますよ?」

「あっ、ホントだ。……それじゃ。智映ちゃん、そこのペットボトル、取ってくれる?」

「いえ。智映が注ぎますね」


 後輩になるかもしれない、アイドルを目指す二人の挨拶という、予定外のイベントもあったが宴は続く。

 お開きも近いが、それまでは楽しもうと両隣の二人と仲良くお話を続けた。

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