第50話
二月の後半、久しぶりにレコーディングの予定が入った。
三月下旬に発売される新アルバムに、俺たち六期生が歌う曲も収録されるのが決まったのだ。
といっても六期生専用の曲ではないし、ミニライブに出演している他の二グループも一曲ずつ収録される。
ようするに、ミニライブ用に三つの新曲を投入されるわけだ。
まぁ、他の内部グループの曲ばかりより、新鮮味のある歌があった方が来場したファンも嬉しいだろう。
+++
「──新曲のフォーメーションは、どんな感じなんですか?」
「そうね。これまで歌っていたシュスソーラの既存曲とは違って、ある程度は歌う人をばらけさせるつもり」
「ほう~」
「やったぁ」
それは、俺も嬉しい。
何しろ、歌唱量が違ってもギャラは同じだからな。
ミニライブ組では圧倒的な人気を誇り、演技の仕事の話も聞こえてきた俺にとっては、ミニライブにそこまで力を入れなくても良いと思っている。
あと半年もすれば、ミニライブ組から卒業するはずだから。
「この曲のミニライブでの発表は、いつにするんですか?」
「振り付けを完成させて、あなたたちがファンに見せられるレベルになれてからね」
「まずはレコーディングですか」
「ええ。他のミニライブ組との兼ね合いもあるけど、遅くてもCD発売前週のミニライブには発表したいわ。ぜひ、ファンが買いたいと思う完成度で」
「が、がんばります……」
一ヶ月近くは、レッスンが新曲の練習になりそうだ。
歌は一人でも練習できるから何も問題無いが、フォーメーションを組んでの振り付けはそうはいかない。
神様チートの高いダンス力で、変に浮いてしまわないように注意しないと。
+++
「──『ミネラウヴァ』?」
「新曲の名前、言いにくい~」
「今回のミニライブ組が担当する三曲は、全部おとめ座を構成する星の名前から取っているから。ちなみに、プロデューサーが名付け親ね」
六期生統括マネージャーの種山さんから知らされた、新曲の名前は聞き慣れない言葉だった。
星座の星の名前なんて、そこまで詳しく知っているわけがないから当然である。
俺の誕生日は六月なのでふたご座となるが、自分の十二星座でも知っているのはカストルとポルックスぐらいだ。
「どうして、おとめ座なんだろ」
「乙女の心情を歌った曲、とか?」
「……ありそうですね」
アイドルっぽい曲なのだろうか?
片想いとか甘いラブソングの予想が、仲間の中では多い。
「おとめ座で一番有名な星はスピカだけど、もうシュスソーラの曲に使われていたわね」
「ミネラウヴァは、おとめ座デルタ星で四番目らしい。ということは」
「他の二曲の名前は『ザヴィヤヴァ』に『ポリマ』でしょ?」
「正解です」
スマホ片手に検索していた佐起子さんと茉美さんの言葉に、サブマネの松園さんが答える。
まぁ、誰でも予想できる簡単な答えだ。
「ザ、ザヴィ、ヤヴァ……。こちらも言いにくい……」
「言いやすいのはポリマだけね」
「歌詞の中にタイトルは無いから安心して。それじゃ、レコーディングに向けての練習を頑張っていきましょう」
「はいっ! みんな、レコーディングまであまり時間がないから、気合入れていくよっ!」
「おおぉ!!」
「わかりましたっ!!」
まだ、振り付けも歌の割り振りも未完成だから、最初から最後まで歌って練習する。
これは誰かが休んで実際のステージで七人以下になる場合を想定して、これまでの曲でも
+++
とりあえず練習室を一室借りて、支給されたタブレットに収録された歌無しの新曲をBGM代わりに話し合う。
「見本が無い曲だから、新鮮でいいね」
「シュスソーラやドワプラの曲だと、元々のイメージに引っ張られますから」
既存の曲の場合、最初に発表したグループの割り振りに、どうしても影響されてしまう。
ロリな妹枠が担当していた箇所は、別のグループでも同じようなロリな妹枠が。
カッコイイ系なメンバーが歌っていたところは、同じくカッコイイ系が担当。
みたいな感じを、ファンも俺たちも刷り込まれている。
もし、イメージが全然違うメンバーが担当すると違和感が生じるみたいな。
「この曲は、どんな割り振りなんだろね?」
「真逆もおもしろそう~」
「振り付けも合うのでしたら、それもいいかもしれません」
「……みんな、歌詞をちゃんと読んでる?」
配られた楽譜を熱心に見つめていた紫苑さんが、駄弁っていた俺たちに注意する。
「大丈夫です」
「これを見ると、そこまで難しい曲ではなさそうですから」
「はい。そう思えます」
「……じゃ、一回試してみる?」
「そうですね」
「いきましょうっ!」
六期生リーダーの提案に、同期生たちは気楽に了承する。
確かにこれまでの経験からすると、この新曲は歌いやすいという部類に俺も入るとは思う。
それが、神様チート持ちである俺だけの感覚ではないといいが。
+++
「「「「あぁぁぁ…………♪」」」」
歌い終わりアウトロも終わると、みんなは黙って視線を合わせる。
六期生全員が思ったことを、ここにいる仲間は理解しているのだろう。
「え~、っと……」
「この、新曲……」
「…………」
「かんた~んっ!!」
「金谷さん。そんな、はっきり言わないで」
俺たちの歌唱レベルが上がっているのも確かだが、それを考えてもこの新曲は歌いやすい。
だが、歌いやすいということは他の負担を増しても問題無いということでもある。
「これだと、振り付けのレベルが怖いですね」
「た、確かにっ!」
「ええ。私もそれが不安だわ」
俺の発言に、茉美さんと紗綾香さんが違う反応を見せる。
歌いやすいことに安心していた人と、その分振り付けが難しくなる可能性を考えていた人の違いか。
「これまでで、ダンスの難易度が一番だということを覚悟していたほうがいいわね」
「だとすると、歌いやすい曲も問題がありますね」
「智映は、両方とも程々の方がいいんですけど」
「友菜も~」
俺は、振り付けより歌の難易度が高い方が良い。
以前より体力やスタミナの問題が少なくなったといっても、まだまだ歌うことに比べて未熟だからだ。
振り付けがそこまで激しくないことを祈っておこう。
チートを授けてくれた、自称神に。
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