第49話
バイトの件を話した結果、三番目の兄はシュステーマ・ソーラーレ宛てのバレンタインチョコ選別バイトに参加することになった。
それも、本来予定していたバイトを休んでまでの参加だ。
そうするぐらい、バイト代が良かったらしい。
そんなフォルテシモが出したバイト代も、結局俺関連に使ってフォルテシモに戻るのだろうけど。
+++
「ふぅ……。今日も疲れましたね」
「そうだね~。でも、体力が付いて大分マシになったよ」
「レッスンの強度も、最近は安定していますから」
平日、学校が終わるといつものようにプロダクションに行き、レッスンを受ける。
最近は体力養成の時間が減り、代わりに演技関連のレッスンが増えてきた。
もちろん、神様チートでそれらを楽々熟す。
後は、それらを発揮する機会を待つだけだ。
種山さんも俺の演技は合格点だと、ドラマや映画の仕事が来たら受ける方向で行くらしい。
もっとも、当面は小さな役で経験を積ませることに重点を置くとのことだが。
「今日の美久里ちゃんの帰宅方法は何でしょうか?」
「父の車の予定。今日は仕事が早く終わったらしいよ。……のぞみちゃんと智映ちゃんは、いつもの?」
「はい。もう、こちらに着いて駐車場で待ってます」
「智映は、後十分ほどでパパが」
「私もそろそろかな。それじゃ、駐車場に向かおうか」
「そうですね」
「はい♪」
+++
まだ居残っていた同期生に挨拶をし、正面玄関から事務所ビルを出る。
既に日も沈んだ中を駐車場に向かう為、三人で少し歩いていると急に名前を呼ばれた。
「美久里っ!」
「んっ? あっ、
呼び止めたのは、フォルテシモへ短期バイトに来ている一番下の大学生の兄。
「もう、今日のバイト終わったの?」
「というか、このバイト自体がもう終わり。後は残り少ないから社員の人でやるみたいだよ」
「そうなんだ」
兄のバイトも、今日で終わりか。
早く終わったのか、時間が掛かったのか、よくわからない。
まぁ、いくつかの部屋を占領したバレンタインチョコの数には圧倒されたが。
「こんばんは。お久しぶりです、お兄さん」
「こんばんはです」
「あっ、はい。お久しぶりです。七澤さんに関口さん」
俺の家族と六期生メンバーは、初めてのミニライブの時に紹介済みである。
うちの家族は土日で全員来たから、六期生には顔を知られている。
覚えていればだが。
家族は普通顔で、あんまり似てないねとも仲間には言われていたので、もう忘れられていてもおかしくはない。
「いつも妹と仲良くしてくれて、ありがとうございます」
「いえ。私もお世話になっておりますので」
「智映も、力になってもらってます」
「そうですが。お二人のお家に泊まりに行って、迷惑を掛けていないとよいのですが」
「ちょっと、兄さん。私が迷惑なんて掛けるわけないでしょ。ねっ?」
「はい」
「智映の両親も、喜んでいました」
のぞみちゃんと智映ちゃんに話を振ると、笑顔で否定してくれる。
二人は俺がお泊りするのを、凄く喜んでいたのが本当の所だ。
「それは良かったです。今後も妹と仲良くしてください」
「もちろんですっ!」
「はいっ! わかりましたっ!」
なんか、父親が複数居る心境である。
娘離れ、妹離れができない家族だ。
「もう……」
「ははっ。……っと、親父の車だ」
「智映のパパも」
ここでプロダクションへ、前後に
ようやく、お迎えの到着である。
「私はお先に失礼しますね。車を待たせていますので」
「うん。のぞみちゃん、また明日ね」
「お疲れ様でした」
「はい。では、二人ともまた明日。お兄さん、失礼いたします」
「ああ、はい。さようなら」
ここでのぞみちゃんは自分が乗る、黒塗りの高級車へと向かう。
その間に、俺たちの迎えの車は近くに駐車していた。
「お待たせ。……って、美智雄も居たのか」
「居るぞ。冷たい父親だな」
ある意味、俺を奪い合うライバルでもある父と三兄である。
近くに駐車した車に近付くと、隣でも智映ちゃんと智之パパとの会話が始まっていた。
「パパッ!」
「遅くなって、ごめんね」
「うん。それより、あちらに美久里さんのパパが」
「……それは挨拶しないとね」
車を下りてきた智之さんに気づくと、父も車から下りて話し出した。
「初めまして。この智映の父で、関口 智之です」
「どうも。この間は娘がお世話になりまして。ああ、萱沼
ここで少し世間話というか、アイドルを娘に持った父親の苦労話が始まる。
この話の弾み具合だと、暫くは出発できなさそうだ。
+++
「……美久里」
「うん?」
「のぞみちゃんも智映ちゃんも、可愛いね」
「そりゃあ、アイドルですから」
「でも、美久里が一番可愛いだろ? 美智雄」
「当たり前だろ、親父」
三人の車中で、俺以外の二人は親馬鹿シスコンぶりを発揮する。
これが通常営業なので、今更気にもしないが。
「そういえば、パパ。予定より遅かったね?」
「家を出る時に伊佐央と久仁彦が帰ってきてな。誰が迎えに行くかで、ちょっと……」
話に出てきた
父が漢字一文字の名前だったせいで、俺たち四兄妹は全員漢字三文字の名前が付けられたらしい。
「まぁ、運転席に座ってたパパが勝ったけどなっ!」
「はぁ……」
家に着いたら、二人の上の兄へ媚びを売っておくとしよう。
そうすれば迎えに行けなかった事も忘れそうだし、三兄だけがバイトで事務所ビルに出向けた不満も解消するだろう。
溺愛される方も、結構気を使うのだ。
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