第47話
分かり切ったことだが、一月は一年で一番寒い時期と言っていいだろう。
そのせいか六期生でも体調を崩す人が出て、ミニライブに七人で出演した日が複数有った。
これは、総合コンサートも無事終わって気持ちに緩みが出たからかもしれない。
まぁ、ステージを七人で行う想定は以前からあったので、これといった大きな問題も無く、無事に終わることができた。
これが六人ともなると、歌も踊りもかなり違ってくるので注意して欲しい。
俺も体力面には神様チートが無いので、充分に気を付けているつもりだ。
そして、一月二十九日。
土曜日のミニライブを控えた俺たちは、見学として訪れた七期生候補を仮紹介された。
+++
「今日のミニライブは、七期生候補の八人が見学に来るからよろしくね」
「わかりました」
「もう、そんな時期ですか」
「一年経ったんですね……」
六期生統括マネージャーである種山さんの言葉に、同期生たちは色んな感情を乗せた返事を返す。
一年前に自分たちが通った道を思い出して、感慨深くなったのかもしれない。
「早智子さんから見て、七期生の子たちはどうですか?」
「そうね……。少なくとも、あなたたちや五期生に比べて期待は……、というところかしら」
「ああ……。なんとなく意味は理解しました」
種山さんの語尾を濁した発言に、察する紫苑さん。
梨奈さんや俺を有する、ここ二年と違うことはよくわかった。
「んっ。……とりあえず、普段のあなたたちを見せてあげればいいわ」
「そうですね」
「いつも通り、ということですね」
「了解で~す」
これまでと同じ、普段通りのミニライブを見せてあげればいいだけだ。
それを見て、どう思うかは七期生候補の各個人次第だろう。
+++
「──六期生のみなさん。こちらが七期生候補の八人となります」
「はい。よろしくね」
「レッスンは辛いでしょうが、頑張ってください」
「「はいっ!!」」
「「「ありがとうございますっ!」」」
緊張した様子の七期生候補が横に並んで、俺たちに紹介される。
ここでは仮紹介ということで、個人の名前までは知らされない。
俺たちもそうだったが例大祭でのデビューが本決まりして、ようやくシュステーマ・ソーラーレのメンバーに本紹介がされるのだ。
「あなたたちはミニライブ前の準備等を舞台裏や舞台袖で見学して、ミニライブが始まったら関係者席で最後まで見てもらいます」
「「わかりましたっ!」」
「「「はいっ!!」」」
七期生候補を先導してきたのは、シュス・ソーラの見習いマネージャー、
俺と茉美さんや友菜さんと一緒に、地方のサイン会に付いてきた人だ。
「高森さん。お久しぶりです」
「お久しぶりですね、萱沼さん。活躍しているようで何よりです」
「わっ、わわぁ、美久里ちゃんだ~」
「ホ、ホントに美少女……」
連れて来た高森さんと話す俺を見て、七期生候補は小さな声で喋り出す。
彼女たちを見ての感想は、飛び抜けた人が居ない、そう、まるで四期生を見た時のような感じだ。
そちらを見てニコリと笑い掛けると、七期生候補たちから何ともいえない声が洩れてきた。
「案内しているところを見ると、高森さんが彼女たちに付くんですか?」
「いえ、私ではサブでも荷が重いですよ。人が足りなくて、偶々今日空いていた私が任されただけです」
流石に、見習いから新期生サブマネへのジョブチェンジは無いか。
「でしたら、七期生担当に抜けた人のところに入る感じでしょうか」
「そうですね。これまでの配置換えを見てると、その可能性が高いと思います」
「美久里~。そろそろ音合わせするよ~」
「わかりました~。では、行きますね」
「はい。頑張ってください」
紗綾香さんに呼ばれて、高森さんとの会話を切り上げる。
「それじゃ、見学を楽しんでね。デビューしたら、あなたたちもこちら側に回るから」
「は、はいっ!」
「わかりました」
「べ、勉強、させていただきます」
去り際に七期生候補に話し掛けると、焦ったような雰囲気で返事が戻ってくる。
どうやら、自分たちに話し掛けてくるとは思ってなかったようだ。
+++
「……七期生はどうだった?」
「ん~。特に突出したものは感じませんでしたね」
「だから、あんな構成なのかな~」
顔面偏差値なら、八人全員シュス・ソーラの平均はあるだろう。
とはいえ、知実さん
そのせいか、アイドルとして特色を強く打ち出そうとしている運営の考えが透けて見える。
「妹枠が二人、色気枠も二人、更にカッコイイ系も二人って感じね」
「王道のアイドル枠が二人というのも、珍しいですね」
「五期生と私たちの後ということで、運営も大変なのかな?」
まぁ、シュス・ソーラにも多く居る、世間が思うアイドル像に沿った人材だと目立つ可能性が少ない。
だから、違う路線のアイドル候補を多く集めたのだろう。
「妹枠……。養成所絡みの情報だと、来年の八期生候補に妹枠の本命が居るらしいよ」
「本当ですかっ!?」
「遂に妹枠担当も交代の可能性が」
「んっ……」
リーダーが言う、養成所の妹枠候補の話に智映ちゃんが少し顔を歪める。
六期生の妹枠担当の彼女にとって、強力なライバル出現といったところだろう。
俺は年始のお泊り会で智映ちゃんから聞いたけど、初耳だった仲間も多いようだ。
「もう、八期生の話ですか」
「その子が、ここでデビューするかも決まってないのに」
「ところが、その子、うちの社員の娘みたいなのよ」
「おや、まぁ……」
譜代の中の譜代という感じである。
親がプロダクションに勤めているとなると、他の事務所でデビューとはいかないか。
「それだと、うちでデビューっぽいね~」
「妹枠ということは、小学生?」
「五年生と聞いてるわ」
その年齢だと、握手会等の手伝いにも出てこないはずである。
一度顔を拝んでみたいけど、養成所に伝手が無いオーディション組としては機会が無さそうで残念だ。
もっとも、年齢的に妹を見る目になる可能性も高いけど。
「もうすぐ、みなさんの音合わせの番となります」
「わかりました。松園さん」
「それじゃ、ちゃっちゃっとやっちゃいますか」
「ですね。時間を掛ける必要も無いでしょう」
ミニライブ会場のステージでは、先輩方の音合わせが終了して舞台袖に下がりつつある。
代わりに出る、俺たちの音合わせが最後となる。
その風景を七期生候補たちが、ジッと見つめていた。
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