種山 早智子 2

 成人の日の次の日である一月十一日、シュステーマ・ソーラーレ関係者の合同会議が行われる。


 出席者は、社長を筆頭とするff・フォルテシモ上層部。

 更にシュス・ソーラのプロデューサーら運営陣、私のような期生や内部グループ担当の各マネージャーたち。

 他にはオーディション担当やスカウト部に養成所所長など、結構な人数が集まった。


 もちろん、マネージャーが全員参加できたわけではない。

 多忙な年末年始から成人の日を含む三連休が終わったといっても、まだまだ忙しいメンバーは当然いる。

 それに同行している数人のマネージャーは、今回の会議には出席していない。



 +++



 内部グループや期生担当のマネージャーによる報告は、大して問題が無い。

 順調に仕事も増え、逆に負担が大きいメンバーがいるぐらいか。

 他は、一期生に二期生という古参メンバーでありながら、愛称が貰えないミニライブ出演者の今後の卒業をどうするか程度である。


 彼女らは一期生と二期生共に二人ずつおり、四人を一期生統括マネージャーが担当している。

 一期生サブマネージャーに二期生の統括とサブは、肩書はそのままに内部グループの担当を手伝っている状態だ。

 シュス・ソーラに三人、ドワーフ・プラネットとセブンス・サテライトには二人ずつ、マネージャーが付いているが人が足りない時が多い。

 特にシュス・ソーラに武智さんが入ってからは、内川さんと二人、マネージャーを一人ずつ専任させているような体制である。

 見習いも居るが、彼ら彼女らに一人で担当させるには、まだまだ経験が少なくて怖い。


 そんなことを考えているうちに、オーディション担当の報告になっていた。


「七期生オーディション担当のもりです。この度、合格としました六人のプロフィールですが、お手元に有ります資料をご覧ください」


 そこかしこから、紙をめくる音がする。

 私も手元の資料をめくって、合格者の写真やオーディション時の評価を目に入れていった。


「……う~む」

「なかなか……」

「……ご覧いただければご理解できると思いますが、今回は前回と比べて不作と言えるでしょう」


 前回の六期生オーディションは、予想を遥かに超える大豊作であった。

 今年デビューの七期生には同レベルを求めていなかったとはいえ、あまりに前期と比べて弱過ぎる。


「うむ。六期では萱沼かやぬま美久里みくり七澤ななさわのぞみ、二人の逸材がいたが、今回はそもそも応募に逸材が居なかったということかね」

「はい。七期の合格者六人は、今回の応募者の中で上位に評価されたメンバーです」


 それは、そうだ。

 わざわざ、上位評価の応募者を落とす意味が無い。

 そこに、一人の男性が片手を上げた。


「そこの君」

「はい。スカウト部の佐々木ささきです。スカウト部としても最近は苦戦が目立っています。重要目標が余所に行かれることも多々出てます」

「……そうか。理由は判明してるのかね?」

「ある程度は」


 社長が腕を組み、発言を促す。

 森さんと佐々木さんが視線を交わすと、オーディション担当が話し出した。


「合格者の中に他所の養成所出身がいましたので確認したところ、今のシュスソーラは強過ぎるということでした」

「強過ぎる? ……どういうことかね?」


 上層部の一人が意味がわからない感じで口で出すと、今度はスカウト部が答える。


「スカウトでも最近多いのですが、シュスソーラでは既存のメンバーが強力で、入ったしても目立ちそうにないと」

武智たけち梨奈りな内川うちかわ知実ともみ、続いて萱沼美久里というメンバーが入って、トップスリーは決まったということらしいです」

「……シュスソーラで上位に入るには、ライバルが強過ぎるということか」

「はい。それを避けて、他所のアイドルグループに行くという子が増えているとの分析です」

「他所の方が、自分が上に行ける可能性が高いと」


 確かに、今のシュス・ソーラの上位陣を破るのは難しいと私も思う。

 萱沼さんぐらいの素材と才能があって、ようやく成し遂げられるぐらいだ。

 そして、この国に萱沼さんに匹敵する人材が後何人残っているのか。

 正直、数は極めて少ないだろう。


「なるほど。グループ内競争の問題ですか……」

「確かに、うちの人気上位の上に行くのは大変か」

「生半可な人材では、難しいでしょう」


 上層部やシュス・ソーラの運営陣の発言途中、社長が片手を上げる。

 それを見た参加者が口をつぐむと、社長は養成所所長に話し掛けた。


「養成所からは、二人だったな」

「はい、社長。資料にもありますが、この二人もシュスソーラの主力と見るのは難しいでしょう」


 フォルテシモ付属養成所でも、人材不足は深刻である。

 良い人材は積極的にシュス・ソーラでデビューさせているので、当たり前かもしれないが。


「あ~、例のは七期生に間に合わないか?」

「流石にそれは……。十二月からの仮入所ですし、現在小学五年生ということを考えても、早くて中学生となる八期生かと」


 例のというのは、プロダクション社員の子供のことか。

 武智さん・萱沼さんクラスと期待されている逸材ということもあり、無償で養成所に迎え入れたらしい。


「やはりか。……あぁ、すまない。無理な話だったな」

「いえ」

「七期生は八人。これでいくしかないな」


 一つの期の人数としては適正だろう。

 七人から九人程度が、期生単位でグループを組みやすい。

 これまでで一番少なかったのが三期生で七人。

 一人卒業してしまったので現在六人だが、今後の卒業者次第では三期生単体としての活動も難しくなりそうだ。


「はい」

「決定、ですね」

「……よしっ! 先ほどの話の通り、今後の人材は期待できない可能性が高い。よって、現メンバーに一層頑張ってもらわねばならない」


 会議を締めるように、社長が一席つ。

 私たちは、そんな彼を姿勢正しく見つめて傾聴する。


「もちろん、君たちも一層力を入れてやってもらいたい。一期生や二期生が人気の土壌を作って種を蒔き、内川くんが水をやって芽吹かせ、武智くんが成長させた」


 社長は話をしている内に興奮したのか、立ち上がって身振り手振りもやり始める。


「次は、萱沼くんが大きく成長させるだろう。ここで順調に行けば、シュスソーラは我が国でも最高のアイドルグループになれるはずだ」

「はいっ!」

「もちろんですっ!」

「頑張りましょう!!」


 社長の熱が会議参加者にも移ったのか、彼ら彼女らの声も熱く大きい。

 もちろん私も力強く返事をして、今後のシュス・ソーラの成長に全力を注ぐことを誓った。

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