第43話
二十五日と二十六日のミニライブを終えると、俺たち六期生の年内における仕事は終了した。
次の週末は新年の元日と二日になるが、その両日にミニライブを行うのは流石に駄目だろうということで無しである。
まぁ、次の土日に成人の日がくっついて三連休となるので、ミニライブも三日間計六回あるのも理由の一つだろう。
というわけで、年末年始の六日間はレッスンもお休みで、珍しく余裕ある日程となった。
プロダクションのスタッフも休みが必要なため、当然とも言えるが。
その連休を利用して、俺はのぞみちゃんと更に親交を深めようとしたのだが……
+++
「──えっ!? のぞみちゃん、そんなに忙しいんだっ!?」
「ええ……。会社の方の関係で、年末年始は大忙しなの」
彼女を家に招待して家族に紹介でもしようと考えていたら、のぞみちゃんの予定が空いていない。
流石は大企業グループのお嬢様。
年末年始はパーティーや挨拶やらで、せっかくの六日間の休みも全部潰れる予定だそうだ。
「そうか……。残念。一度、私の家に泊まり掛けで遊びに来てもらおうか思っていたんだけど」
「ごめんなさい……。とても魅力的なお誘いですけど、どうしても時間が空かなくて」
「ううん。だったら仕方ないよ。……春休みにでも、予定が合えばいいんだけど」
今年最後のミニライブを終えた後はプロダクションに戻り、いろいろと挨拶やら後始末をして後は帰るだけというところで、のぞみちゃんと話し込む。
どうやら、明日と明後日のレッスンが彼女と会える今年最後の機会になりそうだ。
「せめて、今日は一緒に帰りましょう。車で送っていきますから」
「……失礼します。……まだ残ってたんですか?」
のぞみちゃんの提案にどうしようかと返事をする前に、ノックの音がすると休憩室のドアが開いて智映ちゃんが入室してくる。
「ちょっとね。のぞみちゃんと話したいことあったし」
「そうなんですか」
「久し振りに、お泊り会をしたかったんだけど」
「お泊り会ですかっ!?」
食い気味に、智映ちゃんが反応する。
やっぱり、俺たちぐらいの年代だと仲の良い友達とのお泊りって楽しいよね。
「う、うん。……でも、のぞみちゃんが忙しくて無理で残念という話」
「ええ。本当に残念です……」
本当に沈んだ声で言うのぞみちゃん。
表情も曇らせているが、美少女だとそんな顔でも魅力的なのは変わらない。
「で、でしたら、智映ではダメですか?」
「えっ? ……智映ちゃんが私とお泊り会するってこと?」
「はいっ! そうです」
俺にとって、智映ちゃんは妹みたいな感覚である。
前世でも今世でも、俺は末っ子で当然妹もいなかった。
だから、漫画とか創作物によくある可愛い妹に憧れがある。
「そうだね~。それも面白そうかな」
「ホ、ホントですかっ!? そ、それじゃ」
「美久里ちゃん。車が着いたそうですけど、どうしますか?」
意気込む智映ちゃんを制するように、のぞみちゃんがスマホ片手に話し掛けてきた。
「んっ? そういえばそんな話だったね。えっと、お願いしようかな」
「もちろん、大歓迎ですよ」
「ありがとう。年末だからか家族も忙しくて、どうしようかと思ってたんだ」
父や上の兄二人に車で迎えに来てもらうと、かなり時間が遅くなる。
一番下の大学生の兄は、フル回転でバイトして稼いでいるようだ。
「それじゃ、家族にL〇NEするね」
「はい。
「……これでよし、っと。智映ちゃん、今日の夜にでも連絡するから、その時に日にちとか仮に決めようか」
「は、はいっ! わかりました」
ちょっと待ち惚けになっていた智映ちゃんに言葉を掛けると、彼女も笑顔で答えてくれる。
ただ、代わりにのぞみちゃんの表情が不満気に変わるんだが。
「美久里ちゃん、行きましょうか。……智映さん。明日もよろしくお願いします」
「いっ、いえ、明日のレッスンも頑張りましょう」
「じゃあね、智映ちゃん。まずはL〇NEで連絡するね」
「わかりました。待ってますっ!」
力を入れる彼女に、思わず笑いながら軽く手を振って休憩室を退室する。
肩を並べて歩くのぞみちゃんの機嫌を取りつつ、廊下を進んでいった。
+++
『……もしもしっ! 智映ですっ!』
「こんばんは。美久里です」
最初にL〇NEで大丈夫か確認してから、彼女に電話をする。
着信音が鳴って直ぐに出た智映ちゃんの声は大きかった。
『こんばんは』
「うん。時間も遅いから手短に済ませようか」
『わかりました』
今日はミニライブが有った日だし、明日もレッスンが待っている。
しかも、冬休みに入っているので午前中から夕方まで予定は埋まっている有り様だ。
「家族に話したんだけど、年末は忙しいけど年明けなら大丈夫だって」
『はい。智映の方も、年末はバタバタしてますから』
「それで考えたんだけど、三日まで休みで四日にプロダクションに挨拶に行くでしょ?」
『そうですね。四日は他に軽く自主的なレッスンをするぐらいです』
そう、アイドルやマネージャーは年始も働いているが、事務所ビルが開くのは四日からである。
それも完全稼働ではないので、レッスン担当のインストラクターもまだ休みらしい。
社長や少数の事務員が出社するらしいので、新年初のミニライブに向けて、連休で
「だから候補としては、三日にこちらに泊まって四日に一緒にプロダクションに行く」
『はい』
「他には、四日の帰りに泊まって五日のレッスンに一緒に行くのもありだけど」
『う~ん、その二つだと、三日に泊まるのがいいですね』
「うん。私もそう思う」
四日は軽めな自主的とはいえ、レッスンはレッスン。
それ用の荷物に五日のレッスン用の荷物、泊まるための荷物も持ち運ぶのは面倒そうだ。
それなら、三日に泊まる案の方が智映ちゃんも楽だろう。
「それじゃ、そんな感じでご両親の許可を取ってくれる?」
『わかりました。絶対に貰ってきます』
「お願いね。結果が出たら、L〇NEでも電話でも、レッスンで会う時でもいいから教えてね」
『はい。今から、少し話し合ってきます』
「明日も忙しいから、程々で。それじゃ、明日のレッスンで」
『はい』
「智映ちゃんも早く寝るようにね。おやすみ~」
『わかりました。おやすみなさい』
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