第42話

 日曜にあった、シュステーマ・ソーラーレ総合コンサートの二日目も無事終了した。

 後は、週末のミニライブを六回こなせば今年の仕事は終了だと思っていたら、急遽新しい仕事が六期生に入った。



 +++



「──雑誌の仕事ですか?」

「そう。例大祭の後、あなたたちにも少しだけど取材が来たでしょ?」

「ああ、ありましたね……」

「メインは、梨奈さんたちシュスソーラだったアレですか」

「友菜たちの話題は小さかったね~」


 最近では珍しい、電子書籍だけでなく現物も出している女性アイドル雑誌。

 名前は「pure wink」というのだが、そこが六期生だけの取材を申し込んで来たらしい。


「も、もしかして、表紙ですかっ!?」

「流石に違うみたい。でも、それなりのページが貰えて、写真もカラーで載るようね」

「そ、それは、嬉しいです。前のは、ちょっと……」

「もちろん買って保存してあるけど、扱いが、ね」


 前の時もカラーで写真が載っていたが、四分の一程度の小さい扱いだった。

 後は名前や年齢の紹介と、それぞれの一言が白黒ページに載った程度である。


「……取材は来週土曜の午後。ミニライブ前ね」

「来週土曜……。二十五日、クリスマスですか」


 今年のクリスマスは、仕事で潰れるようだ。

 まぁ、家族以外にクリスマスを過ごす相手はいないのだけど。


「というわけで、健康には気をつけて。風邪とか引かないように」

「も、もちろんです」

「元々、ミニライブがありますからね」


 種山さんの言葉で、レッスン後の連絡会は終わりである。

 シャワーとかも済ませてあるので、後は家に帰るだけだ。



 +++



 そして十二月二十五日、土曜日のクリスマスである。


 この日は雑誌の取材のため、いつもより早い昼過ぎには事務所ビルに到着した。

 撮影用の衣装に着替えた後、ここからみんなで取材場所に移動するのだ。


 写真をたくさん撮るということで、レンタルの撮影スタジオが今回の目的地である。


 ちなみに撮影用の衣装代は、プロダクション持ちである。

 他の仕事の関係で、安く手に入るようだ。

 なお、そのコーディネートに俺たちは一切口を出せない。

 プロダクションの考えで用意された衣装を、言われるまま着るだけである。

 普段から身長・体重にスリーサイズ等を計測されているため、初めて着る服でもサイズはバッチリと合う。



 +++



「──それでは個人のインタビューをしつつ、空いてる人は撮影をお願いします」

「はい」

「わかりました」


 今日は夜にミニライブもあり、その準備もあって多くの時間は取れない。

 結果、空いてる人を極力作らないように、並行して取材と撮影をこなしていく。


 とはいえ、空く時間はどうしてもできてしまうのだが。


「……よし。それじゃ、次は萱沼さん。撮影をお願いします」

「はい。了解です」


 暫く待っていると、先に撮影から入ることになる。



 +++



「はい、もう少し顔を右に、そうそう、いいよ~」


 カメラマンの指示に従い、ポーズを取ってレンズの前に立つ。


 といっても、あくまでインタビュー記事に載る写真だから、そこまで本格的な撮影ではない。

 記者の取材の方が、長く時間が掛かるだろう。


「うん、いいね。これは、撮り甲斐があるよ」

「ありがとうございます♪」


 おだてるようなカメラマンの言葉に、写真用の笑顔を見せて撮影は順調に進んでいった。



 +++



「はい、ありがとうございました。次は萱沼さん、お願いします」

「はい。わかりました」


 コンビを組んでの撮影や複数人の撮影も終わり、後は全員での撮影ぐらいかと考えていると遂に俺の取材の番がくる。

 二十代後半か三十代前半ぐらいの女性の前の椅子に座ると、机の上ではボイスレコーダーが動いていた。


「よろしくお願いします」

「お願いします。……それでは、萱沼さん。インタビューを始めさせていただきます」

「はい」


 雑誌記者は慣れた様子で、形式的な質問を俺に発してくる。

 新人アイドルとしては前の時のインタビューで済ませているので、今回は総合コンサートの質問が中心である。


「初めてのシュステーマ・ソーラーレ総合コンサートの感想は?」

「毎週のミニライブとは観客のみなさまの数が違って、普段以上に舞い上がった気がします」


 うんうんと頷く感じで、彼女は質問を続けていく。


「ファンとして、シュステーマ・ソーラーレ総合コンサートに来たことはありましたか?」

「いえ。小学生の時は両親に行くのを禁止されていましたし、昨年はオーディションでそれどころではありませんでしたから」


 チケット価格の問題もあったし。

 普通の小学生や中学生が出すのは、正直キツい金額だった。


「コンサートのステージで問題はありましたか」

「そうですね……。オープニング曲で少々全力を出し過ぎて、スタミナを消耗してしまったことでしょうか」

「そうだったんですか。……でも、六期生専用曲のステージでは、輝くパフォーマンスを披露してましたよ」

「ありがとうございます。出番まで時間があったので、控室で大人しくしてスタミナ回復に努めてました」


 大体、マネージャーや仲間と想定したようなことを質問される。

 まぁ、プロダクションにもこれまでの資料があるし、そこまで不思議ではない。


「客席のファンたちも、大声援で応援してましたね」

「はいっ! 本当に嬉しくて楽しい時間でした。もっと歌って踊っていたかったです♪」


 にこやかな笑顔に嬉しそうな声で、雑誌記者にも好印象を与えるように頑張る。

 今後の仕事に繋がるよう、小さなことも蔑ろにしないのだ。



 +++



「──これからの活動を楽しみにしています。最後に今後の目標を教えてください」

「それに関しては明確です。まずは、来年の夏にある例大祭での人気投票で、愛称が頂ける順位に入ることが目標ですね」

「わかりました。萱沼さんなら、上位に入れると個人的には思っています」

「ありがとうございます♪」

「では、これにてインタビューは終わりです。ありがとうございました。次は関口さん、お願いします」

「はい。失礼します」


 呼ばれた智映ちゃんに場所を譲り、再び撮影場所に戻る。

 それから八人全員が揃うまで、撮っていなかった組み合わせの撮影を再開した。

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