脇坂 枝里香 2
「来年はよろしくね♪ 一緒のステージ、期待してるから」
美久里ちゃんの耳元で甘く囁くと、その身体を腕の中から解放する。
ステージで汗をかいていたはずなのに、良い香りを漂わせる彼女から離れるのは残念だが仕方ない。
もっと仲良くなれるチャンスはこれからだと、笑顔を見せて別れた。
+++
最近は忙しく、現場に直行ばかりで事務所ビルに立ち寄ることも少ない。
そのせいで、最近密かに狙っている、美久里ちゃんと出会える機会も減った状態だ。
精々、廊下ですれ違った時に挨拶と一言二言交わせる程度である。
それでも、会える機会が有るだけマシなのかもしれない。
高校時代から、ずっと好意を持っている親友には今年に入って二回しか会えていない。
彼女は大学生だからいろいろと忙しく、私のオフとかち合わないことが多いのだ。
まぁ、芸能人だから少ないオフが平日に当たることが多いのも理由だけど。
というわけで、欲求不満が溜まってきている。
そんな中、シュステーマ・ソーラーレ総合コンサートで機会を持てたせいか、暴走してしまった。
リハーサルの時は、良い先輩という態度で接することができたのだけど。
+++
「本当に、あの
「冗談だと思ってた? 涼夏」
年齢は彼女の方が一つ年上だが、同じ二期生で一回目の人気投票から上位という共通点もあって仲がいい。
とはいえ、年下の可愛い女の子が好きな私だから、そういった意味では見ていないけどね。
「いや、枝里香の可愛い
「可愛いアイドルは、見ているだけで癒されるから」
「その辺りの感覚は、わからないよ」
苦笑する涼夏は、やっぱりカッコイイ系だ。
男性の人気を集める私と、女性の人気を集める彼女。
その違いも、仲の良さが続く原因なのかもしれない。
「美久里ちゃんだっけ? 来年の人気投票では上位に入ってくるだろうね」
「ええ! 私たちのグループにも入ってくるでしょうっ!」
「どうして、そんなに力込めたの?」
美久里ちゃんとファン層が重ならない私たちは、彼女に危機感を持たない。
梨奈ちゃんや知実ちゃん、それに妹枠を担っているメンバーも同じだろう。
やはり、今年の人気投票で八位九位の二人が降格する候補だと思う。
「さて、早く着替えてシャワーを浴びに行こう。後ろが待ち侘びているだろうから」
「わかったわ」
+++
人気投票上位のグループということで、私たちは全てが優先されている。
最後までステージに出ていたのに、一番早くシャワー室を使用できるのだ。
正直、アンコールをしている間に何人かシャワーを使わせればいいのにとも思うが、そこは人気商売の芸能界ということだろう。
優先されたくば、人気を集めろということだ。
六期生である美久里ちゃんは、一番最後の番である。
今、シャワーを浴び終わった梨奈ちゃんも、去年は一番最後だったはずだ。
「お先に失礼しますね」
「うん。身体を冷やさないようにね、梨奈ちゃん」
「暖房があるので、大丈夫ですよ」
「油断は禁物だよ」
「はい、涼夏さん。では、控室に戻ります」
バスタオルを身体に巻き付けた彼女は、そう言ってシャワー室から出ていった。
「私たちも早く上がらないと」
「後が詰まっていそうだしね」
美久里ちゃんと話して遅れた私と、一緒に控室に戻った涼夏で最後になる。
軽く汗を流すとタオルで水気を取り、バスタオルを手に取った。
家に帰ってからもう一度お風呂に入り直すので、ここではこれぐらいで充分。
「ふぅ……」
涼夏も同じ考えなのか、ほぼ同時にシャワーブースから出てくる。
「枝里香。……また、胸大きくなったんじゃないか?」
「そんなことないわ。仕事の関係上、よくサイズを測るけど胸に関しては変わってないから」
バスタオル姿の私を少し眺めて、彼女はそんなことを言ってくる。
最近、変わったのはウェストとヒップぐらいだ。
どう変わったのかは秘密。
「それより、さっさと行くわよ。明日もあるんだから」
「そうだね。でも、明日が終わっても暫くは忙しい日々が続くな~」
人気アイドルグループである私たちにとって、十二月から新年に掛けては仕事だらけの稼ぎ時である。
年始の三が日を越えて、ようやく休みが一日もらえるかどうかぐらいだろう。
それも、疲れや寝不足を解消するためだけに消費されると思う。
「まずは明日よ。それが終われば、数日はそこまで大変な仕事は無いから」
「そこから、大晦日に向けて忙しくなるのが、ここ二、三年の恒例だね」
私たちは経験があるからいいけど、初めての梨奈ちゃんは大変そうだ。
先輩として、このチャンスを生かして一段と仲良くなろう。
もちろん、美久里ちゃんとの仲も深めていかないとね。
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