第40話

 内部グループ『シュステーマ・ソーラーレ』による最後のステージが始まる頃、残っていたメンバーで控室を出る。

 梨奈さんたちの三曲とトークタイムが終わると、エンディング曲となりフィナーレを迎える予定だ。


「いよいよ、終わりですか」

「と言っても、明日もありますから」

「その前に、アンコールがあるでしょ」

「私たちには関係ないけどね」


 俺の他はのぞみちゃんと智映ちゃんは当然として、紫苑さんと茉美さんがいる。

 残りの三人は、『ドワーフ・プラネット』のステージが始まる予定時間に控室を出ていった。


「おっ、来たね~」

「金谷さん。今、どんな感じ?」

「ちょうど、シュスソーラが出て行ったところ~」


 リーダーと友菜さんの会話を聞いて舞台袖からステージを覗くと、梨奈さんに知実さんや枝里香さんが歌って踊り始めていた。


「まずは連続で三曲……」

「その後のトークタイム中に幕が落とされ、その後ろでオープニングと同じセットを。……という感じでしたよね?」

「そうよ。ただ、立ち位置がオープニングとは逆になるから注意してね」


 誰かが確認のためか口に出した言葉に、種山さんが反応する。

 オープニングの時の俺の立ち位置は一番上手かみて側に近い縦列だったが、エンディングでは逆に一番下手しもて側となるわけだ。

 前から三列目というのは変わりない。

 前後のメンバーも変わらず、隣のなおみさんが右隣から左隣となる。


 とにかく、やることは同じだ。

 アンコールに関係ないので、体力を気にせずエンディングでも全力を出す。

 目立たない端の立ち位置だから、印象を残すため遠慮している場合ではない。


 と言っても、そう簡単でもないのだが。



 +++



 一軍格『シュステーマ・ソーラーレ』の最後の曲が終わると、連続して最後のトークタイムだ。


 梨奈さんたちがステージの前方に進むと、その後方に左右から引割り緞帳で客席から隠される。

 そして上手下手の舞台袖から、オープニングで使われた階段状のセットが急いでステージ上に運ばれた。


 真ん中をくっつけて一つにすると、俺たちも自分の場所に急ぐ。

 立ち位置に着くと、ゆっくりと息をして呼吸を整える。


 そうしていると、緞帳の向こうで梨奈さんの声が聞こえた。


『それでは、最後の曲となります。……シュステーマ・ソーラーレフルメンバーによる『Comet Traveler』です』


 その声に緞帳が中心から二つに割れ、歓声やスポットライトがステージの奥まで届いてくる。

 梨奈さんたち九人も急いで立ち位置に移動し、動きを止めて曲のイントロを待つ。


 流れなので仕方ないが、他のメンバーがシンプル目なシュス・ソーラ基本衣装なのに、彼女たちは輝く特別衣装だ。

 これは、力を込めていかないと全然目立たないかもしれない。


 とはいえ、エンディング曲の『Comet Traveler』は大人しめのしっとりとした曲である。

 オープニング曲の『銀河の光は永遠に』とは違い、ダンスも激しくないものだ。


 その中を、端の立ち位置という悪条件で目立とうとするのはなかなか大変である。

 みんな、同じダンスだから、そこで差をつけるのが一番なのだが。



 +++



「きゃぁぁぁ!!!」

「梨奈ちゃ~ん!!!」

「知実ぃぃぃ!!!」


 ポーズを決めエンディング曲が終わると、爆発的な拍手と歓声が客席からステージに降り注ぐ。

 正直、オープニング曲ほどには存在感を示せなかったと思いながら、階段状のセットを降りていった。


 フィナーレは緞帳が下ろせることができるギリギリの位置まで前に出て、横一列でのお別れだ。

 新人な俺は、紗綾香さんに佐起子さんや智映ちゃんと下手側の端の方に立っている。


 そこで両手を振って、コンサートに来てくれた感謝を述べるだけだ。


「来てくれて、ありがとう~~~!!」

「ミニライブにも来てね~~!!」


「紗綾香ぁぁぁ!!」

「美久里ちゃ~ん!!!」

「智映ぇぇぇ!!」

「美久里ぃぃぃ!!!」

「佐起子ちゃ~~ん!!!」


 人気メンバーへの歓声の中に、俺たちへの声援も聞こえる。

 あまりの観客の数に正確な場所はわからなかったが、魅了する微笑みを浮かべて可愛く両手を大きく振って応えた。



 +++



「ありがとうございましたっ!!」

「来年も、よろしくね~!!」


 シュス・ソーラツートップである梨奈さんや知実さんの言葉を合図にして、ゆっくりと緞帳が左右から閉じられていく。

 端の方だった俺たちは早く幕の影に隠れ、最後には中央まで緞帳が閉じられた。


『アンコールッ!! アンコールッ!! アンコールッ!!』


 お約束のアンコールの中、階段状のセットが慌ただしく撤去され、俺たちも舞台袖に下がる。

 ステージ上には内部グループ『シュステーマ・ソーラーレ』の九人が残され、舞台中央に移動していた。


『アンコールッ!! アンコールッ!! うおおおおぉぉぉ!!!』


 緞帳が開かれると、アンコールの大合唱から爆発的な大声や奇声へと変化する。

 それらを浴びながら、梨奈さんをセンターとするグループが再び歌って踊り始めた。



 +++



 それを見届けると、紗綾香さんたちと舞台裏に移動する。

 既にのぞみちゃんたちや種山さんに松園さんもそこにおり、六期生関係者が一堂に会した。


「お疲れ様~」

「そちらも、お疲れ様~」


 リーダーと副リーダーがお互いにねぎらう横で、俺はのぞみちゃんに近付く。


「のぞみちゃんっ!」

「み、美久里ちゃんっ!?」


 彼女の両手を取り、ニギニギしつつ話し掛ける。


「お疲れ様。そっちはどうだった?」

「大丈夫でしたよ。何も問題は起こりませんでした。そちらは?」

「こっちも大丈夫。ちゃんとできたと思うよ」


 お互いに両手を握り合い、緊張から解かれて浮かれた感じで話し合う。

 他のみんなも同じような状態で、暫くは会話の花が咲いた。


「はいはい。そろそろ、控室に戻るわよ。アンコールも終わったようだから」

「あっ、ホントだ……」

「また、アンコールされてますけど、どうするんですか?」


 知らない内にアンコールのステージも終わっており、再びアンコールの大合唱が聞こえる。


「まだ、明日もあるから今日は終りね。最後のステージなら、もう一回する可能性もあるけど」

「ああ、もう終わった気がしてましたけど、明日もあるんでしたね……」

「みなさん、忘れないでくださいよ」

「私は覚えてましたよ。松園さん」

「あはっ♪」

「それでは、控室に戻りますか」

「はい」


 みんなで笑い合った後、漸く控室に向かおうとする。

 俺も最後方でついていこうとすると、突然後ろから抱き着かれた。


「うわっ!」

「美久里ちゃん、おつかれさま♪」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る