第39話
「こんばんわ~、萱沼 美久里です♪ みんな、楽しんでる~~~!!」
「イエーイ!!!」
「楽しんでるよぉぉぉ!!!」
「ひゃぁぁぁ!!!」
俺の問い掛けに、客席のファンから悲鳴じみた歓声が叫ばれる。
この、梨奈さんに浴びせられるのと同等の声援を聞くだけでも、シュステーマ・ソーラーレメンバーに俺の人気の高さは理解されるだろう。
来年の例大祭での人気投票では上位に来るぞ、と。
「うわ~。すごい声援だね。……それでは最後に、六期生の妹、関口 智映っ!」
「……こんばんは。関口 智映です。お姉さんたちを目標に、がんばっていきますので応援してください♪」
「可愛いぃぃぃ!!」
「智映た~ん!!」
智映ちゃんの番を終え、漸く自己紹介タイムの終了である。
次は、六期生によるトークタイムだ。
流石に、初めての俺たちに自由に喋らせる気は運営になかったようで、台本通りにトークするだけだ。
「……さて、初めての総合コンサートだけど、みんなはどう?」
六期生を紹介し続けた紫苑さんに代わり、口火を切るのは紗綾香さんだ。
「やっぱり、ミニライブと違って観客のみなさんが多いから」
「うん。声援が凄いよね」
「ミニライブでも初めての時は緊張でおかしくなりそうだったのに、人が増えてどうなるか心配でした」
茉美さんと佐起子さん、智映ちゃんが台本通りに話す。
この三人は、アドリブを効かすこともないと安心できる。
「昨日のみんなを見てると、今日どうなるかと思ってました」
「美久里ちゃんぐらいだったよね? 普段と変わらなかったのは」
「確かに~。みんな、表情固まっていたね~」
俺ものぞみちゃんも台本に書かれた通り、発言する。
勝手に不安に思っていた友菜さんも、ここではアドリブに走らなかった。
「あははぁぁぁ」
「大丈夫~?」
「初めてだから、仕方ないよ~!」
俺たちのトークに、客席からは笑いや励ましの言葉が飛ぶ。
「それが、今日になったら大丈夫っぽくなってんだよね。みんな」
ここで紫苑さんもトークに入ってきた。
これで、全員がトークタイムに一言は話したことになる。
「なぜなんだろうね」
「これも、経験を積んだからとか」
「デビューして、まだ四ヶ月弱なのに?」
「う~ん。みんなは、どう思う?」
代表して、リーダーが客席に問い掛ける。
この返事を聞いて纏めると、次の紹介をして俺たちの中盤における出番は終わりだ。
「度胸がついたぁぁぁ!!」
「わかんない~!」
「開き直り~!!」
ファンたちの答えは様々だ。
それに応じて、上手く台本に合わせて喋らないといけない。
「開き直りですか……」
「それなら、度胸がついたというほうがいいかな」
ここでの出番は、のぞみちゃんと俺の担当である。
無難に観客の言葉を拾えたと判断して、紫苑さんに視線を送る。
「そうだね。開き直りかもしれないけど、度胸がついたということにします」
「了解~」
「わかりました。……って、紫苑さんっ! スタッフさんから指示が出てます」
「んっ? ……どうやら時間が押しているので、私たちのトークは終わりのようです」
「それは残念。もう少し、お話したかった……」
「ミニライブでもトークはあるので、来てくださいね♪」
「それでは、続いてセブンス・サテライトの登場です」
「私たち六期生とは、エンディングでお会いしましょう」
「ばいばい~」
「またね~」
「さようなら~」
「行かないで~~~!!」
「うおおおぉ!!!」
「みくりん~~~!!!」
「のぞみん~~~!!」
両手を大きく振り、歓声や名前を呼ばれながら
初めての総合コンサートでの六期生によるステージは、成功裏に終わったと思った。
+++
「途中だけど、まずはお疲れ様」
舞台袖に戻った俺たちを出迎えてくれたのは、種山さんと松園さんだ。
他には少人数のスタッフだけで、シュス・ソーラーメンバーは皆無である。
「ど、どうでしたか?」
「大丈夫です。問題は無かったように見えました」
「よ、良かった~」
紫苑さんの問い掛けに対するサブマネの答えを聞いて、茉美さんが安心したような声を出す。
「後はエンディングとフィナーレね。それまでは、休憩でも見学でも任せるわ」
「わかりました」
「とりあえず、控室で休憩してきます」
「友菜も~」
遠慮していた分、体力に問題無い俺はどうしようか。
「智映も控室に戻ります。美久里さんはどうしますか?」
「そうだね……。一度、控室で落ち着こうかな」
「それがいいかも。みんな、アドレナリンが出て、疲れているのがわからないだけかもしれないし」
「のぞみも戻りますね」
「じゃあ、みんなで控室に行ってきますね。種山さん」
結局、六期生全員が控室に戻ることにした。
まぁ、今のステージ上に居るのは『セブンス・サテライト』なので、そこまで見学したいとも思えないし。
「わかったわ。エンディングの十五分前には集まってね。呼びにも行くけど」
「はい。新人の私たちが、先輩方より遅くなってはダメですからね」
「では、少し休憩に入ります」
「はい。しっかり身体を休めてくださいね」
六期生のマネージャー二人に見送られ、まずは舞台裏を目指す。
そこから控室の中で一番遠い、六期生に用意された一室に向かった。
+++
「ふぅぅぅ。まずはクライマックスを越えたかな……」
控室へ戻ると、佐起子さんが大きな息を吐いて疲れたように椅子に座り込む。
ここに来ると、夢舞台から
「まだ、エンディング曲があるから気を抜いてはダメよ」
「でも、全員な分、気は楽だよね~」
「それはあるけどね。見てる人は見ているよ」
六期生八人よりシュス・ソーラ四十八人の方が、人数的に人気的にも注目が減る。
そう考えれば、先ほどの専用曲披露の時が一番山場だったのは間違いない。
「トークも上手くいけたし、初めてにしては良かったんじゃないかな?」
「種山さんたちの様子を見ると、上出来だったような気がする……」
「そりゃあ、最初から最後まで台本が有ったからね。先輩たちみたいに最初だけで、後はアドリブでとかだったら悲惨なことになっていたかも」
確かに、そうなると何人かが途中で固まっている光景が余裕で想像できる。
「来年は、そうなるんだからね」
「うわぁ……」
「ミニライブで練習しないと、いけませんね」
リーダーの無慈悲な言葉に、絞り出すような苦鳴を出す人やポジティブに経験を積もうとする人など反応はそれぞれである。
その時は、一当てして後は流れでいこうと俺は思っている。
「ところで、これからどうするの?」
「もう少し休んで、ドワーフ・プラネットのステージが始まったら、見に行こうかな」
「私は、梨奈ちゃんたちの番がきたら見学しに行くつもり」
「そのまま見てたら、エンディングになるからいいわね」
「のぞみも、そうしますね」
「その前に、トイレだけ済ませておこうかな」
もう暫くは、このままの状態が続くようだ。
隣に座るのぞみちゃんや智映ちゃんとの、お喋りを楽しもう。
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