第38話

「う~ん。やっぱり、レベルが違うな~」

「ちょっと、アンバランスな気がしますね」


 みんなが言う通り、梨奈さんと他の五期生との、歌やダンスの力量差が大きすぎる。

 客席のファンたちにもわかるのか、声援はシュステーマ・ソーラーレエースの彼女に集中していた。

 可愛さでも群を抜いているから、当然と言えるが。


「梨奈ちゃん、すごい……」

「ええ、本当に……」


 紫苑さんや茉美さんは、ステージ上で繰り広げられるパフォーマンスに釘付け状態だ。

 俺はと言うと、梨奈さんやっぱり可愛いという感じで稀有な美貌に釘付けである。


「……歌が終わります」

「次のトークも終わると……」


 五期生たちの動きが止まり、締めポーズと共に曲が終わる。

 そこから横一列に並び直すと、梨奈さんと並んで中心にいる女性がマイクを持って喋り出した。


「こんばんは~!! 五期生リーダー、トリトンこと、重倉しげくら 亜李沙ありさですっ!!」

「亜李沙ちゃ~ん!!」

「りなり~ん!!!」


 セブンス・サテライトの一員でもある、リーダーの彼女に対する声援もあるが、やはり梨奈さんへの声援が圧倒的である。

 他にも五期生にはセブンス・サテライト所属が一人いるのだが、圧倒的に人気が集中するのも問題があるように思えてきた。


「本日はご来場頂きありがとうございます。それでは五期生の仲間たちを紹介していきますね♪」

「おおぉぉぉ!!」

「まずは、五期生副リーダーの──」



 +++



「……では、次に、五期生どころか、シュスソーラのエースッ! ソールこと、武智たけち 梨奈りなぁぁぁ!!」

「はい、こんばんは。武智 梨奈です。声援、ありがとうございます♪」

「きゃあぁぁぁ!!!」

「梨奈ちゃ~ん!!!」

「好きだ~!!!」


 六番目に紹介された梨奈さんが挨拶を終えると、爆破的な声援がステージに降り掛かる。

 舞台袖から覗いているだけの俺でも、見えない圧力を感じてしまうほどだ。


「うわぁ、やっぱりすごい声援だね。じゃ、次にいくよ~。五期生の妹っ!──」


 残った二人も紹介されていくが、この客席の雰囲気ではつらいものがある。

 人気者の後は、ババを引いている感がめっちゃ凄い。



 +++



「──二年目ともなると、少しは余裕あるね」

「去年は、声震えていたし」

「うん、ほんと」


 五期生のトーク時間が続く。

 流石に普段の関係性をファンたちに見せるわけにもいかないでの、梨奈さんにも話が振られる。

 ここだけ見ていると、シュス・ソーラで一番関係に問題がある期生には全く見えない。


「おっと。そろそろ次にと、スタッフから指示がありました」

「残念。もっと、お喋りしたかったのに。ねぇ?」


 五期生リーダーの言葉に、他のメンバーが観客に問い掛ける。


「もっと、聞きたいぃぃぃ!!」

「延長してぇぇぇ!!」

「残念だけど、そういうわけにもいかないんだな。これが」

「それでは、バトンタッチといきますか」

「はい。次は初めての総合コンサート、六期生の登場ですっ!」

「応援してあげてね。では、また会いましょう」

「ばいば~い♪」


 声援と拍手を浴びながら、五期生は手を振りつつステージを去っていく。


「さぁ、私たちの出番よっ!」

「「「はい」」」

「了解~」

「わかりました」


 気合を入れるような紫苑さんの言葉に、仲間が答える。


「頑張ってきなさい」

「応援しています」

「「「はいっ!」」」

「行くよっ!」


 種山さんや六期生サブマネージャーの松園さんの声に押し出され、俺たちは照明に輝かされたステージへと飛び出していった。



 +++



「わぁぁぁ!!!」

「美久里ぃぃぃ!!!」

「のぞみお嬢様ぁぁぁ!!!」


 大きな声援を浴びた俺たちは、頂点を欠いたV字形のフォーメンションを組み出す。

 ミニライブで何度も経験した動きでスムーズに隊列を組むと、ポーズを取り動きを止めた。


「おぉぉぉ…………」


 少し歓声の強度が落ちると、六期生専用曲である『ヘキサグラム×オクタゴン』のイントロが流れる。

 それに合わせて、俺も身体を動かし始める。

 まずは、のぞみちゃんとのデュエットパートだ。

 右手に持ったマイクを口に近付けて、彼女と軽く視線を合わせると声を出し始めた。


 今回は突出しないように自重して、歌もダンスも俺基準で控え気味にいく。



 +++



「うほぉぉぉ!!!」

「ぎゃあぁぁぁ!!!」


 歌い終わりダンスと曲が止まると、歓声というか奇声がアリーナに響き渡る。

 それを聞きながら、俺たちはV字形を横一列にした並び方でステージ前方に進んだ。


「みなさん、こんばんはぁ!」

「こんばんわぁぁぁ!!!」

「おおぉぉぉ!!!」

「今回が初めてとなります、シュステーマ・ソーラーレ六期生で~す!!」


 紫苑さんの言葉に、歓声と拍手が鳴り響く。

 少し待ち、それが落ち着いたところで彼女は自己紹介を始めた。


「え~、六期生でリーダーを務めてます、大和田 紫苑です。よろしくお願いいたします」

「紫苑~~~!!」

「ありがとう。……それでは、六期生のメンバーを紹介していきますね♪ まずは、副リーダーを務める松延 紗綾香からっ!」

「こんばんは。六期生副リーダーの松延 紗綾香です♪」

「紗綾香ちゃ~ん!!」

「声援、ありがとう──」



 +++



 問題無く、紹介と挨拶は進む。

 茉美さんから友菜さん、佐起子さんと例大祭の時とは全然違う順調さだ。


「……続いて、六期生のお嬢様、七澤 のぞみっ!」

「ご紹介にあずかりました七澤 のぞみです。よろしくお願いいたします」

「のぞみちゃ~ん!!!」

「のぞみさまぁぁぁ!!!」


 六番目にのぞみちゃんが紹介されると、一段と歓声が大きくなる。

 やはり、彼女の人気も凄いものだ。


「礼儀正しさは基本ね。……では、次に紹介するのは、六期生のエース候補、萱沼 美久里っ!」

「きゃあぁぁぁ!!!」

「うおおおおぉぉぉ!!!」


 俺の名前が紫苑さんの口から出ると、歓声が更に高まる。

 その、耳に悪そうな大きな声援の中、マイクを手に俺は自己紹介を始めた。

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