第30話
CM撮影を無事終えた俺だが、それ以降は個人の仕事が来ない。
まぁ、それは当然だ。
シュステーマ・ソーラーレの可愛い子を使いたいというクライアントが、一番に候補にするのは武智 梨奈である。
業種が被り、梨奈さんでは無理となって、初めて俺に話が流れてくるといった感じだろう。
そして今のところは、そんな話も無いようだ。
というわけで、今の俺はレッスンとミニライブを頑張る日々を送っている。
ミニライブで歌える曲も三曲となり、グループの戦力となっている実感が皆に湧き上がっていて、六期生の士気は高い。
おかげで個人の仕事が有った俺やのぞみちゃんに対する感情も、そこまでマイナスにはなっていないようだ。
そんな十月の中旬。
待っていた新しいイベントが六期生全員に起こった。
+++
「──サイン会ですか」
「ええ。来月に出るアルバムCDに、ヘキサグラムオクタゴンが収録されるのは知っているわね」
「それはね~」
「当然です」
レッスン前に集合した俺たちに、六期生統括マネージャーの種山さんから出た言葉はサイン会だった。
アイドルとしてデビューし約二ヶ月、漸くそんな話が来たかという感じである。
「今回のアルバムには、かなり事務所上層部も力を入れていてね」
「梨奈ちゃんが、メインだからですか?」
「そうかもね。……それで、宣伝のために全国津々浦々でサイン会を開くという話が出ているの」
「全国でですかっ!?」
いきなり話が大きくなった。
全国ということは、シュス・ソーラのメンバーも忙しくなる。
「そう。シュスソーラのメンバーを三人ずつに分けて、たくさんの地域に派遣しようってね」
「三人一組ですか……」
現状のシュス・ソーラの総人数は四十八名。
三で割って、十六の場所でサイン会を開くということか。
「三人ずつですと、六期生は割り切れないんですが……」
「ええ。だから、付属養成所出身の大和田さんと関口さんが、上の子とチームを組むことになると思うわ」
なるほど、おそらく養成所で顔を合わせたことのあるメンバーを二人と組ませるのだろう。
後は、残った六人をどう分けるかだな。
「残った六期生の振り分けは、どうなってますか?」
「私としては、松延さん、古澤さん、七澤さんで一チーム。残りの三人でもう一チームと考えています」
残念、俺とのぞみちゃんは別の組になるのか。
まぁ、チームのバランスを考えれば仕方ない。
「私と友菜ちゃんに美久里ちゃん、ですか……」
「はい。それが一番良い分け方だと判断してます」
茉美さんの言葉に、六期生サブマネージャーの松園さんが答える。
人気を考えて、俺とのぞみちゃんを分ける。
神様チートで精神的に強い俺と、副リーダーの紗綾香さんも分ける。
後は年齢や性格を考えて、振り分けた感じか。
「行くところは決まっているんでしょうか?」
「まだ確定ではありませんが、大体は固まっております」
「市原さんと古澤さん、二人の地元の可能性が高いわね。他にその県の出身者がシュスソーラにいないから」
「ほ、本当ですかっ!?」
「それなら、おじいちゃんやおばあちゃんも見れそう……」
サブマネと統括マネの言葉に、名前の出た二人が驚いたり喜んだりしている。
六期生初めての地方遠征というわけだ。
「次の会議で決まるから、本決まりじゃないけどね」
「うぅ……。ぜひ、そこでお願いしますっ!」
「私からも、お願いします」
「わかったわ。頑張ってみる」
他に紗綾香さんも地方出身者だが、その県出身者には他に上位メンバーがいたはずだから、行くとしてもその人が担当するだろう。
それを理解している彼女は、口を閉ざしているのだと思われる。
「……土日ということは、ミニライブは休みですか?」
「ええ。そうなるわ。平日も使用せずに空いた二週間弱で、ライブハウスの手入れや清掃を隅々までやる予定なの」
例大祭を行った週末から、ずっと土日はミニライブでライブハウスは稼働している。
平日の使っていない日に清掃等はしているらしいが、この機会にいろいろ手を入れるのだろう。
+++
「あぁ……。残念です。美久里ちゃんとご一緒できなくて……」
「そうだね。でも、まぁ、仕方ないよ。運営の判断だしね」
「うぅぅ。……あっ、そうですっ! プライベートで一緒に旅行というのはどうでしょう?」
「ず、ずるいですっ! 智映もご一緒したかったのにっ!」
レッスン後にのぞみちゃんと智映ちゃんと三人、休憩室で身体を休めつつおしゃべりをする。
やはり、話題はレッスン前に聞かされたサイン会のことだ。
俺たち三人は、残念ながらバラバラとなる予定らしい。
「プライベート旅行か~。楽しそうだね」
美少女との、私的な旅。
当然泊まる部屋も一緒で、普段とは違う環境に彼女の態度も今までと違って。
なんて、妄想が捗る。
「うん。絶対、楽しそう♪」
「智映も参加希望しますっ!」
温泉も有って、一緒に入ったりなんかして。
のぞみちゃんや智映ちゃんの白い肌が、ピンク色に染まるわけだ。
夜は旅館なら布団を並べて、ホテルならベッドをダブルとかにして一緒に寝るとか。
いや、いいね。
本当に行きたくなる。
「まぁ、行けるような休みがないだろうけど」
「……毎週土日は、ミニライブがありますしね」
「学校の長期休みも、レッスンとかで埋められますし……」
そう、デビューしたばかりの新人アイドルに、まともな休日なんてないのだ。
「十二月には、総合コンサートもあるしね」
「新しい曲も覚えないといけませんし、忙しくなりますね」
「学校も休むことが、増えそうです……」
会話しているうちに、現実が見えてくる。
想像以上に、アイドル稼業とは大変なものだ。
可愛い女の子と出会える機会と思わなければ、とてもやってられない。
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