第29話
「おはようございますっ!♪ フォルテシモ所属、
「おお、今日はよろしくな」
十月第一週の平日、俺は学校を休んでCM撮影の現場に来ていた。
冬の装いである街の風景をバックに撮るため、映像撮影用のスタジオの中である。
監督やCM依頼主の関係者に媚びを売りつつ、挨拶を繰り返す。
共に来た種山さんも、挨拶に名刺交換に忙しそうだ。
まだ、時間前なので共演するもう一人は来ていない。
新人の俺が彼女より遅れるわけにもいかないので、ちょうどよかった。
「美久里ちゃんは可愛いね。他の仕事も頼もうかな」
「ありがとうございます♪ そのような話があれば、マネージャーにお願いしますね♪」
周りの本気だが冗談だかわからない話に、武器の笑顔を輝かせる。
大した労力ではないから、愛嬌を振り撒くのに抵抗は無い。
「初のCM撮影なんだって? これからたくさん仕事が来て、CM女王を狙えそうだな」
「いえ。フォルテシモには武智 梨奈さんがいますから、難しいと思います」
「ははっ。確かに彼女は強敵だな」
暫く監督やスタッフたちと歓談していると、スタジオの入り口の方に動きがあった。
「宮下さん、準備OKです! 今から入りますっ!」
スタッフの言葉に、本日の共演相手が現れたことを理解する。
いよいよ、CM撮影の始まりだ。
+++
「……遅くなって申し訳ありません」
「いえいえ。時間になっていませんから、何も問題ありませんよ。ね?」
「ええ。本日はよろしくお願いします」
入り口から入って来た女性が、まずは監督やクライアントに挨拶をしている。
頃合いを見て、俺から挨拶をした。
「初めまして。フォルテシモ所属、萱沼 美久里です。今日はよろしくお願いします」
「はい。イノセントスマイルの宮下 美穂です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
微かに微笑みを浮かべる彼女は、俺や梨奈さんに匹敵する超絶美少女だ。
+++
『
俺より二歳年上の彼女は小学校高学年のころから読者モデルをしていて、その美少女ぶりは有名だった。
俺もローティーン向けファッション雑誌を見て、色んな意味で仲良くなれたらいいなと思っていた相手である。
まぁ、俺がモデルよりアイドルの方を希望していたのもあって、簡単には知り合いにもなれないと思っていた。
それが早くも本人と会うことができて、仕事も一緒にできるということに幸運を覚えている。
それも、美穂さんのモデルの仕事が減ったのもあり、他の仕事を増やしてせいであろう。
理由は彼女の身長にある。
公式プロフィールでも、俺より少し小さい百五十七センチなのだ。
これでは、ファッションモデルとしてやっていくのも難しいだろう。
せめて、低くても百六十五センチは欲しいところだ。
体型はモデルらしい、すらりとしたスレンダーである。
そんな彼女の外見は、髪色を除けば大和撫子風だ。
背中ぐらいまである髪を茶髪系にしていなかったら、俺によく似た雰囲気だろう。
それこそ姉妹みたいな感じで。
+++
「ふぅ……。やっぱり、少し暑いですね」
「スタジオだから、まだマシよ。これが外での撮影だったら大変だわ」
冬の十二月頃から流れるCMということで、服装も冬服である。
しかし、実際の月日は十月初旬。
この地球温暖化が叫ばれる世においては、まだまだ暑いのが現実だ。
一応、冷房が効いているだけ外よりはマシだが。
「でも、これから温かい飲料を飲むんですよね」
「そう。だから早く終わるように頑張りましょ」
「わかりました」
俺と揃った衣装の美穂さんと会話を重ねる。
「……撮影始まります。準備の方、お願いします」
「はい」
「わかりました」
年上の美人なお姉さんと、もっとおしゃべりを楽しみたかったがスタッフのお呼びが掛かる。
こんな美味しい機会はそうは無いので、激しく残念だ。
+++
CMの撮影は順調に終わった。
数パターンは撮ったが、基本的に内容は同じである。
美穂さんと姉妹設定で仲良くホット飲料を飲み、最後に商品名を告げるだけだ。
神様チート持ちの俺には、簡単なお仕事である。
ただ、暑いことが大変だっただけだ。
「ふぅ……」
「お疲れさま。美久里ちゃん」
「あっ! 美穂さん、お疲れさまでした」
撮影を続けていくうちに、彼女とも仲良くなれた気がする。
まぁ、撮影がスムーズに進むための処世術かもしれないけど。
「暑かったですね」
「そうね。でも、仕方ないわ。ファッション雑誌のモデルの時よりは楽だったし」
「やっぱり、モデルの撮影でも季節感は無視ですか」
「ええ。CMの撮影より大変よ」
そう言って、美穂さんは読モ時代の苦労を語ってくれる。
今回以上の真夏での冬服や、真冬に軽装で震えが止まらなかったとかの経験をしてくれた。
「それも、外での撮影だからね。身体がおかしくなりそうだったわよ」
「そうなんですか。雑誌で見る写真は笑顔でしたけど、裏ではそんな苦労があるんですね」
超絶美少女たちの会話に、周りで仕事をしている男性スタッフたちがチラッチラッと視線を送ってくる。
その心は、よくわかる。
俺や美穂さん
そんな希少な存在が複数揃ってるところなんて、そうはないだろう。
シュステーマ・ソーラーレでも、来年の例大祭を終えないと見られない光景だ。
過ぎれば、俺と武智 梨奈さんが同じ場に居ることになるはずだからね。
「……美穂ちゃん。監督との話も終わったから、次の現場に行きましょう」
そんなことを考えながら美少女との会話を楽しんでいると、四十代ぐらいの女性が彼女に話し掛けてくる。
「うん。わかった。……じゃ、美久里ちゃん。どこかで共演することがあったら、よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。お疲れさまでした、美穂さん」
「美久里ちゃんも、お疲れさま。それでは、失礼します」
彼女は、気付くと俺の傍に来ていた種山さんに頭を下げる。
そして俺には笑顔で軽く手を振ると、監督たちに挨拶をしつつスタジオから出て行った。
「……萱沼さん。そろそろ、私たちも戻りましょう」
「あっ、はい。そうですね、種山さん」
俺たちもクライアントや監督、プラスしてスタッフたちにも挨拶をしてスタジオから去る。
この後の予定が何も無い俺は、プロダクションの自社ビルに戻るだけだ。
それにしても、流石は芸能界。
可愛くて魅力的な女性が多い。
今後もそんな美女や美少女たちと出会えるように願いながら、統括マネージャーが運転する車に乗り込んだ。
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