第27話
八月が終わり、カレンダーが九月に変わった。
女子中学生の俺にとっては、夏休みが終わり二学期が始まるということでもある。
真夏と遜色ない暑い日差しを浴びつつ、教室へギリギリに着くように自宅を出て中学校に向かう。
俺の学校はごく普通の公立で、自宅から徒歩五分もかからない場所にある。
その学校に近付くにつれ、通学路の途中で視線を感じる頻度が増した。
元々、学校では美少女で有名な俺がアイドルになったのだから当然だろう。
話し掛けたいけど話し掛けられないみたいな雰囲気の中、校舎に入り教室を目指す。
クラスメイトはどんな反応を示すのやら。
+++
「おはよう」
教室のドアを開け入室しながら、朝の挨拶をする。
「あっ……」
「…………、……おっ」
既に登校していたクラスメイトたちは、俺の方を見ると黙り込んでしまう。
沈黙を無視して自分の席に移動し座ると、それなりに仲の良い右横の席の女子が話し掛けてきた。
「おはよう、萱沼さん。……アイドルになったんだね」
「おはよう。……秘密にしないといけないから誰にも言えなかったんだ。ごめんね」
「そうなんだ。テレビで見て、ビックリした」
先頭を切った人がいたからか、続いて話し掛けてくる人が次々と出てきた。
「ああ。夜中、テレビ見ていたら、知ってる人が出てくるんだからな」
「可愛かったよ。萱沼さん」
「人気のシュスソーラに入れるなんて、凄いね」
「萱沼さんなら、おかしくないだろ」
後から登校してきた人も参加してきて、俺の席の周りの人口密集度が酷いことになってきた。
「ありがとう」
「仕事が忙しくなったら、学校来れるの?」
「う~ん。一年間は、そこまで忙しくなることはないらしいけど」
「でも、萱沼さんなら、すぐに人気になりそうだけど」
「だったら、いいんだけどね」
スクールカーストの一軍から二軍にかけての男女に、連続で話し掛けられる。
覚悟はしていたが、やっぱり面倒くさい。
「……ところで、梨奈ちゃんのサインとか貰えないかな?」
「俺は、知実さんのが欲しいっ!」
「わ、私は涼夏様のが……」
最後の涼夏様は『
彼女は二期生で、最初の例大祭から内部グループ『シュステーマ・ソーラーレ』に所属している。
愛称は『サートゥルヌス』で、先月行われた人気投票でも七位だった。
ちなみに、グループ内では男役みたいな感じだが意外と胸は有る。
「ああ、ごめんね……。シュスソーラ内でサインを頼むことは禁止されているんだ」
「えぇ……。残念」
「一体、どうして?」
「やっぱり、頼まれる人は集中するからサイン書くのが大変だったとか」
頼まれない人は全く需要が無いし、妬み嫉みでいろいろあったんだろう。
「仕方ない。萱沼さんに迷惑だろうし、サインは諦めるぞ」
「……そうだね。決まりじゃ仕方ないよね……」
何か言いたそうな人もいたが、男女のカーストトップがこう言ってくれたので、この話は終了。
ほぼ同時にチャイムも鳴ると、教室の前のドアが開いて担任が入ってきた。
「……もう時間だぞ。席座れ~」
「は~い」
俺の周りから生徒が立ち去り、自分の席へ散らばっていく。
「さて、夏休みも終わったが、どんな──」
+++
夏休み明けの今日は、始業式があるぐらいである。
ただ、俺だけはアイドル活動のことで最後に呼び出された。
とはいっても、オーディション合格時に報告していたこともあって大したことはない。
今後、芸能生活が忙しくなって学校生活に支障が出た時にどうしようかというぐらいだ。
それが本格的に問題になるのは、来年の例大祭が終わってからであろう。
一軍格の内部グループ『シュステーマ・ソーラーレ』に所属したら、流石にいろいろと忙しくなる。
中学三年生の二学期からという高校受験の時期に直撃するが、その辺りのノウハウは所属プロダクションにあるはずだ。
成績に関しては前世がある分、楽にトップレベルを維持しているので普通に受験しても良いが、芸能科がある私立高校を狙っている。
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