第24話
開けて日曜日。
本日は二回目のミニライブに、初めての握手会の日でもある。
今回も満員の会場を熱狂の海に沈めて、俺たちのステージは終わる。
このまま順調にアイドル生活が送れるような雰囲気が、六期生たちの中に起こっていそうだ。
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午後二時から始まったミニライブが午後四時に終わると、ライブハウスは握手会の会場にチェンジする。
握手する場所はステージ上で、フロアとの段差が階段で埋め尽くされた。
その準備中も観客は追い出されることはないので、設営の模様を見学できる。
もちろん、ステージ前は立ち入り禁止でフロア後方に移動させられるが。
そして午後四時半になると準備も終わり、遂に握手会が始まった。
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シュステーマ・ソーラーレメンバーで、今日のミニライブに参加しているのは二十六人。
昨日の土曜日と、同じ顔触れである。
それを七組に分けて、ステージの端から並べる。
具体的には四人組が五つに三人組が二つで、ステージの前から四つか三つのブースを作る。
観客はスタッフの指示で列を作ると客席からステージに昇り、正面から見て右からブースに入る。
そしてアイドルと握手をし、左側からブースを出て階段を下り客席に戻るという方法だ。
後は物販ブースに移動したり、閉場までファン仲間と駄弁ったりと自由だ。
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俺のブースは、七列あるブースの中で中央の最奥だ。
ここは今年の例大祭まで
つまり、それほど事務所に俺は期待されているということだ。
もちろん、その期待通りに俺の列は長い。
隣の三人組の最奥がのぞみちゃんのブースだが、彼女の列と比べても見るだけでわかるほど列の長さが違う。
「それでは、握手会を開催いたします」
スタッフの言葉に、先頭の二十代後半に見える男性が俺より前に居るスタッフに何かを渡してブースに入ってくる。
「み、美久里ちゃんっ! 一目見て、ファ、ファンになりましたっ!」
「ありがとうございます。応援お願いしますね♪」
元男の俺としては、握手をする程度なら嫌悪感がそこまで無い。
出された右手を両手で優しく掴み、鏡を見て何度も練習した笑顔でファンを魅了する。
「はい。終了です」
デレッとした表情のファンに、スタッフが終わりを告げた。
並んだ人数が多い俺の場合、さっさと進めていかないといつまでも終わらない。
短くて残念といった感じの最初のファンを見送ると、直ぐに次の人が入ってくる。
「美久里ちゃん単推しですっ!!」
「ホントですかっ!? スゴくうれしいですっ!」
大学生ぐらいのオタクっぽい男性が、俺にアピールしてきた。
当然、俺も魅了する笑顔で応えて彼の手を両手で包む。
「はい。終了です」
俺みたいな超絶美少女にそんなことをされた彼は、デレデレの表情で夢心地に去っていった。
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そんな感じで、次々と握手しながらニコリと笑顔で魅了して終了を繰り返していく。
俺の列が短くなっても、家族の姿は見えず一安心だ。
そして、のぞみちゃんの列も消えて無くなり俺だけが握手を続けていると、予想外のあの人が現れた。
「美久里ちゃん、こんにちは♪」
「あ、あぁ! 乃莉子さんっ!!」
俺に勝るとも劣らない美貌の持ち主は、
のぞみちゃんの家で出会った、彼女の遠い親戚の女性だ。
「のぞみちゃんの所に、行かなかったんですか?」
「のぞみちゃんとは、握手できる機会はありますから」
お互いに両手を握り合いつつ、会話の花を咲かせる。
「梨奈さんの大ファンと聞いてますが」
「ええ、もちろん♪ でも、美久里ちゃんのファンでもありますよ」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです♪」
俺に匹敵する美少女にファンだと言われると、何だか照れてしまう。
周りも俺たちのような超絶美少女が触れ合っている光景に、見惚れているのか終了の合図かなかなか来ない。
「頑張ってくださいね♪」
「もちろんです♪」
「…………。……んっ! しゅ、終了ですっ!」
体感で他の人の三倍ぐらいの時間で、漸くスタッフの終わりの声が掛かる。
乃莉子さんは俺に優しい笑顔を見せてから、両手を離してブースから出て行った。
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その後、十人ぐらいと握手をして初めての握手会は終了である。
どんな相手でも嫌がらずに、乃莉子さん以外は平等に握手したので評判も良いはずだ。
「お疲れ~。やっぱり、美久が一番多かったね~」
「あっ、友菜さん。お疲れさまでした」
ステージから控室に戻ると、他の六期生たちが疲れたように椅子に座っている。
既に六人がアイドル衣装から着替え終わっており、まだ着替えていないのはのぞみちゃんだけだ。
「多かったね。梨奈ちゃんみたいだった」
「私でも大変だったのに、あの数だと疲れそう」
「そうですね。慣れるまで大変かも」
紫苑さんと紗綾香さんにも話し掛けられ返事をしていると、アイドル姿ののぞみちゃんが近付いてくる。
「美久里ちゃん。一緒に着替えましょう」
「そうだね。名残惜しいけど来週も着れるし。では、着替えてきますね」
「ええ」
着替えることを伝え、壁沿いのロッカーに移動してパパッと着替える。
のぞみちゃんの着替え姿を堪能することなく終えると、再び同期生の輪に戻った。
「しばらくは、毎週これですか……」
「歌える曲が増えると出番も増えるけど、負担も増えそう」
「まぁ、直ぐには変わらないでしょ」
週末のミニライブが終わり緊張も解け、だらけた雰囲気でお喋りが続く。
時計の長針が六十度ほど進んだころ、ノックの音がして種山さんが開いたドアに現れた。
「今日はお疲れ様」
「「「おつかれさまでした~」」」
「お疲れ様でした」
後から現れたサブマネの松園さんと二人、柔らかい表情で俺たちを見つめてくる。
「予定通り、初ライブが無事終了した記念としてみんなで食事に行きましょう」
「……反省会、とかは無いのでしょうか?」
「その辺は明日ね。今日は疲れているでしょうから」
「わかりました」
「それじゃ、私と松園で二台、車を出すわね」
「では、早く用意して行きましょう」
紗綾香さんの言葉を合図に、俺たちは椅子から立ち上がる。
緊張で食が細かったメンバーが多かったから、お腹もペコペコな人がたくさんだ。
どんな豪勢な食事か楽しみに、ロッカーから荷物を取り出していった。
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