第22話

 そして、遂に土曜日のミニライブを迎える。


 本日の参加メンバーは、シュステーマ・ソーラーレメンバー四十八人中、二十六人。

 内訳は俺たち六期生八人と、例大祭の人気投票で愛称が貰える順位に入れなかった十八人。

 その十八人を九人ずつにした二グループが、数曲歌ったら交代するという感じの予定である。

 そして、俺たちの出番は中盤で一曲歌うだけだ。

 というか、人前で歌える曲がまだ一曲しかないというのが正解である。



 +++



「少しだけ用意していた当日券もソールドアウト。満員確定よ」


 もうすぐ開演といった時間、緊張と不安で震えている同期生の控室に六期生統括マネージャの種山たねやまさんが現れ、開口一番こう言った。


「ほ、本当ですか? 良かったです……」


 その内容に、リーダーの紫苑さんが安心した様子を見せる。


「梨奈ちゃんがいないミニライブだから、どうなるかと」

「ええ。事務所も心配はしていたけど、取り越し苦労だったわね」


 苦笑する種山さんを見るに、事務所上層部でも客の増減を読めなかったらしい。

 一番人気の武智 梨奈が抜けたのが減少する最大の一因。

 それを俺やのぞみちゃんが、どれだけ食い止めるか判断が付かないのも仕方がない。

 結局、元の小さいライブハウスに戻すのではなく、去年と同じ大きさのライブハウスでやることは成功だったようだ。

 俺も一安心である。

 これで客数が激減していたら、俺の今後も怪しくなってしまう。


「そ、それって、よりたくさんの人の前で歌うってことじゃ……」

「そういうことだよね~」


 気弱なことを言う佐起子さんに、揶揄うような友菜さんはまだ余裕があるほうだ。


「はいはい。いやでも、一時間後ぐらいには出番が来るんだから覚悟を決めなさい」

「そうですね。みんな。ここまでレッスンで苦労してきたんだから、今日は頑張ろう」


 統括マネの言葉に、六期生リーダーが仲間に呼び掛ける。

 緊張した顔で頷く彼女らを見ていると、種山さんが俺に話し掛けてきた。


「それにしても……。萱沼さんは余裕ね」

「……これ、私の意志じゃないんですが」


 今の俺は椅子に座り、かなりの美少女となかなかの美少女にサンドイッチされている状態である。

 要するに、両隣の椅子に座ったのぞみちゃんと智映ちゃんに寄り添われている体勢なのだ。


「のぞみ、緊張しちゃって……」

「だめですか? ……美久里さん」

「いや、全然大丈夫だよっ!」


 こんな不安げな美少女二人に頼られては、心の中の男が嫌とは言わない。

 すごく良い匂いもするし。


「なんか、この三人見てると緊張が解けるかも」

「あっ、わかります」

「不安が消えていく気がしますね」



 +++



 開演時刻になると、俺たちもアイドル衣装に着替え始める。

 現状の六期生が持つ唯一のシュス・ソーラ基本衣装を身に纏うと、本当にアイドルになったと改めて実感した。


 仲間の表情も一段と引き締まったとか考えていると、コンコンコンとドアをノックする音が聞こえる。


「……そろそろ、準備をお願いします」


 呼びに来たのは、六期生サブマネージャーの松園まつぞのさん。

 まだ専属ではなく、他期生の仕事を手伝うこともある男性である。


「……わかりました。さぁ、みんな。いよいよ出番よ」


 紫苑さんが彼に答え、俺たちを見回して声を出す。


「いよいよね……」

「遂にステージに立つのか~」

「何か、儀式して行きますか?」

「だったら、みんなで手を重ね合うのは?」

「それ、いいかもしれませんね」


 みんなが喋り出すと、なぜか出演前の気合入れの話になる。

 まぁ、俺も嫌いではない。


 六期生八人が右手を重ねる。


「では、リーダー、一言どうぞ」

「……やっぱり私か。んっ、みんな、覚悟はいい?」

「もう、吹っ切れましたっ!」

「ははっ」


 智映ちゃんの元気な答えに、思わず笑ってしまう。


「よしっ! それじゃ、行こうっ! 六期生、ファイトッ!!」

「「「ファイトッ!」」」

「ファイト?」

「行くよ~」


 二人ほど自由な人がいたが、俺たちの士気を高まり控室から出て行く。

 その後はマネージャー二人が微笑ましげに、後から付いてきた。



 +++



 舞台袖で先輩方の歌や踊りを見ている内に、遂に俺たちの出番が訪れる。


「あなたたちの初めての舞台よ。観客たちを魅了してきなさい」

「「「はいっ!!」」」


 種山さんの激励を聞き、力強く返事をしてから、ステージ上で歌っていた先輩たちが去って無人となった舞台に紫苑さんを先頭に一列で進み出る。


「うおぉぉぉ!!」

「美久里ちゃ~ん!!!」

「のぞみん~!!!」

「智映たんっ!!」


 そんな俺たちに、大きな歓声と声援が降りかかってきた。

 勝手な印象だが、やはり俺とのぞみちゃんに対するものが声援の数も大きさも多く感じる。


「みなさん、初めまして。先日の例大祭でデビューしました六期生のリーダーを務める大和田 紫苑です♪」

「紫苑~!!」

「こんばんは。副リーダーの松延 紗綾香です♪」

「紗綾香さまぁぁ!!」


 リーダーの紫苑さんから、名前を紹介するぐらいの短い挨拶が始まる。


「七澤 のぞみです。みなさま、よろしくお願いいたします」

「うわぁぁぁ!!」

「可愛いぃぃ!!」


 のぞみちゃんが微笑みを浮かべ、お嬢様らしく挨拶の後に一礼する。

 それに観客たちは、大きな声で応援した。


 そして、次は当然俺の番である。


「萱沼 美久里です。みなさん、よろしくね♪」

「ほおぉぉぉ!!!」

「きゃぁぁ!!!」


 一段と歓声が大きくなる。

 それは今までで一番大きなものだった。

 まぁ、それは当然である。

 これほどの美少女が、男心をくすぐる愛嬌を見せ付けるのだ。

 可愛いアイドル好きなファンたちが、熱狂するのは当たり前である。



 +++



 例大祭とは違い、智映ちゃんの挨拶も問題無く終わる。

 そして、いよいよ俺たちの曲を初披露する時が来た。


「声援、ありがとうございます。それでは聞いてください。六期生専用曲」


 ここで一度言葉を区切り、リーダーは力強く曲名を言い放った。


「ヘキサグラム×オクタゴン」

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