アイドル一年目
第21話
例大祭が終わり、アイドルとして無事デビューした俺たち六期生だったが仕事が無い。
まぁ、それは当然である。
例大祭の人気投票で内部グループの構成員が少人数とはいえ変わったし、新しいグループもできた。
その新メンバーで、新たに歌やダンスの練習をしなくてはいけないのだ。
流石にゼロからのスタートでは無いので、そこまで時間は掛からないが。
というわけで、俺たちは今日も朝からレッスン漬の一日である。
週末に事務所近くのライブハウスで行われるミニライブで、遂に六期生として曲を披露することになった。
他に内部グループに所属できなかった先輩たちも、そのミニライブに出演する。
というか、その彼女たちがメインで俺たちは六期生専用曲の一曲だけを歌うだけだ。
それでも、曜日が進んでいくと同期生の緊張の度合いも増していく。
デビューできるかどうかや例大祭の時と変わらないぐらいの、ピリピリ具合だ。
+++
金曜日のレッスンが終わり、いよいよ明日が初めてステージに立つ土曜日である。
夏休みということもあり、例大祭が終わってから濃いレッスン内容が続いた。
おかげで、周りのみんなもかなりお疲れ気味である。
もちろん、その中で一番疲労度が酷いのは俺だ。
「大丈夫?
俺の隣に座ったのぞみちゃんが、心配そうに声を小さく掛けてくる。
「な、なんとか、大丈夫だよ」
「本当なら、いいんですけど」
事務所に幾つかある休憩室の中で、一番狭い部屋を六期生だけで占領している。
みんな、疲れと緊張もあって言葉も無く静かなもんだ。
「……いよいよ、明日ね」
その沈黙の中、六期生リーダーの
そう、結局俺たちのリーダーは紫苑さん以外の全員一致で彼女となった。
「……そうね。遂にステージに立つ日が来るね」
「長いようで短い、かな?」
「どっちだろ~。難しいな~」
リーダーの一言から、俺の周りで会話が発生し出す。
「日曜は握手会もあるんですよね……」
「アイドルですから握手は当たり前ですけど、やはり知らない人とするのは、抵抗感が……」
土曜日は十八時から二十時に掛けてミニライブだけで終わるけど、次の日は違う。
日曜日は十四時から十六時にミニライブで、その後は握手会の予定だ。
「握手会、私たちに並んでくれる人はいるのかな?」
「友達が来てくれるらしいから、私はゼロではないはず」
「なんか、それも恥ずかしくない~」
「家族だったら恥ずかしそう。まぁ、イヤとは言いにくいけど」
俺の場合は家族五人、両親に兄三人が土曜も日曜も来ると言っている。
学校関連は、デビューを秘密にしていたからどうなるか不明だ。
一応、深夜のテレビ放送の後に個人やクラスのSNSで、ビックリしたとかおめでとうとかいろいろ言われたから来る人もいるかもしれない。
チケットが取れればの話だけど。
「のぞみちゃんは、誰か来るの?」
「兄が土曜に。後は乃莉子さんが日曜に来るらしいですね」
「そうなんだ」
やはり、不仲の姉は来ないらしい。
両親も来ないのは忙しいからだろうが。
「……話には聞いていたけど、本当に握手会に来るんだ」
のぞみちゃんの家で出会った、
のぞみちゃんの遠い親戚で、俺や
そんな彼女だが、梨奈さんの大ファンで握手会にも来るレベルらしい。
明日明後日のミニライブには梨奈さんは出演しないので、握手会ではのぞみちゃんの列に並ぶだろう。
「美久里さんの家族は、来るんですか?」
ここで、俺とのぞみちゃんの会話に参加してきたのは
例大祭のアレで距離が縮まり、萱沼さんから美久里さん呼びへレベルアップしたのだ。
「家族全員、両親と兄三人が両方とも来るって、言ってるんだよね……」
「両方ですか」
「それは、頑張らないといけませんね。美久里ちゃん」
「……握手会に並ぶのはやめてって、言ったけどね」
家族と握手なんて、想像するだけで変な気持ちになる。
ぜひ、並んでいる人が少ない他のメンバーの列に行って欲しい。
「
地方組の二人に確認しているのは、副リーダーの
確かに、こちらに一人で出てきている二人の家族は来るのか興味はある。
「日曜に両親が来ます」
「私も、日曜だけ都合の付いた家族が来るらしいですね」
こちらに来るのに時間が掛かるから、どちらか片方なのは仕方がない。
日曜だと帰りが間に合うのか心配になるが。
「流石に、最初ぐらいは家族も実際に見たいでしょう」
「紫苑さんも、ご家族の方が?」
のぞみちゃんの言葉に、頷く六期生リーダー。
「養成所が長くてお金の面で迷惑掛けたから、大丈夫というところを見せたいの」
彼女の言葉に、沈黙で応える養成所組たちである。
俺たち非養成所組は関係無いが、養成所に所属するのに結構な金額が必要なことは知っている。
そんな大金を支払っても、アイドルとしてデビューが確約されていないのが現実だ。
「それじゃ~、リーダーのためにもがんばるとしますか~」
「自分のためにもがんばらないといけないでしょ。
友菜さんの言葉に、紗綾香さんが反応する。
「そうだね。明日も明後日もがんばらないと」
「……そう言えば、明日家族が来る人って誰?」
「私の家族は両方来るわ。他に萱沼さんと七澤さんもかな?」
「うん。智映ちゃんは?」
「日曜だけ、だそうです」
どうやら、明後日の日曜の方が家族が来る人が多そうだ。
「私は土曜だけ。日曜はどうしても外せない用事があると両親が」
紗綾香さんの家族は、土曜に来るらしい。
「金谷さんは?」
「両方来るって~」
ということは、明日は五人の家族が来るということか。
「つまり、日曜は松延さんと、七澤さんの家族も来ないんだよね?」
「はい。遠い親戚のお姉さんは来ますが」
「日曜……。握手会……」
「列が短くて、その中に家族が居たりしたら……」
「や、やめてください。想像しちゃったじゃないですか」
「こ、怖い……」
同期生の会話が止まらない。
やはり、緊張と不安がみんなにあるのだろう。
精神的な年齢も合わせれば、最年長の紫苑さんの倍以上の年になる俺は温かく見守る。
まぁ、神様チート持ちの余裕もあるんだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます