東山 加絵
「クソッ! クソがっ!! 何で、今年も落ちてるんだよっ!!」
ベッドの上で八つ当たり気味に、愛用の枕を何度も殴る。
「ドワーフ・プラネットでも格落ちなのにっ! セブンス・サテライトッ!? ふざけるなっ!!」
初めての人気投票では、ギリギリとは言ってもシュステーマ・ソーラーレに選ばれたのに。
なんで、そこから落ちる一方なんだ。
順位も投票数も。
「頑張っただろう? それが、この結果かっ! …………、ふぅ……」
枕を殴るのも疲れた。
努力が結果に結びつかないのは、とても虚しくなる。
「はぁはぁ。どいつもこいつも……」
卒業を匂わせてくるマネージャーも、壁を作っている他のメンバーも気にいらない。
誰が、シュステーマ・ソーラーレを支えてきたと思っているんだ。
私たち創設メンバーである、一期生だろ。
それを、後から入ってきた内川 知実やら武智 梨奈を持ち上げやがって。
「……ファンもファンだ。顔の良さだけで推し変するなんて」
まぁ、確かに認めよう。
あの二人と比べれば、顔の良さで私は少し劣ることを。
「クソ……。……まぁ、いい。終わったことはどうしようもない」
腹が立つが結果発表まで終わった以上、私が十八位でセブンス・サテライトに所属することに変更は無いし。
「今度の愛称はカリスト……。ガニメデやタイタンよりマシか。……順位が低いせいだけど」
これから一年間付き合うことになる愛称の響きはいいけど、得票数が少なかったのが理由だと思うと微妙な感じになる。
とはいえ、無くなるよりは遥かにマシだ。
そうなっていたら、これまで以上に卒業の圧力も強くなっていただろう。
この一年間で得票数を上げ、順位も戻さなければいけない。
まだ下に四人いるとしても、来年の人気投票で上位に入ると思われる新人が二人もいるのだ。
「……萱沼 美久里に、七澤 のぞみか」
今年の新人を入れて、シュス・ソーラの人数は四十八人。
もうメンバー数を増やす必要は無いだろうと私は思うが、プロダクションの考えは違うらしい。
社長が口を滑らしたらしいが、総人数は五十人から六十人の間にしたいようだ。
それも、できれば五十人前半で、五十に近ければなお良しとのこと。
つまり、来年入る新人の数を考えれば来年から卒業を求められる数も増えるということ。
その卒業予定者に私が入っているのは、みんなわかっているだろう。
「それはいやだっ!! まだ、やめれないっ!」
うちのプロダクションの特徴として、アイドル関係は強いが演技関連には弱いというのがある。
俳優・女優を売り込んで、その辺りに進出しようとしているがまだまだである。
内川 知実とかがテレビドラマの主演を取ったりして、以前よりはマシにはなっているようだ。
でも、私がシュス・ソーラを卒業して女優に転向したとしても、まだ押し込めるほどの力は無いだろう。
だから、私は噛り付いてでもシュス・ソーラから離れるわけにはいかない。
『ててけてってけてっててててー、とんとれてってろろれてろろん』
そこで、投げ出していたスマホから着信音が流れる。
家族や友人からでは無い。
今日の結果で、私が荒れているのは理解しているだろうから。
「アイツか。……やっぱり。んっ。……もしもし、…………、うるさいっ! それより、アンタたち、ちゃんと私に投票させるように動いたの?──」
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