武智 梨奈 2
「第四回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第二位は!?」
「第二位は!?」
「……三期生、ソールこと、内川 知実さんです!!」
MCの言葉を聞いた私は、誰にも聞かれないように小さく安堵の息を洩らした。
自身でも調べたり家族や友人から聞いたりして、一位の可能性が高いとは理解していたがそれでも不安だった。
+++
アイドルの仕事は、第一に歌うことだと思っている。
だから、アイドルになった以上は歌で頑張っていきたいと考えていた。
一人称を梨奈としているのも、アイドルらしいと思ってやっている。
私の中で、歌=アイドル=可愛いが絶対の定理だ。
でも、所属プロダクションはそうは思っていない。
歌は当然として、他に女優としてドラマや映画に出演して欲しいのだ。
私がデビューして以来、いろいろなところからオファーが来ていると聞いている。
ギャランティーも良く、それもあってプロダクションも女優の仕事を勧めてきた。
でも、駄目だのだ。
私に女優としての才能は無い。
小学校の時に、学芸会で劇をさせられたことがある。
学校でも群を抜いていた美少女の私は多数のクラスメイトに推薦され、嫌だったが主役として舞台に上がるしかなかった。
その時に痛感した。
私に演技は無理だと。
台詞を喋っていて、おかしくて仕方がなかったのだ。
私は真面目な顔して何を言っているのだろうと思ってしまうと、笑いがこみ上げてきて頬がゆるむのを我慢するのが大変だった。
そういうことがあり、女優としての仕事は全部断っている状態である。
流石に、CMは台詞があっても量は多くないので妥協して受けているけど。
それでも、プロダクションとしては不満があるのが当然だと思う。
社長からも、アイドルでも歌だけでは長く続かない、女優の仕事も始めるべきだと何度も言われている。
そんなことを五期生統括マネージャーたちとも話し合い、最終的にある賭けをすることになった。
今度の人気投票で私が一位を獲るかどうかで、女優の仕事を受けるかどうかの賭けである。
話し合いの中、熱くなっていた私は思わず賭けにのってしまったが、後で冷静になると後悔で不安になった。
所詮、プロダクションが投票を集計して結果を出す人気投票。
もしかすると、私に女優の仕事をさせるために投票数を操作するのではないかと。
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そんな不安も、今、解消された。
流石に、不正をするような悪質なプロダクションではなかったようだ。
これで、苦手な演技の仕事をすることもなく歌うことに専念できる。
CMの仕事は、それなりに受けないといけないだろうけど。
後は、プロダクションが一年ごととか言い出さないか心配である。
来年の人気投票で二位以下になったら女優デビュー、とか言う可能性だ。
芸能界で人気が上がれば、動く金額も当然大きくなる。
そうなれば、プロダクションからのプレッシャーも大きくなるだろう。
他のメンバーの人気が上がれば私から目が離れることもあるだろうけど、人気投票で抜かれる心配も出てくる。
後輩に一人、その可能性がある子が居るのが少し不安かな。
「さあ、みなさまは、もうわかっていると思いますが、最後の発表に参りましょうっ!」
「いよいよですよっ! みなさんっ!」
「第四回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第一位は!?」
「第一位は!?」
「初めての人気投票で、まさかの一位!! 五期生、武智 梨奈さんです!!!」
意識を他に持っていかれていると、知実さんの挨拶も終わって一位の発表となっていた。
私の名前がコールされ、いくつもスポットライトが集中して眩しい。
もちろん私はそんなことを顔に出さず、頭を下げて眩しさから逃げる。
もういいかなというところで、頭を上げてニッコリと笑顔を浮かべ前に歩き出した。
大きな歓声と熱狂的な声援を浴びながら、客席のファンを魅了して来年の投票に繋げようとステージ中央に進み出る。
「梨奈ちゃん、おめでとうっ!!」
初老男性MCの言葉に、手にしたマイクを口に寄せて感謝の言葉を発しよう。
来年も一位が獲れるよう、媚びを売ろう。
それもアイドルの仕事なのだから。
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