第20話

『第四回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第二位は!?』

『第二位は!?』

『……三期生、ソールこと、内川 知実さんです!!』


『うそぉぉぉ!!』

『二位かぁ!!』


 昨年の一位、内川 知実の名前がコールされた。

 これで彼女の愛称は、ソールからテッラに変わることになる。


『連覇とはなりませんでしたが、二位も凄いですよっ!』


 ステージ後方に並んだ全メンバーから中央に進み出た知実さんに、女性MCが話し掛ける。


『はい。ありがとうございます』


 確かに二位も順位としては高いが、一位からの陥落ではそう思えないだろう。

 心の中では、悔しさが燃え滾っていそうだ。


『それでは、ファンのみなさんにどうぞ』

『……内川 知実です。残念ながら二年連続の一位とはなりませんでしたが、ご投票ありがとうございました』


 ここで彼女が、深々と一礼する。

 それに反応して、推しているファンたちが慰めるような言葉を投げ掛けていた。


『来年はトップを取り戻せるよう頑張っていきますので、今後も応援をよろしくお願いいたします』

『……ありがとうございました。内川 知実さんに盛大な拍手と声援をお願いします』


『わぁぁぁ!!』

『来年も、投票するよぉ!!』


 スポットライトを浴びた彼女は、潤んだ瞳で笑顔を浮かべて声援に手を振って応えている。


『次回の人気投票も、期待できますな』

『それでは、お下がりください』

『はい……』


 最後にもう一度、知実さんは頭を下げて後方に退いていく。

 それを見送ったMCたちが、期待を煽るように会話を重ねた。


『さて、いよいよ、今回の例大祭も、終わりが近付いてきました』

『はい。会場のみなさまには、長かったようで短い時間だったでしょう』


『そうだ~!!』

『もう、終わりだなんて、早いよぉぉぉ!!』


 歓声と悲鳴が、会場を満たす。

 後は、第一位の発表関連で終了だ。


『さあ、みなさまは、もうわかっていると思いますが、最後の発表に参りましょうっ!』

『いよいよですよっ! みなさんっ!』

『第四回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第一位は!?』

『第一位は!?』

『初めての人気投票で、まさかの一位!! 五期生、武智 梨奈さんです!!!』


『きたあああぁ!!!』

『梨奈ちゅわ~ん!!!』

『うわあああぁ!!!』

『りなりん~!!!』


 一度ステージが真っ暗になった後、梨奈さんに幾つものスポットライトが集中する。

 凄まじい歓声の中で彼女を一礼し、頭を上げるとニッコリと笑ってステージ中央に進み出た。


『梨奈ちゃん、おめでとうっ!!』

『ありがとうございます♪』

『一位となって、驚いたことでしょう』

『はい。噂で上位に入りそうとは聞いていましたが、まさか一位とは今でも信じられません』


「……いや、それはないでしょう」

「悪くても二位には入れると、思っていたんじゃないかな?」

「そういうことは、思っていても言わないように」


 梨奈さんとMCたちの会話を舞台裏のモニターで見ていた、同期の誰かがボソッと呟く。

 それを聞いた種山さんが、注意の言葉を発した。

 運営側としては、グループ内での揉め事になるようなことは小さくても見逃せないのであろう。


「そんなことより、あなたたちも最後は出ないといけないのよ。そろそろ、舞台袖に移動して」

「そ、そうでした」

「すっかり、油断してたよ~」


『ご投票ありがとうございました。一位となった責任を胸に、もっと頑張っていくことを誓います』


 ステージ上では、梨奈さんの挨拶がまとめに入っている。

 慌てて舞台袖へリハ通りに二組に別れて移動すると、すぐステージへ出ることを求められた。


「いやぁ、シュステーマ・ソーラーレの今後が期待できる挨拶でした」

「人気投票第一位、武智 梨奈さんでしたっ!」

「ありがとうございましたっ!」


 梨奈さんが注目を浴びている間に、元から並んでいた現メンバーの横に並ぶ。


「さて、第四回シュステーマ・ソーラーレ例大祭も、いよいよ終わりとなります」

「あっという間の、二時間半でした」

「ええ。客席のみなさんは、お楽しみいただけたでしょうか?」


「楽しかったぁぁ!!」

「来年も来るぞぉぉ!!」

「梨奈ぁぁぁ!!!」


 このMCの言葉を合図に、シュス・ソーラメンバー全員が並んでステージ前方に進み出る。

 そして、熱狂するファンに向けて笑顔で手を振り愛嬌を振り撒くのだ。


「寂しいですが、いよいよ閉幕です」

「それでは、皆さん」

「来年の第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭でお会いしましょう!」

「「さようなら~!」」


「バイバイィィィ!!!」

「梨奈ぁぁぁ!!!」

「枝里香ちゃ~ん!!」

ともちゃ~ん!!」


 観客が、推しの名を絶叫する。

 そして、俺は聞き逃すことはなかった。


「美久里ちゅあ~ん!!!」


 俺の名前が聞こえた辺りに、自慢のスマイルで手を振って応える。

 流石は自分でも見惚れる超絶美少女。

 早くも、魅了されたファンが出たようだ。



 +++



「はい。六期生は集まって」


 幕が下りステージが客席と隔離されると、早智子さんから集合が命じられる。

 五期生以上が舞台袖から裏へと去っていくのを見ながら、俺たちがステージの隅の方に集められた。


「んっ……。本日はお疲れ様。よく、頑張ったわ」

「は、はいっ!」

「ありがとうございますっ!」


 同期たちは、彼女の言葉に安心したような顔になる。


「今後の予定だけど、十七時半に退室できるように準備を済ませて」

「着替えとかですか?」

「ええ。その時間までは控室で休憩していていいわ」

「わかりました」


 ちょっと失敗した人もいたが、今日の説教は無いらしい。

 流石に、デビュー当日にするのは酷だと考えたのかもしれない。


「その後は打ち上げと慰労会を兼ねたものをしようと思ってます。時間は十八時から。店には全員で移動します」


 ここで説明がサブマネの松園さんに変わる。

 そりゃ、彼も仕事しないといけない。


「うわぁ」

「う、嬉しいです」


 今日、丸一日スケジュールを押さえられていた理由が判明する。

 デビュー祝いをしようと思っていた両親や兄たちにブーブー言われたが、これなら仕方ない。


「あっ。今回は六期生と私たちだけね。五期生より上は、人気投票の結果でいろいろあるから……」

「あ、あぁ……」

「打ち上げする気分じゃない人も、いますよね?」

「そりゃ、ね……」


 順位が落ちたり、内部グループの格が下がったりした人は、騒ぐ気分ではないだろう。


「そういうこと。それじゃ、控室に戻って」

「了解です」

「はい」


 まぁ、俺たちは無事デビューできたことを素直に喜ぼう。

 これからが大変だと思うが、今日ぐらいはそんな苦労を忘れて楽しみたい。

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