第17話
『『第四回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、スタートです!』』
フルメンバー四十三人によるシュス・ソーラ代表曲「銀河の光は永遠に」を先頭に、MCの二人が開催を宣言する。
去年までと違い、今年のMCはテレビでよく見る初老男性のフリーアナウンサーと二十代後半の人気女優が担当している。
これを見ても、今年は予算の掛け方が違うのはよくわかる。
『知実~!!』
『りなちゃ~ん!!』
人で埋まった客席からの野太い声を聞きながら、俺は舞台裏でモニターを見つめていた。
「わ、わわ……。せ、声援が凄いです……」
舞台裏にまで響いてくる大声援に、智映ちゃんが怯えたような表情と声を出す。
イメージカラーのグリーンが散りばめられた衣装を、震わせている仕草が可愛い。
「大丈夫だよ。智映ちゃん」
「か、萱沼さん……」
役得とばかりに、彼女の小さい身体を抱き締めて落ち着かせようとする。
こういう時は、人の体温である。
実際、俺は智映ちゃんの体温を感じて幸せを感じている。
緊張は元々感じていない。
「あんなに練習して、リハもちゃんとできていたでしょ?」
「え、えぇ……」
「だから、大丈夫。何も問題ない」
説得力があるかどうかは微妙だが、とりあえず彼女を励ます。
「わ、私も、お願い、できる?」
「ま、茉美さん?」
「私も、緊張しちゃって……」
オレンジが散りばめられた衣装の茉美さんが、不安そうな顔で俺を見つめている。
肉体年齢では二歳年上の彼女に、俺が縋られるとは思わなかった。
「……あはっ! もう、市原さん」
俺の腕の中の智映ちゃんが、そんな茉美さんを見て思わず笑い出す。
「そ、そんなに笑わないで。智映ちゃん」
「ごめんなさい。萱沼さんをあげますから、許してください」
「わ、私の意志が無視されているっ!? まぁ、いいけど。では、茉美さん」
抱き着く相手を、智映ちゃんから茉美さんに変更する。
身長的に私と変わらない彼女の身体も、柔らかくて良い匂いがした。
「……のぞみも、お願いできますか?」
「のぞみちゃんもっ!? ……ええい! 希望する子は全員抱いて上げようっ!」
続いて、希望通りのぞみちゃんにも抱き着く。
なぜか彼女も抱き返してきて、美少女が抱き合う尊い光景となった。
残念ながら、当事者の俺は見られないんだが。
「何やってるの? この二人」
「さあ~? 本番も近いのに、美久は余裕だね~」
呆れるような紗綾香さんと友菜さんの言葉を無視して、しっかりと抱き合う。
立ち昇る甘い香りをバレないようにクンカクンカしながら、のぞみちゃんを抱き締め続けた。
+++
『──さあ! 人気投票の結果発表も二十二位まで終わりました』
『ここで、新たな発表がありますっ!』
『おや、ここでですか? それは一体なんでしょう?』
いよいよ、俺たちの出番も近づく。
舞台袖に六期生全員で移動すると、卒業宣言をして今回の人気投票ランキングに不参加となったメンバーが居た。
数は三人。
その中には、結成組の一期生で現在総リーダーを務めている最年長の女性も居る。
まぁ、今日で総リーダーも変わるわけだが。
『これまでシュステーマ・ソーラーレには内部グループとして、シュステーマ・ソーラーレとドワーフ・プラネットがありました』
『ええ。人気投票上位の、選抜されたメンバーで構成されたグループですね』
『はいっ! そして本日、ここで新たな内部グループの結成を発表いたしますっ!!』
『おぉぉぉ!!!』
『マジでっ!!??』
女性MCの発表に客席が湧く。
『それは、凄いっ!! ところで、客席のみなさんも気になっているでしょう。その、グループ名はっ!?』
『新たなグループの名はっ!! …………、……セブンス・サテライトですっ!!』
『セブンス・サテライトッ!!!』
『七人組かっ!!』
名前の通り、太陽系に存在する中の七つの衛星がモチーフである。
地球の衛星である月を別格として十五位の愛称となり、半径が大きい方からの六つの名前が十六位以下の人気投票の順位で愛称に付けられる。
つまり、一番下の二十一位から十五位に向かって、トリトン・エウロパ・イオ・カリスト・タイタン・ガニメデ・ム-ンとなるわけだ。
そんなことを二人のMCが説明し終わると、BGMが変わって悲し気な雰囲気なものとなる。
『……さて、嬉しいお知らせがあれば、寂しいお知らせもあります』
『そうですね。……でも、アイドルグループの宿命でもありますから』
『ええ。みなさんもご存じかと思いますが、本日でシュステーマ・ソーラーレから卒業するアイドルが三人』
『その三人の卒業挨拶を、これから行います。みなさま、ご清聴をお願いいたします』
MCの言葉に、近くに待機していた三人がステージへと出て行く。
この後に新人として紹介され、芸能界に羽ばたいていく俺たちとは対照的な風景だ。
『まずは、二期生の……』
期と名前が紹介され、該当するメンバーが頭を深々と下げる。
顔を上げた時には、もう涙が零れていた。
『客席の、みなさま……。本日は、ご来場、ありがと……、うぅ……』
『がんばれ~!!』
『あ、ありがとう~』
挨拶の途中で声が詰まる彼女に、励ましの言葉が掛かる。
その声援にお礼を返し、卒業の挨拶を続け出した。
+++
『──以上、卒業する三人による、挨拶でした』
『本日、シュステーマ・ソーラーレから去る三人に、温かな拍手をお願いいたします』
並んで頭を下げる三人に、客席からあらん限りの拍手が鳴り響く。
のぞみちゃんや紫苑さんとかは、感情移入したのか目に涙を浮かべていた。
『……ありがとうございましたっ! ……それでは、三人はあちらの方へ』
男性MCに促された三人は、俺たちが待機する反対方向への舞台袖に退出していく。
それは、俺たちの出番が遂に訪れたことでもある。
「んっ……」
「いよいよ、……です」
「遂に、来ちゃったか~」
目の前で行われた卒業挨拶に意識を持って行かれていた同期たちも、再び緊張感を醸し出す。
『……さて、別れがあれば、当然ながら新たな出会いもあるわけです』
『それでは、ご登場願いましょう。本日のデビューで、六期生となる新たなアイドルたちですっ!!』
「……うんっ! 行くわよっ!」
MCの言葉に気合を入れた紫苑さんが、俺たちに発破を掛ける。
そして彼女を先頭に、マイクを片手に煌びやかなステージへと一列で進み出した。
俺たちは芸能界という舞台で、最初のスポットライトを浴びる。
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