第15話
俺たちがデビューする予定の例大祭が開催される八月の頭。
六期生だけが歌うことができる、六期生のためだけの曲が完成したとの一報が入った。
と言っても、例大祭で歌うわけではない。
あくまで人気投票の結果発表がメインで、それに新人として紹介があって挨拶するだけだ。
完成した曲は、その日以降に行われるミニライブで歌うことになる。
だから、デビュー前から練習しなくてはいけないのに変わりはない。
更に、十一月頃に出るアルバムCDに収録されることが決まっている。
これらは期生専用曲の慣例だから、俺たちもファンもわかっていることだ。
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「さぁ、いよいよだよ。みんなっ!」
「そうだね~。デビューすることを実感してきたよ~」
俺たちへのお披露目は、事務所建物に隣接している小さなライブハウスで行うということで八人で移動する。
五期生がデビューするまでは他の予定が無い限り、週末はここで下位メンバーと新人でミニライブを行っていたらしい。
五期生、というか武智 梨奈さんがデビューしてからは、毎回満員でチケットを取れないファンが続出したという話だ。
その問題を解消するために急遽近くの潰れたライブハウスを買い取り、整備してミニライブの会場を変更する有り様になった。
梨奈さんが人気投票で上位を取り、ミニライブへの出演が基本無くなったら元に戻すという話だったらしいが、俺とのぞみちゃんが新人としてミニライブに出ることになったので、これからも同じ会場を使うこととなる。
この事務所横の小さなライブハウスは、主に練習用に使われることが続くだろう。
まぁ、立ち見で定員三百人という話なのでキャパは全く足りないと思う。
三年前の第一回例大祭はここにパイプ椅子を並べて行ったらしいが、流石に二回目からは他の会場を借りて開催したとも聞いた。
今年は更に収容人数が多い会場となり、この地方のローカル地上波と幾つかの独立U局で深夜ながら放送されるとの説明である。
これも、内川 知実さんがグループの知名度を上げ、梨奈さんが人気を爆発させた結果であろう。
他の地域向けにはオンライン動画サイトでテレビ放送以降にアップされるとのことで、遂に全国へ俺の美貌が明かされることになる。
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披露される曲は振り付けも仮完成しており、歌う箇所や立ち位置も全て決められていた。
とはいえ、八人が舞台上で交差する以上、実際にやってみなければわからないこともある。
まずは、その辺りを確認してから正式な振り付けを完成させるらしい。
最初に作詞家と作曲家の先生と振付師が紹介され、この曲の内容を説明してくれる。
彼らの説明からは、アイドルらしいラブソングという印象を受けた。
それから、歌詞と誰がどの部分を歌うのか記載された紙が渡される。
それを見ながら通しで一度、楽曲を聞かされた。
この歌は六期生の初めての曲として、他のメンバーが歌うことは無い。
もちろん、各期生にも専用の歌が一曲ずつ有り、それを俺たち六期生が歌うことはできない。
そして最初の曲として、歌唱量に立ち位置も平均的に考慮されている。
六期生八人全員が、それぞれセンターで歌う箇所があるのだ。
大部分のメンバーが、センターでスポットライトを浴びて歌うことができるのは各期生専用曲しかない。
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「……曲名はまだだけど、感想はどう?」
初めて聞いた感想は、本当にアイドルが歌いそうな曲だということである。
良いか悪いかは、俺にはよくわからない。
「こ、これを、私たちが歌うんだ……」
「す、すごい……。覚えられるかな」
「いい曲ですよねっ!?」
まぁ、他のメンバーが興奮しているから良い曲なのだろう。
どちらにしろ、俺たちに拒否権は無いから、この楽曲が六期生が人前で披露する初めてのものになるはずだ。
この後は振付師の出番だ。
俺たち八人を、舞台の上で指定の場所に立たせる。
彼の指導の元、俺たちは巡るように立ち位置を交換する。
最初はゆっくりとしたテンポで曲を流し、慣れてくるとスピードを上げる。
あくまで踊らず、立ち位置を移動させるだけなのでスムーズになっていくのも早い。
まぁ、個人の違いはあるが、レッスンを受けていた効果があってそこまでの誤差はなかった。
「……そうだな。もう少し、振り付けを複雑にできる余地はありそうか……」
振付師がボソッと呟いた言葉で、今日は終了である。
最後にデモ音源が録音されたCDも配られ、各自で歌詞を覚えて練習することを命じられる。
その際に、くれぐれも秘密にすることを念入りに注意された。
まぁ、発表前に流出とかはデビューが消えても不思議ではない不祥事である。
振り付けも早急に本完成させるということで、今後はこの楽曲の練習をメインにレッスンすることを伝えられた。
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「遂に曲が完成しましたね」
「うん。いよいよって感じだね。のぞみちゃん」
「……緊張が増してきました。美久里ちゃん」
今日は大して身体を動かしていないが、暑い季節ということでシャワーを浴びて帰ることにする。
「今から緊張していたら、例大祭まで身が持たないわよ」
「何だか、私にも緊張が移ってきました……」
他に休憩室に寄ったりするメンバーがいたりするので、一緒にシャワー室に向かっているのは四人だけだ。
俺とのぞみちゃんの他は松延 紗綾香さんと古澤 佐起子さんという、あまり経験が少ない組み合わせである。
「紗綾香さんは、緊張していないんですか?」
「していないわけじゃないわ。ただ、養成所でデビューする人を見てきたから」
彼女は、ここff・フォルテシモ付属とは違う養成所の出身である。
佐起子さんは養成所に通ったことのない、俺やのぞみちゃんと同じ経歴だから覚える感覚も同じなんだろう。
まぁ、実際は俺も大して緊張していない。
とはいうものの、神様チートが無ければ俺も胃が痛くなるような緊張に襲われていたに違いない。
いや、そもそも神様チートが無かったら、アイドルになろうとは思わなかったはずなので仮定の意味は無いか。
「デビューまで、眠れなくなりそうです……」
「食欲も落ちるかもね。これはダイエットに良さそうだけど」
「ダイエットが必要な人は、いないと思いますけどね」
「レッスンがキツすぎて、太る余裕も無かったです……」
そんなことを喋りながら廊下を進んでいくと、シャワー室のドアの前に着く。
さぁ、今から美少女三人の艶姿をじっくりと鑑賞するとしますか。
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