第14話
デビューに向け、六期生全員でマネージャの
契約とかは両親も交えての場になるので、今、受けているのはネット関係とかファン関係とかの話だ。
「──アカウントは一人一人に用意しますが、皆さんが書き込みたいことを担当の社員に伝え吟味した結果、問題ないとなれば社員が書き込む形です」
「私たちは、IDやパスワードを教えてもらえるのですか?」
「いえ。以前、我が事務所のタレントにソレを教えたところ、社員を通さずに書き込んで炎上したことがあったので……」
「あ~。わかりました」
そんなことがあれば、タレント本人に書き込みさせるのに躊躇するのはわかる。
周りの何人かも、頷いているし。
「これまで使っていた個人のアカウントを持っている人もいると思いますが、守秘義務に反する内容など問題になりそうな事は書き込まないでください。……事務所としては、消していただくのが一番なんですが……」
「そ、それは……。無いと、困ることもありますし」
「流石にね~」
「ええ、わかってます。ですが、くれぐれも注意して使ってください。裏アカの内容が流出して炎上したアイドルもいますから」
そういえば、数年前にあったな。
付き合っている男のこととか他のアイドルの悪口が大量に書いてあって、めっちゃ燃えたのは覚えている。
まぁ、学校生活で必要だから俺も持っているけど、個人的な内容は全く書き込んでないから業務連絡みたいな書き込みばかりだ。
「──ファンとの個人的な繋がりは持たないように。様々な手を使って近づいてくるファンも、中にはいるので注意して」
「はい」
「もちろんです」
次は、ファンたちとの関係の持ち方だ。
そりゃ、アイドルは基本可愛い女の子なのだがら、健全な男子ならお近づきになりたいだろう。
俺も本来なら男性アイドルとして女性アイドルたちと仲良くなりたかったのだから、気持ちは痛いほどわかる。
「つきまとわれるようなら、早急に私たちマネジャーや社員に報告するように。シュスソーラでも以前、ストーカーで問題になったことがありますので」
「えっ!?」
「ほ、本当ですか?」
驚いたような声が続く。
俺も、そんな話は聞いたことがない。
周りを見ても、同じように他の子の顔を見ている人や不思議そうな顔をしている人が大半だ。
リーダー格の紫苑さんだけは何か知っているような感じだったが、養成所経由で話を聞いたことがあるのだろう。
「ええ。警察沙汰にもなったわ。報道されてないから知らないでしょう」
「こ、怖いですね」
「一体、誰が?」
「……一期生の
「大和田さん……」
ポロッと紫苑さんが一人の名前を上げ、早智子さんが
「東山、さん?」
「う、うそ……」
「あり得ないでしょ」
誰かが疑問の声を出すと、賛同するような言葉が聞こえてきた。
ぶっちゃっけ、俺もストーカーが出たメンバーが東山さんというのは全くの予想外である。
最近の、特に四期生以降のメンバーからしたら自分のほうが顔は上だという意識が強いだろう。
そんな彼女にすらストーカーが出たのなら、自分たちにも危険があって当然という話だ。
「……んっ。そういうわけだから、皆さんも気をつけるように、お願いね」
「わかりました~」
「気をつけます」
紫苑さんが個人名を出したことに関しては、目を瞑るようである。
まぁ、東山さんに関しては上層部でも問題になってきているとの噂も聞こえてくるし、早智子さんも思うところがあるのだろう。
流石は、シュス・ソーラ一番の問題児である。
あまりに行状が悪いと卒業後の扱いがどうなるか、わかったもんじゃないのに。
「男性関係も注意して。皆さん、過去にそのような相手がいないと聞いてますが」
「ええ」
「アイドルを目指すのなら、当然です」
「……私もそう思うのですが、芸能界を夢見ているのに彼氏を作って、デビュー後に発覚して炎上することも多いですから……」
人気があればあるほど、そんな過去がバレた時の代償は大きい。
たとえ、デビュー前に別れていたとしても、男と付き合った経験があるというだけで拒否反応を起こすオタクもいる。
そんな彼らの特徴は、ファンに出来れば大金を落としてくれるがアンチになれば最悪の厄介勢になることだ。
前世が男として、その気持ちが理解できなくもない。
夢を売るアイドルとして人気が欲しければ、処女性が大事で交際経験も無いのが理想だと思う。
その点、俺は彼らにとって理想のような存在であろう。
この国全体を見回しても、数少ない稀有な美貌。
中身が男なので、当然男に興味なんて欠片も無い超絶美少女。
可愛い女の子が大好きなので、百合営業もどんとこいの精神。
正にアイドルとして、うってつけの逸材だ。
「相手が芸能人でも警戒してね。アイドルにエッチなことがしたくて、芸能界に入るような男もいるから」
「いるんですか? そんな人」
「話には聞くわね」
早智子さんが話を続ける中、俺は魅力的な芸能人の女性とのキャッキャッウフフを想像する。
そんなことを考えているとは思われないように、真面目な顔つきで話を聞いているふうに演じながら。
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