武智 梨奈

 休憩室を出て廊下を歩きながら、先ほど会った六期生メンバーのことを考える。


「思ったより、楽になりそう。……かな」


 所属プロダクションの社長や社員から、よく言われることがある。

 これからのシュステーマ・ソーラーレは、私の双肩にかかっていると。


(確かに自分でも、私は可愛いと思っているけど)


 幼い頃から両親や祖父母を始めとする周りの人たちに、可愛い可愛いと言われ続けてきた。

 人気の芸能人にも負けない、アイドルにでもなるべきだと言われ、幼心にアイドルになった自分を夢見てきた。


 小学校に入り、学年が上がっていくうちに、その思いは本格的になっていく。

 だって、私より可愛いといえるアイドルなんてテレビの中に居なかったから。


 両親の知人がこの芸能プロダクションに勤めていて、その縁で付属の養成所に入ったのが小学六年生の時。

 その年は初めてのシュス・ソーラ人気投票結果が出た時で、本格的にアイドルグループへ力を入れ始めることも理由になった。


(紫苑さんと出会ったのも、その頃だったっけ)


 彼女は中学二年生で、妹がいるせいか年下の面倒をよくみる人だった。

 そのせいか六期生のリーダー格となり、いろいろと世話を焼いているらしい。


「大変だね」


 まぁ、紫苑さんが見てくれていれば六期生は大丈夫でしょう。

 あの二人に問題が起きないよう、彼女にはプロダクションも期待しているでしょうし。


(萱沼 美久里ちゃんと、七澤 のぞみちゃん)


 今後、私と内川先輩と共に、シュス・ソーラを支えてくれそうな人材。

 特に美久里ちゃんには、とても期待しているのだ。


「美少女だったね……」


 彼女を内部資料の写真で見た時も思ったけど、実際に会ってみたら予想以上の美少女だった。

 私と並んでも見劣りしないほどの女の子は、グループ内で初めてだ。


 美久里ちゃんが順調に伸びていけば、私の負担も絶対に減る。

 のぞみちゃんにも、期待はしているけど。

 内川先輩との仲が微妙な感じである以上、後輩からあんな子たちが出てくるのは大歓迎だ。


 ま、彼女たちが完全に前へ出てくるのは来年の人気投票が終わってからだから、例大祭後は頑張らないと。

 私も経験したけど、デビューして一年は勉強する期間である。


 例大祭のデビューで凄まじい反響があった私は特別に個人の仕事を貰ったけど、同期の子たちは下積みで大した仕事も無かった。

 おかげで五期生の中で、浮いている感じになっているし。


「人気投票で順位が出れば、少しは変わるのかな……」


 耳に入ってくる話を聞く限り、今度の例大祭で私が一桁上位に入るのは確実だと思う。

 両親たち家族からも、同じようなことを聞いた。

 そうなれば、五期生という括りではなく『シュステーマ・ソーラーレ』の一員という立場になれる。


(そこでも、全員と仲良くとはいかないと思うけど)


 それでも、あそこには脇坂わきさか 枝里香えりかさんがいる。

 彼女は、最初からいろいろと親切にしてくれた。

 他にも、それなりだが私に好意的な人が二人は居る。

 今の五期生グループとは、全然違うはずだ。



 +++



「あっ。……おはようございます。武智さん」

「お、おはよう。梨奈さん」


 廊下を歩いてマネージャーがいるはずのマネジメント課へ向かうと、その部屋からグループメンバーの二人が出てくる。


「おはようございます。先輩方」


 彼女たちは人気投票で下から数えた方が早い下位メンバーだ。

 そのせいか、まだ人気投票に未参加の私を上に扱ってくれる。

 とはいえ、芸歴も年齢も上な自分たちが後輩にそのような態度をとるのは不本意なのだろう。


 今も丁寧に挨拶だけはしてくれたが、その後は黙って立ち去っていく。

 遠ざかっていく二人の背中を見つつ、自然とため息をついてしまった。


(こんな感じか続くのかな……)


 そんな暗い考えの中、一つの希望を考えてしまう。


(萱沼 美久里ちゃん……)


 私に負けないぐらいの美貌を持つ彼女なら、対等の関係で仲良くなれるのではないかと。

 歌も踊りもできるらしいし、来年の人気投票では『シュステーマ・ソーラーレ』に入れる順位になれるはずだ。

 同じ内部グループになれば、接点も増えて同じ時間を過ごす時間も長くなるし。


「そうなるといいな」


 そんな希望を持ちながら、手に持っている仕事をマネージャーに助けてもらうため、マネジメント課のドアをノックした。

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