第13話
社長室に呼ばれてから一週間弱で、シュステーマ・ソーラーレメンバー全員への正式な紹介が終了した。
彼女たちの反応は、グループ内の立ち位置によって全く変わる。
俺やのぞみちゃんに対する人気投票下位メンバーからの反応の多くは、意外と好評なものであった。
これはシュス・ソーラの人気を更に上げてもらって、その余波で仕事が増えて欲しいという希望からのようだ。
逆に上位メンバーとなるとライバルが増えたという感じで、こちらを見る視線が厳しく感じる人が多い。
まぁ、強い特徴があるメンバーは、それなりに歓迎してくれているようである。
具体的には、エースを奪いそうな武智 梨奈さんとか、ロリな妹枠メンバーや女性ファンに大人気な王子様系メンバーとかだ。
違うのは人気投票九位前後の、一軍格『シュステーマ・ソーラーレ』と二軍格『ドワーフ・プラネット』のどちらになるか微妙なメンバーである。
八位から十一位の四人は、強敵が増えそうと考えていそうだ。
今年は梨奈さんが人気投票初参加で上位を確実視されているので、彼女たちが『シュステーマ・ソーラーレ』に入れる枠が一つ減っている。
来年になるとのぞみちゃんはともかく、俺も上位にランクされるはずなので更に枠が狭くなるのだ。
そう考えてみれば、あまり好感が持たれないのも仕方ないのかもしれない。
アイドルグループで人気上位に入れるのだから容姿は充分に魅力的で、それなのに仲良くできないのは残念である。
ちなみに、一番厳しい態度を見せたのは
ごく普通の美少女で結成組の一期生である彼女は、去年の人気投票では十四位で『ドワーフ・プラネット』にギリギリ引っ掛かっている。
今年は更に順位を落としそうで、卒業も間近に迫っているとグループ内では噂されている。
それが気にいらないのか、他のメンバー、特に人気下位のメンバーに対する態度が悪く、メンバー多数から評判が悪い。
そこに俺やのぞみちゃんという人気を集めるのを予想される新人が入ると、ますます人気も順位も落ちるので機嫌も悪化するという感じだ。
まぁ、シュス・ソーラの総人数も多くなったので、三軍格として新たな内部グループを作る話も聞こえてくる。
今年の例大祭でソレが作られ、所属できる順位に収まれば彼女は卒業しないだろう。
多くのメンバーは、空気が悪くなるから早く居なくなってくれと願っているだろうが。
+++
八月のシュステーマ・ソーラーレ例大祭で新メンバー紹介としてのデビューが決まり、レッスンも最後の仕上げとしてより厳しくなっている。
課題のスタミナも初期より見違えるほど改善しているが、レッスンも強度を増したので基本的に
今日もダンスレッスンが終わり、疲れた身体を引き摺って休憩室へ向かうと予想外の出会いがあった。
「あっ……。おはようございます。武智さん」
「んっ? ……ああ、おはよう。六期生のみんな」
「お、おはようございます」
「おはようございますっ!」
「……おはよう、ございます」
途中で合流したボイトレ組を含む六期生全員を迎えてくれたのは、シュス・ソーラの次期エースと目されている超絶美少女だった。
『
去年、デビューした五期生の一人で今年十五歳の中学三年生。
俺やのぞみちゃんより一つ年上で、来月の人気投票では一位か二位を獲ることが確実視されている。
その彼女は、テーブルの上に置いた数枚の紙とタブレットを前に何か悩んでいるようだった。
「おはよう、梨奈ちゃん。何をしているの?」
俺たちが遠慮して違うテーブルの席に座る中、リーダー格の紫苑さんは梨奈さんと同じテーブル席に腰を掛ける。
「来月の例大祭で、何か多めに話をしろと言われたんですよ。紫苑さん」
彼女は別に気にせず、紫苑さんに向かってしゃべっている。
そういえば梨奈さんも我がプロダクション付属の養成所出身だから、以前から二人が知り合いでも全く不思議はない。
「その原稿作り?」
「そう。でも、もう諦めました。要点だけ書いて、後はマネか誰かに頼みます」
そう言って、二人で会話を始める。
六期生最年少の智映ちゃんも同じ養成所出身だが、共に養成所に所属していた期間が短かったせいか俺たちの方に居る。
「この時期だと、レッスンが一段と厳しくなる頃ですね」
「そうか。梨奈ちゃんも去年経験したんだね」
「……あの頃が、一番大変だったかも……」
深めに息をした梨奈さんは、俺たち七人の方に視線を向けてくる。
「六期生、全員ですか……」
「そう。感想は?」
梨奈さんの言葉に、順番に俺たちの顔を見つめてきた。
俺の時には彼女との視線が絡み合い、他の誰よりも長く顔を合わせる。
他は短い時間で、のぞみちゃんがそれより少し長いくらいの感じだ。
「……うん。期待できそうです」
「ほんと?」
「シュスソーラの知名度と人気を、一段と上げてくれそうだと思います」
そう言いつつ、梨奈さんはテーブル上の紙を集めてタブレットを手にすると椅子から腰を上げる。
「それでは、梨奈は行きますね」
「ええ。おつかれさま」
「お疲れ様です」
「おつかれさまでした」
「はい。レッスン頑張ってね」
その言葉を置いて、彼女は休憩室から出ていった。
「ふぅ……。梨奈ちゃん、本当に可愛かったですね」
「紫苑さん。仲が良かったんですか?」
「う~ん。まぁ、普通かな?」
六期生だけとなり、お喋りが開始されるのを聞きながら、俺は立ち去った武智 梨奈のことを考えていた。
いや、あれだけの超絶美少女と色んな意味で仲良くなれないかなと。
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