脇坂 枝里香

「……あのが、噂の美久里ちゃん、か……」


 彼女が慌てて出ていったドアを見ながら、自然と呟く。

 確かに、メンバーが噂するように梨奈ちゃんに匹敵する可愛い女の子だ。


 だけど、私、脇坂 枝里香が気付いたことは別のことだ。


「……本当に、熱い視線だったね」


 スタミナに問題があるとも聞いていたが、その通りに早期にダウンしていた。

 そして休憩に入り私の練習を見学していたのだが、見ていたのは練習より別のものだった。


(凝視してた。私の胸)


 本人も女の子だからわかっていると思うが、女は視線に敏感である。

 ただ、グラビアアイドルもやっている私だと見られることが普通なため、他人の視線には鈍感になっている。

 気にしていたら切りがないから、自然とそうなった。


(でも、あれだけ見られるとね……)


 もう、食いつく感じでジイィと見られていた。

 サービスでダンスを激しくして、普段より胸を揺らしたほどだ。


「やっぱり、あの……」


 多分、いや、絶対に私と同類なのであろう。


 男性より女性が好きな女性。

 私も、その一人だ。


 切っ掛けは、初めてのグラビア撮影で出会ったグラドルの先輩だ。

 まだ、シュス・ソーラの人気もそれほどでなく、複数のグラドルを集めた撮影だった。


 そこで知り合った一人ひとりの先輩グラドルと仲良くなり、プライベートでも遊ぶようになって暫くしてからだった。

 彼女の家で二人で遊んでいた時に、手を出されたのだ。


 最初は冗談だと思っていたが、途中で本気マジだと気付き抵抗したのだったが無理だった。

 今まで経験したことのない快感に、どっぷりとハマってしまったのである。


 今から考えれば、私は最初からそんな性的指向だったと思う。

 アイドルになったのも、大ファンな女性アイドルに近付きたい思いだったし。

 逆に周りの子がキャーキャー叫ぶ男性アイドルには、正直関心が持てなかった。


(まぁ、だからこそ、わかるんだけどね)


 別にシュス・ソーラのこれまでのメンバーに、同じ性的嗜好のがいなかったわけではない。

 でも、同じグループだと問題が起こった時に面倒になりそうで、必要以上に関わらなかった。

 そのメンバーは、そこまで趣味ではなかったしね。


 でも、美久里ちゃんは違う。


「あのなら……」


 正直、めっちゃタイプな女の子である。

 芸能界でも数少ない美貌に、透き通るような白い肌、長い真っ黒な頭髪。

 彼女の生まれたままの姿は、どれだけ美しいのであろう。


 最近、初めての相手だった先輩が芸能界からも引退して付き合いがなくなった。

 おかげで、そういった相手がいなくなり欲求不満が溜まってきているのだ。


 あの、私の巨乳を凝視する視線から考えると、彼女も自分の性的嗜好がわかっている可能性が高いと思う。


 可愛さからすれば、歌やダンスに多少問題があったとしても、絶対に六期生としてデビューできるはずだ。

 そこに頼りになる先輩として、私が寄り添えば仲良くなる可能性も高い。


 人気投票で九位以内に入れそうな美少女だし、そうなれば一緒にいる時間も長くなる。


 ああ、なんか、楽しくなってきた。


 あんな可愛いが私の下で悶えて甘い声を上げている姿を想像すると、身体の奥がジンッとしてくる。


(んっ……。私、すごいエッチな顔してる……)


 練習室の壁一面の鏡に、顔を紅潮させ蕩けた表情の私が映っている。

 それはひどく煽情的で、アイドルとしては見せてはいけない顔だった。


 グラドルとしてなら、歓迎されそうな顔でもあったが。

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