七澤 こずえ

「もう。こずえは、のぞみちゃんに冷た過ぎだよ」

「…………。……そう?」

「そうだよ……」

「……ごめんね。乃莉子」

「謝る相手は、私じゃないでしょ」

「……そう、だね」


 綺麗な顔に浮かぶ表情が忌々しい。

 稀有な美貌を持って生まれた人間には、私の気持ちなんて理解できないんだろう。


 私、七澤 こずえは世間一般から見れば、とても羨まれる立場である。

 生まれた家は、この国でも有数の資産家一族。

 兄がいるから家を継ぐとかも関係なく、厳しいはずの後継者教育も受けていない。

 花嫁修業として、色々やらされてはいるけど。


 おそらくは外から良い縁談が来て、お嫁さんとして家を出ていくことになると思う。

 七澤グループの力を考えれば、嫁ぎ先でも大事に扱われるはずだ。

 将来にも不安が無く、正に選ばれた人間とでも言えるだろう。



 妹さえ、いなければ。



 私も別にブサイクというわけではない。

 逆に、普通に美少女だと言われる顔だ。

 因みに私がクラスに一人いるかいないか、でも複数のクラスがある学年単位だと絶対に存在する程度の美少女だとしよう。


 だが、妹はそんなレベルではない。

 アイツは学校に一人いるかどうかでも、まだ足りない。

 恐らく、都道府県を区分した地域単位。

 その地域で一人いるかいないかクラス

 つまり、都道府県単位で数人から十数人しかいないと評されてもおかしくない美少女だ。


 全国でも三桁前半。

 精々せいぜい、二百人から三百人ぐらいしかいないと思われる、かなりの美少女。


 それが、私の妹である。


 アイツが生まれ、成長していくうちに両親の愛情はあちらに移った。

 いや、親族や使用人の関心も全部アイツに向いている。

 今の私は、美少女『七澤 のぞみ』の姉という認識のされ方だ。

 妹はアレほど可愛いのに姉は……、と言われる惨めな立場である。


 この状況で妹と仲良くするのは、絶対に無理に決まっている。

 顔も見たくないというのが、正直なところだ。


「姉妹なのに……。仲良くしないとダメだから」


 乃莉子が、まだ何か言っている。

 並んで廊下を歩いている彼女の横顔を、チラリと見てみた。


いつき 乃莉子のりこ


 私の遠い親族で、祖父が会長を務める上場会社の部長の娘でもある。

 立場的には私の下になる人間だ。

 彼女の最大の特徴は、その顔面偏差値である。

 彼女は妹をも超える、最高レベルの美少女だ。

 美形が揃う芸能界でもそうは見ない、恐らく全国でも三桁はいないと思われる程の。


 私と一緒の時はそうでもないが、普段は大和撫子な美少女でもある。

 うちの祖父や父からは、おっとりとした礼儀正しい少女と見られているらしい。


 私が乃莉子と一応の親友という関係にあるのは、それが理由だ。

 妹をも凌ぐ美貌の少女を、生まれもあって下に見れる快感。

 それが、劣等感を少しでも忘れさせてくれる。

 アイツに上には上がいると、思い知らすことができる身近な人間。


 まぁ、妹ともそれなりに仲が良いのは気にいらないが。

 遠くても親族なのだから、仕方ないけど。


「……そういえば、のぞみちゃんと一緒にいた女の子、可愛かったね」

「…………」

「やっぱり、アイドルなのかな?」

「さぁ……」


 今日、友達が来るとかは聞いていたが興味が無かったから聞き流していた。

 まさか、あんな美少女が妹の友人にいたとは知らなかった。

 乃莉子に勝るとも劣らない美貌。

 私が勝っていた美少女の友人という部分が、脅かされている。


「アイドルだったら、梨奈ちゃんに近い人気になるかも」


 この子は、妹が参加する予定のアイドルグループの新人が大好きである。

 アイツを通じてサインも貰っていたし。


「機会があったら、のぞみちゃんに紹介してもらおうかな」

「…………。はぁ……」


 やっぱり気に入らない。

 あの妹は、これからも私の敵なようだ。

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