第6話
地獄の基礎体力養成を終え、本日のレッスンは終了。
俺は疲れた身体で、のんびりと休憩室へ向かう。
このまま帰る気にはなれず、少し休憩して体力を回復させるつもりなのだ。
レッスンのための部屋が多くある、この階の休憩室の前に漸く辿り着く。
ドアの上部にある曇りガラスの向こう側が明るくなっており、誰かが在室中なことを教えてくれていた。
いつものようにバーコードを読ませて鍵を解錠すると、ドアを開けて部屋に入室する。
当然、中の人が誰かわからないから挨拶は忘れない。
「失礼します」
部屋の中にはソファーに座った女の子が一人、ステンレスボトル片手にこちらを見ている。
彼女も最近よく見るようになった顔だ。
「お疲れ~。美久~」
俺の名前を縮めて呼ぶ彼女の名前は『
まだ中学三年生なのに六期生候補八人の中で、色気担当と目されている人だ。
理由は中三とは思えない、分厚い胸部装甲。
一緒にダンスレッスンを受ける時は、そこに目が奪われないように努力しないといけないデカさだ。
背中の中ほどまである茶髪をポニーテールやサイドテールにしてダンスを踊りつつ、
「お疲れ様です。友菜さん」
「いや~、ほんとにお疲れだよ~」
出身はこの辺りで、他所のアイドル養成所出身。
六期生候補内の派閥としては、紗綾香さんと他養成所コンビを組んでいる感じだ。
「美久は今日、電車で帰るの~?」
「そうですね。この時間に家族に迎えに来てもらうのも、悪いですから」
「じゃあ、後で一緒に駅まで行こうか~」
「はい。お願いします」
語尾を伸ばす喋り方の彼女も電車通勤?だ。
それ以外だと高級車で送り迎え付きののぞみちゃんに、事務所の寮住みの茉美さんと佐起子さんが徒歩となる。
「ふぅ~。美久が、ここに来るの遅くて良かったわ~」
「何か、ありました?」
「ついさっきまで、東山 加絵さんがいたんだよ~」
「ああ……、それは、災難でしたね」
「うん。ほんとだよ~」
話に出てきた『
シュステーマ・ソーラーレ結成時の十一人の一人で、今年二十二歳になる大先輩だ。
そして、グループ内で一番敵が多い問題児でもある。
かく言う美少女好きの俺でも、いろいろあってかなり敬遠したい相手だ。
外見はミディアムの茶髪をふんわりカールにしている、それなりに居るレベルのごく普通の美少女である。
このシュステーマ・ソーラーレに参加できているのも結成から居るためだ、と言われている人物だ。
最近のオーディションの水準を考えると、今では合格は難しかったと俺でも思う。
そして、そのような話が耳に入ったらしく彼女は後輩、特に五期生以降に少々問題となる態度を取っているのだ。
「何か、言われましたか?」
「……いつものことだよ~。まあ、それで余計に疲れが増えちゃったんだけどね~」
そんな彼女でも、最初の人気投票で九位に入ったことがある。
末席とはいえ、内部グループ『シュステーマ・ソーラーレ』に所属したこともあるのだ。
しかし、それも昔の話。
メンバーが増えた今では人気も陰りを見せ、昨年行われた三回目の人気投票では十四位となり、新たに設けられた『ドワーフ・プラネット』にギリギリ所属できている有り様だ。
年齢のこともあり、運営の卒業も考えたらという提案を即拒絶したとのこと。
まぁ、シュステーマ・ソーラーレ所属という看板が無くなれば芸能界引退も視野に入ってくるだろうし、しがみ付くのは仕方ないとは思う。
「はぁ~。いつまでシュスソーラに居続けるつもりなんだか」
「居続けられる限り、卒業しないと思います……」
お互いに見つめ合って、はぁ~と溜息をつき合う。
別に所属し続けるのはどうでもいいが、敵視されていろいろ言われるのは面倒くさい。
「総キャプテンが、注意してくれればいいんだけどね~」
「……例の噂が本当なら、期待できないですね」
「次の例大祭で引退、って話~?」
「ええ。最後にキャプテンっぽいところを見せてくれると、嬉しいんですが」
「……立つ鳥跡を濁さず、って感じでダメっぽいな~」
「私も、そう思います」
結成時から参加していて、ずっとキャプテンを務めている女性を脳裏に浮かべる。
正直、年功序列でキャプテンをしている感が強く、あまりリーダーシップを期待できない人だ。
おかげで、最近のグループ内の関係は少しゴチャゴチャしている。
外から見ている分にはわからないと思うが、可愛い女の子と仲良くしたいだけの俺にとっては良くない雰囲気であった。
「運営も甘いよね~。ぶっちゃけ、居るのがデメリットになっているのに」
「……これまで卒業したのが二人で、その二人は円満に終わったらしいですから」
「はぁ~、泥を被れる人が運営に居ないのかな~」
人数が増えれば卒業時に
先延ばししても意味は無いと思うが、アイドルグループ立ち上げを共に苦労した運営では結成組の一期生を切るのは難しいのかもしれない。
「事務所の上の人に期待したいですね」
「そうだね~。……さて、そろそろ帰る準備でもする~」
「はい」
「じゃあ、汗を流しに行きますか~」
「わ、わかりました」
わ~い、巨乳の女の子と一緒にシャワータイムだ。
目立つ場所を凝視しないように注意しないと。
でも、チラッチラッと見てしまうのは元男として仕方がない。
自分の身体で女体は見慣れてはいるが、他の子の身体を見ることはソレと全然違うのだ。
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