第5話
本日のレッスンはダンスからである。
といっても、まだデビュー前の俺たち六期生には当然自分たちの曲が無い。
というわけで、先輩たちの曲に合わせて踊る格好になる。
今日の課題曲は近頃発売された、内部グループの方の『シュステーマ・ソーラーレ』のものだ。
その曲のバックダンサーの動きを、レッスンとして踊ることになる。
本日のダンスレッスンメンバーは四人。
まずは、この四人の中で最年長の『
最年長といっても、まだ高校一年生である。
地方出身で他所のアイドル養成所からオーディションに合格した彼女は、副キャプテンみたいなことをやっている。
六期生八人の中で一番背が高くショートカットのせいで、男装が似合いそうな女性だ。
事務所としては女性人気を集めて欲しいんだろうと思っている。
次は、中学三年生の『
彼女も地方出身で、オーディション合格によって単身で出てきているとのこと。
事務所が運営している寮に住み、学校とレッスンに頑張っているらしい。
私やのぞみちゃんと同じ非養成所組で、ホームシックも有るのか最近元気が無いのが心配だ。
外見は肩に掛かるぐらいの黒髪に人並みのスタイルと、あまり特徴が無い。
最後に、六期生最年少の中学一年生『
地元の出身で我が事務所付属のアイドル養成所出身である、言わば譜代だ。
養成所に入ったのが小学六年生になってからで、僅か一年未満でオーディションに合格した期待の星でもある。
外見はロリ。
そう、シュステーマ・ソーラーレのロリ担当で妹枠を受け継ぐのを期待されている女の子だ。
低身長に凹凸の無い身体は、正直まだ小学校高学年ぐらいにしか見えない。
ちなみに三人とも、タイプは違うがなかなかの美少女でもある。
もちろん俺は当然として、のぞみちゃんにも敵わない程度ではあるが。
この三人に俺を入れた四人で女性インストラクターの指導の元、曲をBGMにダンスを繰り返す。
まだレッスン期間も短いので結構な頻度で指導が入り、体力的に消費が少なくて楽な方である。
四人の中で一番指導される回数が多いのが佐起子さんだ。
紗綾香さんや智映ちゃんは養成所出身らしくそれなりに踊れ、俺は神様チートで余裕で
スタミナがもつ限りだが。
「う~ん。やっぱり、古澤さんが一番ダメね」
「す、すみません……」
「ふぅ……、一度、休憩入れてリフレッシュしましょうか。松延さん」
「はい。わかりました。じゃ、五分ぐらい休憩ね」
佐起子さんが精神的に疲労しているのがわかったのか、インストラクターが休憩の指示を出す。
壁際に置いた荷物から飲み物を取り出し喉を潤わせている佐起子さんの横に座り、同じようにミネラルウォーターを口に含む。
飲みながら周りを見ると、他の二人は離れて腰を落としていた。
今日の四人は全員派閥が違うから、行動もバラバラだ。
「……大丈夫ですか? 佐起子さん」
「うん……。ありがとう。美久里ちゃん」
彼女は苦笑を浮かべて俺を見る。
一歳とはいえ年下である俺に心配されて、自分自身を情けなく思っているのかもしれない。
「あ~あ。それなりに踊れると思っていたんだけど、アイドルを目指す人で集まると差は大きいね」
「でも、体力、スタミナは八人で一番だと思いますよ?」
「まぁ、田舎育ちだからかな。子供の頃は走り回っていたから」
佐起子さんの体力は、俺から見ると羨望でしかない。
レッスンで周りがヘトヘトの状態でも、元気に帰っていくのが日常である。
「美久里ちゃんのダンスセンスが、本当に欲しいよ」
「私は、佐起子さんの体力が羨ましいですけどね。少し分けて欲しいですよ」
「ははっ、交換できたらよかったのにね。残念」
言葉を交わし笑いながら休憩していると、少しは元気も戻ってくる。
彼女の笑顔も明るさを増し、気晴らしにはなったみたいだ。
「さぁ、そろそろ休憩終わり」
「は~い」
「わかりました」
インストラクターがレッスンの再開を告げる。
素早く立ち上がった佐起子さんが、座っている俺に片手を伸ばす。
「よし。頑張ろうね、美久里ちゃん」
「そうですね」
彼女の柔らかい手を握ると、引っ張られるように立ち上がる。
やはり、美少女との肉体的接触は良い。
繋いだ掌をニギニギとしながら、他の二人と整列する。
しかし、本来なら年齢が上の紗綾香さんがフォローすべきなのではないだろうか。
残念なことだが、養成所出身組から見ると同期生は仲間というよりライバルという思いが強いのかもしれない。
俺としては美少女たちと仲良くしたいので、全員と上手くやっていきたいと思っているんだが。
「それじゃあ、さっきの続きから始めるよ」
そんなことを考えながら、俺はダンスレッスンの続きを受ける。
この美少女の花園と言える場所で、たくさんの花たちに埋もれて生きていきたいものだ。
+++
「ぜぇぜぇ……、はぁはぁ……」
「ダンスは凄いけど、体力が無くなるのが早過ぎるのが欠点ね。萱沼さん」
「す、すみません……。はぁ……、こ、これでも、前よりは、ふぅ……。マシに、なって、いる、と思うの、ですが……」
以前は十分もダンスレッスンを受ければ息絶え絶えとなっていたのに、今では倍の二十分ももつ。
まぁ、他の三人はまだ大丈夫そうだし、佐起子さんに至っては疲れた様子も見せていない。
「それに比べて、古澤さんはまだまだ余裕そうね」
「はいっ! 体力には自信があります」
「そう……。萱沼さんと古澤さんを足して二で割れば……。いえ、駄目ね。普通のアイドルが、二人できるだけだわ」
俺のダンス能力と歌唱能力は自称神から与えられたものだけあって、人類にとって最高峰レベルの才能らしい。
それを足りない体力と交換とはいえ、削るなんてとんでもない話だ。
「……とりあえず、萱沼さんは少し休憩して見学ね。回復したら参加してもらうから」
「は~い。わかりました~」
「それじゃあ、他の三人は続きをやろうか」
「わかりました」
「はい」
疲れで重たい身体を壁際に移動させて、壁にもたれつつ仲間が踊るのを真剣に眺める。
残念ながら今回の三人は肉体的に大したことがなく、踊る胸部を楽しめることはなかった。
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