内川 知実
「ああっ! やっぱり眠れないっ!」
明日は午前中の仕事が無いとはいえ、睡眠不足はお肌のコンディションに響く。
しかし、眠ろう眠ろうと思えば思うほど、逆に目が冴えてしまう。
理由は自分でもわかっている。
二年後輩の
私、
精々アイドル界で中堅といった感じで、このまま浮上せず消え去っても不思議ではない程度のアイドルグループだった。
ここなら私が中心メンバーとして君臨できるのではないか、と考えてオーディションに応募したのだ。
その当時在籍していたメンバーと比べても、自分の顔に自信があったから合格は問題無いと思い、事実その通りだった。
それからは自分のためにも、グループの人気を上げるために無我夢中で頑張った。
惰性でアイドルをしているとしか思えない他の多数のメンバーに呆れながらも、だから自分が目立てると思い、
その努力の結果かシュステーマ・ソーラーレの人気は上がり、アイドル界でもトップレベルと並ぶほどになった。
その中で私も例大祭の人気投票で一位を取り、名実ともにエースでセンターという中核となった。
でも、せっかく一位となりソールと愛称が付けられ幸せの頂点に立ったはずなのに、私には不安しかなかった。
『武智 梨奈』
私がトップとなった昨年の例大祭で、デビューを果たした五期生の一人。
シュステーマ・ソーラーレどころか、アイドル界を見渡してもそうはいない美貌の持ち主である。
私でも顔の良さでは負けていると認めざるをえない、とんでもない美少女だ。
彼女が顔だけだったのなら、私でも対抗できなくはない。
三期生である私との二年の差は経験というものをもたらし、その点で新人相手に差を付けれるはずだった。
「歌も踊りもイケるって、どういうこと……」
そう、梨奈は顔だけの女の子ではなかった。
アイドルとして歌も踊りも最高レベルの、新人としてステージの隅に居てさえ目立つ才能を持っていたのだ。
当然、彼女はファンからの人気を直ぐに集め、総合プロデューサーもその人気を利用しようと画策し始める。
私でも一年目は大人しくされていたのにだ。
流石に人気投票もまだなので、歌のポジションを目立つ位置に変えたりはしない。
単体で出来る仕事、CMとか雑誌掲載を他の子に比べて優先されたりするだけだ。
ドラマ出演とかは、本人が演技の仕事を嫌って断っているらしい。
とはいえ、その稀有な美少女っぷりはネットで話題になってしまう。
つい武智 梨奈で検索してしまい、次期エースとかセンターとか書かれているの見て不安が増したこともあった。
今年の人気投票を伴う例大祭まで、後約四ヶ月。
それまで人気を落とさず一位を維持するために頑張ろうと思っていたが、今年の新人候補を知って更に憂鬱になってしまった。
『
まずは、この子だ。
落ち着いた印象のお嬢様っぽさを持つ、私に匹敵するほどの美少女である。
そして後から、っぽいではなく本物のお嬢様だと知った。
しかも、日本でも上位に入る企業グループのだ。
私が出演しているCMにも関連企業があるし、テレビ番組のスポンサーになっている場合もある。
正直、事務所も扱いに困る女の子だろうと思う。
とりあえず、敵に回すのは絶対に無しだ。
味方になってもらうのが一番良いが、最低でも仲が悪くならないようにしないと。
それでもグループ内での序列で負けるわけにはいかない。
お嬢様というぬくぬくとした環境で生きてきた彼女に、努力を重ねた私が敗北してはいけない。
「まぁ……、あの子は、まだマシだけど……」
問題は、もう一人である。
『
この名前の女の子が武智 梨奈の次に、いや匹敵するほどの悩みの種だ。
事務所関係者から流れてくる話では武智 梨奈クラス、いや、それ以上の評価をされている逸材らしい。
まず、武智 梨奈とタイプは違うが並んでも見劣りしない美少女であること。
更に歌も踊りも、シュステーマ・ソーラーレの中でも最高クラスと賛辞されているらしい。
ぱっと見はお嬢様タイプだけど、性格は温和で人懐っこい感じとのこと。
事務所の社長や総合プロデューサーをはじめとするいい年をした男性たちが、デレデレになっていると女性マネージャーが言っていた。
それに加えて武智 梨奈と違い、演技のほうも問題ないらしい。
「はぁ……。なに、そのチート」
顔も性格も良く歌って踊れて演技ができるなんて、アイドルとしてだけでなく芸能人としても最高である。
唯一の欠点として体力が壊滅的に無いらしいが、レッスンを続けていけば解消されるだろう。
「なんで、急にライバルが増えるんだろう……」
魅力的なメンバーが増えて、シュステーマ・ソーラーレの人気が上がるのは大歓迎だ。
でも、私の立場を脅かされるのは遠慮したい。
虫がいい考えなのは、わかっている。
でも、すでにトップを取った私としては、それを守る方向に向かってしまう。
「ふぅ……。まぁ、あの二人は今年関係ないから、とりあえずは梨奈ね……」
暗闇の中、目を光らせながら私は決意する。
誰にも、シュステーマ・ソーラーレのエースでセンターを譲らないと。
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