第3話
『
所属予定のシュステーマ・ソーラーレのエースにしてセンター。
昨年の人気投票で堂々の一位を獲得した、超人気メンバーである。
「紫苑、久しぶり~」
「う、うん。久しぶりだね……」
「六期生のオーディションに受かったんだって? おめでとう~」
「あ、ありがとう。まだ、デビューは決まってないけど頑張るね」
「そうだね~。毎期、一人は途中で脱落しちゃうからね~」
俺から見る二人は、それなりに仲が良さそうな感じであった。
確か内川 知実もここのアイドル養成所出身で、今年高校二年生だと記憶している。
その辺りの関係で紫苑さんと面識があるんだろう。
「後ろの二人は~?」
「あっ、この
「ああ……、名前は聞いてる~」
そう言って、内川 知実はジロジロと俺たちの顔の間を交互に視線を動かす。
あまり良い感情が籠った視線とは思えなかった。
「初めまして。六期生候補の萱沼 美久里です」
「同じく六期生候補の七澤 のぞみと申します。よろしくお願いいたします」
とはいえ、先輩でグループの実力者に対しての挨拶はきちんとする。
そんな俺たちを一瞥すると、こんなことを言い放った。
「まあ、頑張れば? アイドルって、思ってるより簡単じゃないけどね。……じゃ、紫苑。またね~」
「う、うん。忙しそうだね」
「これから雑誌の取材と撮影。面倒だけど、行ってくるわ~」
「そう……」
彼女は軽く手を振って、廊下を俺たちが来た方向に去って行く。
それを見送った紫苑さんが歩き出したので、黙って俺たちも後に続いた。
+++
「ふぅ……。疲れましたね」
「そうだね……。これから基礎体力養成だと思うと、さらに疲れが倍増しそう」
もう一人の同期生と合流し四人で受けたボイトレが終わった後、俺はのぞみちゃんと休憩室で暫し休む。
疲れた喉を水分で癒していると、彼女がジッと見つめてくることに気付いた。
「んっ? 何か、私の顔に付いてる?」
「……やっぱり、美久里ちゃんの声って凄いね。透明感が有って耳触りも良かった」
「あ、ありがとう……」
「リズム感も完璧だし、今すぐデビューできそうな感じ」
「そ、そう? なんか、凄く恥ずかしい……」
自称神から貰ったアイドルとしての才能のおかげである。
ぶっちゃけチートなのだが俺としては男として生まれ、イケメンボイスで俺好みの可愛い女の子の耳を妊娠させたかった。
「……そういえば、ボイトレ前に会った、内川 知実さんって……」
可愛いのぞみちゃんの耳元にイケボで囁きたかったとか考えていると、廊下で出会ったシュス・ソーラのエースの話題を出してきた。
アイドルという偶像に憧れていた彼女には、あの態度がショックだったのかもしれない。
「……少し、余裕が無かった感じだったね。でも、理由はわかるかな。今年もソールと呼ばれるか、微妙みたいだし」
+++
ここで俺がオーディションを受け、メンバー候補となったアイドルグループ『シュステーマ・ソーラーレ』について説明しておこう。
シュステーマ・ソーラーレ。
ラテン語で太陽系を意味する名を持つアイドルグループは、五年前の八月に十一人で結成された。
その後、一年ごとに人数を十人・七人・九人・八人と増やしている。
その間に二名の卒業者を出しているので、現在の在籍者数は四十三人だ。
他に重要なことと言えば、三年前の三年目から始まった人気投票がある。
その発表の場が『シュステーマ・ソーラーレ例大祭』という名称で行われる。
その人気投票で第一位から第九位までの九人が『シュステーマ・ソーラーレ』の名を冠する内部グループを結成し、それぞれに愛称が付けられる。
一位の愛称がソール、二位はテッラ、三位以降はメルクリウス・ウェヌス・マールス・ユーピテル・サートゥルヌス・ウーラヌス・ネプトゥーヌスと、太陽と八つの惑星のラテン語での名称が付けられるわけだ。
なお、一位と二位のソールとテッラは特別で、その順位に入ると絶対にそれとなる。
メルクリウス以降は三位から九位以内に入る限り、最初に付けられた愛称を継続して使用することになる。
例えば三年目に行われた初めての人気投票で六位となった二期生の『
それから二回の人気投票では五位・四位と順位が上がっているが、愛称は最初に付けられた「ユーピテル」のままである。
ちなみにグループの構成人数が増えたせいか、去年から新しい内部グループが結成されている。
その名は『ドワーフ・プラネット』と名付けられ、人気投票の十位から十四位までが所属することになった。
なおドワーフ・プラネットは日本語で準惑星という意味であり、付けられる愛称もそれに由来している。
つまりプルート・エリス・ケレス・マケマケ・ハウメアと、現在準惑星に承認されている五天体の英語名となっていた。
そして本日俺たちが会った内川 知実はこうだ。
彼女は三年目に三期生として十四歳でデビューし、かなりの人気を得た。
この辺りからシュステーマ・ソーラーレは全国的な人気を博してきたのだが、それに内川 知実は結構な貢献をしてきたと思われる。
人気投票の順位も初登場の四年目で八位に入り、その時に空いた愛称マールスが付けられた。
そして五年目である昨年の第三回例大祭では遂に人気投票一位となり愛称もソールへと代わって、名実ともにシュス・ソーラを代表するアイドルとなったのである。
今年もそれを継続して、その立場を期待されるはずであった。
そう、はずであったのだ。
昨年デビューした五期生の中に、当時十四歳のあの少女が居なければ。
その少女の名は『
第三回シュステーマ・ソーラーレ例大祭で新人としてデビューした彼女は、あっという間に全国から注目される存在となった。
その理由は、もちろん顔である。
同時代のアイドルの中では、並ぶ者が居ない超絶美少女だったのだ。
その美少女ぶりは、自称神から美貌を貰った俺でも互角ぐらいである。
かなりの美少女である内川 知実やのぞみちゃん相手でも、顔では勝っていると思う俺ですらだ。
そんな武智 梨奈の出現で、内川 知実の人気投票連覇が微妙になってきているわけだ。
そんな情勢を彼女は感じていて、ナーバスになっていると思われる。
この武智 梨奈の存在が俺がシュステーマ・ソーラーレに入ろうと考えた一番の理由である。
やっぱり百合百合するのなら、美少女の中でも一番の相手がいい。
残念ながら、今のところは彼女との接点が無い。
遅くともデビューが本決まりさえすれば、紹介される場面があると思うが。
「う~ん。……やっぱり、武智 梨奈さんが一番になりそうなのかな?」
「ネットとかでは、そんな予想が多い感じ」
「美久里ちゃんもいるし、私にはソールとテッラは無理そう」
「そうかな? のぞみちゃんも可愛いから、可能性は高いと思うよ」
「あ、ありがとう……。でも、美久里ちゃんの方が可愛いと思う」
「……じゃあ、二人とも可愛いということにしておくね」
「ははっ、そうだね」
「……さて、そろそろ時間だし、面倒だけど行こうか」
「うん」
短い休憩時間を終え、地獄の基礎体力養成へと向かう。
こんなことなら、自称神に体力も増大させてもらえばよかった。
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