アイドルデビューまで

第1話

 俺の名前は萱沼かやぬま 美久里みくり

 みくりって、女みたいな名前だと思うかもしれない。

 それは仕方がない。

 実際に女だから。

 正確には身体は女、心は男というやつである。


 俺には前世の記憶がある。

 男に生まれ、ごく普通に育ち、大学を出て就職して数年までの記憶だ。

 特筆することが何も無かった人生で、唯一特別なことは他人の命を救って死んだことである。

 まぁ、俺は死んでしまったので本当に助けられたのかどうか定かではないのだが。


 そして、俺は自称神と名乗る者に出会った。

 その自称神が言うには、俺が助けた人物は将来的に人類にとって途轍もなく重要な人物になるとのことだ。

 それなのに、今回死にそうになったのは自称神のミスが原因らしい。

 細かいことは口を濁らせて教えて貰えなかったが、俺が助けていなければ死亡は確実な状況だったのこと。


 そのお礼とお詫びに、色々と特典を付けて転生させてやろうと現れたらしい。

 非モテでオタクな俺は、こんな小説をたくさん読んでいた。


 ある程度は自由に選べるとのことなので、希望する世界は俺が居た世界と同じか似たような世界にする。

 そこで、アイドルや俳優としてトップレベルでやっていけそうな各種の能力を願った。

 超人気アイドルになり可愛い女性アイドルと仲良くなってあわよくば、といった思いで。

 非モテな人生から、正反対のモテモテに変わりたい一心だったのだ。


 そんな俺の無茶振りを、顔も性別も不明な自称神は拒絶もせず叶えてくれた。

 それどころか赤子のころから意識が有ると精神的につらいと忠告をくれ、六歳の誕生日に記憶が戻るようにしてくれた。


 当然、俺は自称神に感謝しつつ転生とともに自意識は眠りについた。

 そう、その時は本当に感謝していたのだ。



 +++



 六歳の誕生日当日の朝、目覚めた時に前世の記憶とともに転生したことを思い出した。

 未熟な六歳児の脳には負担が大きかったらしく、前世と今世の記憶が融合するまで結構な時間が必要だった。

 そしてその処理が終わった時、俺は思わず自分のベッドの上で悲鳴を上げていた。

 理由は、なぜか女として生まれていたからだ。

 俺の悲鳴に両親がすっ飛んできたようだが、TSしたショックと記憶が混ざった負荷で意識を手放したようである。


 覚醒したのは病院のベッドの上で、付き添っていた母親に泣かれながら、丸一日以上目を覚まさなかったと教えられた。

 それから各種の検査を受けさせられ、何も問題無しとの結果が出るまで家に帰れなかった。



 +++



 その後は普通に女の子として生活した。

 いや、自称神は性別以外は約束を守ってくれたから普通とは言えないが。

 今から考えてみると性別のことは意識の外で、全然願っていなかった。

 おそらく、男性として願いを叶えるより女性としての方が自称神も楽だったのであろう。


 ちなみに俺は両親自慢の娘として、さんざん可愛がられ溺愛されまくった。

 上に兄が三人がおり、それから結構離れて生まれたのも理由だろう。

 習い事も色々とやらされ、ピアノやバイオリンのような音楽系では神様チートのせいか抜群の才能を示した。

 そういった進路を目指すべきと勧められたが、俺は全く興味が湧かなかった。

 なぜなら、そちらのプロに可愛さは重要とは思えなかったからだ。


 オタクだった俺は、百合にも拒否感が無い。

 逆に前世男としては、男性を恋愛相手とするほうが嫌だ。

 というわけで、転生した時の目的だったアイドルを目指す。

 美少女アイドルとして、お仲間の可愛い女の子アイドルたちと百合百合するのだ。


 その野望の為に、俺に甘い両親に頼み込んでボーカルスクールへと通う。

 流石に小学生の時は前世のおかげで勉強に時間を使う必要もなく、アイドルへの準備期間として十分な時間を使えた。



 +++



 小学校を卒業し中学生になってから、本格的にアイドルへの道を模索する。

 具体的には所属したいアイドルグループを探し始めたのだ。

 一番の条件は、可愛いアイドルがたくさん在籍しているグループである。

 なお、そこのオーディションに俺が落ちるとは欠片も考えていない。

 神様チートで芸能人として最適に強化された俺が、不合格だなんてあるわけがない。

 傲慢な考えだが、事実だから仕方がない。


 最初は最大手で一番人気があったアイドルグループに、ほぼ決めかけていた。

 一応他も調べている時に、とある新人アイドルの写真を見るまでは。

 その写真に写る、俺に勝るとも劣らない美貌にあっさりと方向転換する。

 なんとしても彼女がデビューした中堅アイドルグループに入って、百合百合で甘々な日々を過ごすのだ。

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