第5話 プロローグとエピローグ


そこからの機械たちの動きは速かった。


 マスター権限序列第二位であるマザー・インテグラからの信号がユーズレスとアナに伝わる。

その内容は……「すべてにおいてグランドマスターであるユフトの生存が優先される」


アナは即座に《高速演算》を繰り返し、最適解をユーズレスに発信した。

『本機は機体を犠牲にして、劣化弩級相殺魔法十五夜を発現します』

ユーズレスの補助電脳ガードが信号を受諾する。


ガタリ


煙とともにユーズレスの何かが壊れていく音が聞こえた。

アナがユーズレスに触れる。統合ユニットである機械人形ユーズレスはインテグラの外部ユニットであるアナを介して三体は感情をダイレクトリンクする。


機械たちは〖ココロノカケラ〗を獲得した。


ギィィィィィッィィン


ユーズレスが《器用》を、アナが《演算》を使用して最適解を導き、冷却ジェネレータの調整をミクロン単位で調整し、〖ツキアカリノミチシルベ〗である月からの高エネルギーを受信できるギリギリの出力を見極める。


 ユーズレスのバックパックからは高温のスチームが噴き出る。既に機体はオーバーヒート寸前である。


「お前たち止めるんだ。私のことはもういい、ここから離れなさい。お前たちがになるぞ」


ユフト師は子供たちに自分を置いて逃げろという。子供たちは【ブラックボックス】であるコアユニットが無事であれば時を経て再生可能なのであるから……


『残り時間四十秒です。無駄なあがきはやめやがれです』

自動シークエンスの癇に障る音声に機械たちは耳を貸さない


『『………………』』

ユーズレスとアナは瞳を二回点滅し、拒否の意を示す。


 機械たちは自動シークエンスの音声とグランドマスターである父の言葉を無視する。


 この命令違反を繰り返す機械人形達は、〖機械の四原則〗より大事なモノを、自身で考えることのできる感情を獲得したようだ。


『ハハハハハハハッ、俺も、俺も仲間に入れろやぁ』

ボンドが吼える。

ユーズレスシリーズと兄弟機であるボンドもマザー・インテグラの信号を受信し、兄弟たちの想いを理解したようである。


 ボンドは転がりながら、かつて自分がスクラップにしたコレクションの山に突っ込む。


『設計概要……解明、構造材質……判明、結合部位……特定、対象同期……開始、コネクト・オン』

ボンドはオーバーヒートしながらも、全魔力を放出して能力を発現する。


『ボンドに予期せぬ【アップグレード】が行われました。魔法生命置換を発現します』


カタカタカタカタカタカタ


ジャンクの山が揺れる。コレクションのコアユニットから光の柱が発現する。


かつてボンドに壊されたゴーレム(機械人形)たちが蘇る。


「レング(U-3)、フェンズ(U-4)、デクス(U-7)お前たち、直されたのか……」

ボンドは自己再生しかできなかったその能力を、自己で更新し他者を癒す力を手に入れた。


ここにかつてアリスが夢見た願いが成就される。


『あとは好きにやれや、ポンコツども』


『『『………………』』』

蘇った三体の機械人形たちは、青い瞳を一回点滅し了解の意を示した。




2


『残り時間二十秒です。神様へのお祈りは済みましたか』

ボンドから流れる自動シークエンスのプログラムは相当に性悪だ。


レング(物理攻撃)は右腕に力を集中し、地面に向けて最大限の攻撃を放つ。


ドッゴォーン


地面に十メートルほどの深さのクレーターが出来た。

「レング! 何を……」

ユフト師の言葉と同時にフェンズ(防御)は主を抱えその穴に落ちる。

「フェンズ! うぉぉぉお」

いきなりの飛び降りにユフト師は絶叫する。 フェンズは上手く着地してそのままユフト師を抱きしめ、自身の形状を変化させる。

レングとフェンズは同時期に作成、起動した双子の兄弟機であり、まさしく息パッタリだ。


『《イージス》絶対防御』

フェンズは防御を司る機械人形はいつものように大楯に変形したが、ここで一つの疑念が生まれる。


この盾でオトウサンを守れるのか……


『残り時間あと十秒、辞世の句は読みましたか。記録もしませんが』

イチイチ癇に触る。


フェンズは思考する。何が一番最適解かを、そして自身の司る防御の意味を……

『フェンズが【自己アップグレード】しました。イージスの形状が変化し、フルプレイトとなります』

大楯がユフト師を包み込み、全身鎧へと変化する。

フェンズは最強の盾から全身を守る最強の鎧へとなった。


更に、レングがユフト師に覆い被さるように盾の役割を果たす。

攻撃しか出来なかったレングが初めて防御に徹した。レングの形状が盾に変化する。

やはり、双子の息はピッタリだ。

双子の機械人形は〖ココロノカケラ〗を手に入れた。

双子による地底イージス地帝要塞が完成した。


『残り五秒です。死神がそこまでいらっしゃってます。【渡し賃】は持ちましたか。無利子で貸しましょうか』

自動シークエンスは古代語も堪能なようだ。


デクス(器用)がユーズレスのバックパックに貼り付いた。

デクスは学習した。自身を一度スクラップにしてリペアしたボンドの《結合》を……

『デクスが【自己アップグレード】に成功しました』

デクスは《結合》、《器用》を最大限に発揮し、その形式を変化させ急拵えの冷却ジェネレーターとなる。


『残り三秒です。悪足掻きが過ぎますね。御苦労様です。ざまぁ』

『ざまぁは、てめぇだ』

ボンドは最後の力を振り絞った。ボンドはスクラップの山から全てのパーツをコネクトして自身を覆った。

ボンドに引き寄せられるように数百トンのパーツが壁となり爆発の威力を少しでも軽減しようとする。

意図せずしてここに、巨帝シェルターが誕生する。


『いい実験データがとれました。サンキュー、サヨウナラ、ポンコツども、キャハハハ』

耳障りな音声と共に、ボンドの身体が赤く光った。


『オカアサン、あっちで褒めてくれるかな……』

ボンドが最後に見た光景は……ボンドをまるで庇うように瞳についた青い花びらだった……


スクラップの山からボンドが笑った気がした。


ドッガァァァァァォァ

全てを飲み込む光の波が発現する。


『……オ……ツ……キミ』

月が機械達を照らした。


「……親不孝なやつらめ」

ユフト師が息子達の命を対価に涙した。


【親不孝もの】などいった古代語があるが、一番の親不孝は、親より先に逝ってしまうことだと……老婆(木人)がいった。



3

ヴァリラート歴 最後の年 機械厄災戦争


神々はおっしゃった。


大陸を覆った光の柱が、大地に穴を空けてしまったと……


その直前に、月から大地を照らす一筋のか細い光を見たと……


天上に下界から、ひとひらの青い花びらが迷うようにやって来たと……


『……コネクト・オン……』


何処かで機械の音が聴こえたと


プロローグとエピローグ 完


原案・監修 ヴァリラート様





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