第4話 ツナグモノ


踏み鳴らされた機械の残骸が道を作るかのうようにチェイサー(ボンド)までユフト師を導く。


『俺が医療用のユニットだと』

ボンドは、スリープモードのままで身動きが取れない。

「そうだ」

ユフト師は語る。


…………

学園時代


「ユフト聞いて、聞いて。この子の名前はボンドって名づけようと思うのよ」

 アリスは、徹夜明けで研究所のソファーで仮眠を取っていたユフトを無理やり起こす。

「勘弁してくれよアリス、絶賛徹夜五連続でやっと眠ったところだったんだ」

 なんだかんだ文句をいいながらも、重い瞼を開けるユフトは年下のアリスには甘い。

「私がわざわざ来てあげたんだから、喜びのあまりで起きなさいよ」

 いつの時代も一定の女性はたくましく(ワガママで)、我が道をいく。

ユフトは姫の期待に添えるべくソファーからガチガチの硬い身体を起こし、伸びをする。

「ボンドか……確か【ボンド】って古代語で結合って意味だよな」

「流石、ユフト寝起きでも頭の回転が速いわね。そうよ、私の念願の医療によって人と機械を結ぶ子になって欲しいなって」

少し恥ずかし気に話すこの夢見る少女アリスを、ユフトは兄目線で微笑ましく見る。

「それとボンドって違う意味の古代語があってね」

「へぇー、それは勉強不足だったな。聞いてもいいかな」

「えーっとやっぱり恥ずかしいから内緒」

「なんだそれ……」

「いいから、知りたかったら自分で調べて私の所に解答を持ってきなさい。ぜーったいに他の人に頼っちゃダメだからね」

アリスが内緒のポーズを取りながら、頬を赤くしてユフトに警告する。

「なかなかに難しい問題だな」


【ボンド】という古代語には様々な意味が含まれるが、そのなかで【絆】と訳すこともあるそうな。幼き頃より家族との絆を大切にしてきたアリス。後の〖機械の母〗、〖戦場の魔女〗は眠りにつくその瞬間まで、ボンド(家族)との絆をなにより大事にしていた……




『……家族……だと』

「そうだ、アリスは設計段階からお前を家族のように慈しんでいた。最もボンド、君のメモリーにはない記録だが……」

ユフト師はボンドの一番大切だった人の想いを告げる。

『俺は、すべてを……オカアサンを壊したものすべてを、破壊すために』

「私はアリスのすべてを知っている訳ではない、だがアリスと共に過ごした時間は君より長い。だからいう、ボンド、アリスは君に人を癒す慈しみを、機械と人が寄り添える架け橋になって欲しかったんじゃないかな」


 ビュゥゥゥゥ


そのとき、季節外れの悪戯な好きな東の風が吹いた。花のない機械の帝国(ジャンクランド)で、どこからか青い花びらがボンドの肩に運ばれた。


ボンドが青い花びらを見る。ボンドがチェイサー(暴走状態)である赤い瞳が花びらと同じ青に染まる。


『オ……カアサン……』


 ボンドは花のように愛らしく優しかった母を重ねる。


「ボンド、君が壊してきた機械を見せてもらった。君は、パーツは壊していたが、心臓であるコアユニットは壊せなかった」

『【コレクション】にするためだ。この俺の偉大さをオカアサンの偉大さを尊さを世に知らしめるためのな』

「強がるな、ボンド。コレクション、違うな。壊さなかったんじゃない。壊せなかったんだろ。ボンド、君には伝わっていたんだ。アリスの心が、彼女との絆が、アリスが唯一愛した子ボンドよ。君はもう知っているはずだ、アリスの愛を」

ボンドの肩で休んでいた花びらが、ハラリと落ちる。ボンドは慌ててその花びらを掴もうとしたが、今のボンドには花びらを助ける両の手がなかった。


ビィィィィ、ビィィィィ、ビィィィィ、


 ボンドより警告音が鳴り響く。


『チェイサーの敗北を確認しました。運用データーの保護のため【自爆シークエンス】に入ります。生命体の生存を確認します。チェイサーは六十秒後に爆破致します。爆破の規模と威力から避難は非効率かつ無駄と思います。残り五十五秒間の良き人生をお過ごしください』

ボンドからボンドでない自動的な皮肉った音声が流れる。


「なっ、強制自爆シークエンスか軍部のやりそうなことだ」

ユフト師は苦い顔をする。


『おれは、おれは、』

ボンドが戸惑いを見せる。


マザー・インテグラとアナは瞬時に《高速演算》を行いユーズレスに予想される爆発の規模と威力のシミュレーションをフィードバックする。


『オ……ツ……キ……』

ユーズレスが先ほどの弩級消滅魔法十五夜を発現しようとするが……

『ジェネレーターの冷却が間に合いません。連続での《十五夜》の発現は機体がになります』

ユーズレスの〖補助電脳ガード〗が警告を発する。


 無垢なる機械達の願いは月の女神に届かなかった……


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