第3話 神々の戦い 機械神と破壊神


『設計概要……解明、構造材質……判明、結合部位……特定、対象同期……開始、《コネクト・オン》』

チェイサーはユーズレスの神殺しの槍により破壊された右腕部を、周りの廃棄パーツの山に突っ込んだ。


 チェイサーの右腕部が廃棄パーツを取り込み、見る見るうちに再生していく。チェイサーの能力のコネクトは自分を他の物体と結合することができる。


「《結合》か、ここまで【アップグレード】していたとは」

ユフト師はチェイサーの能力の著しい向上に驚愕する。

『息子の成長が嬉しいだろうがぁ、オトウサン』

機械であるチェイサーの不敵な笑みがユフト師の背筋を凍らせる。開発に携わったユフト師は直感した。この機械の成長速度は異常であり、また本来の設計コンセプトから外れてしまっている。機械が他を破壊しその機能を奪い自己再生しアップグレードする。それはもはや、機械の原則から外れてしまっている。チェイサーはもう……人の為に生きることはできないであろうと。


「やるしかないか、ユーズ。矛盾機構発動」

『…………リ……』

ユーズレスは了解の意を示した。赤の瞳がルビー輝く。

『ゴチャゴチャうるせーんだよ。オラァァ、いくぞぉー、兄弟! 』

チェイサーが巨帝を再生した右腕に持ちユーズレスとの距離を詰める。

ユーズレスは収納バックパック(四次元)より流体金属を取り出す。

『なんだぁ、そのグニャグニャしたのは。舐めてんのかぁぁぁ』


「インテグラ、アナ(アナライズ)補助、ユーズ、《器用》」


 距離を詰めたチェイサーが巨帝を両手に持ち直し右上から振るう。

ユフト師の声を機械たちが受諾する。


ガギッィイィィィィンン


 神々すら耳を塞ぎたくなるような金属音が、大気を揺らし大地に響き渡る。

『貴様ぁ、それは俺の……』

ユーズレスは手にはチェイサーの巨帝に酷似した金属が握られて、武器を通して両者の力が拮抗する。


〖矛盾機構〗

ユーズレスが経験した武器道具を、流体金属を通して模倣することができる。ただし、強度と性能はオリジナルに劣る。


古来の言葉で「攻防、武器を選ばず」なる古代語がある。ユーズレスの≪器用≫とインテグラとアナライズの≪演算≫による補助による情報のフィードバックにより、ユーズレスの技量は達人級となり、武具の性能を補っている。




 TUFシリーズ U-2アナライズ〖演算〗


 衛星となった、始まりの機械人形(インテグラ)の外部ユニットであるアナライズ(通称アナ)は、インテグラが観測できない地上の細かい情報、大気のコンディションや、対象の三次元の動き、アナの感じた見たもの、匂いや、音、感情(記録)を常に共有している。人型の自立式補助電脳である。


 アナの演算による補助は、マザー・インテグラもう一人の自分を介してユーズレスシリーズにフィードバックすることができる。




 ユーズレスが巨帝モドキの力を緩め、一歩後方に下がる。

『なっ』

「ユーズ、《敏捷》」


 チェイサーが前方にバランスを崩し、ユーズレスの出した足にもつれ転倒する。

そこに、ユーズレスの膝蹴りがチェイサーの顎に【クリーンヒット】する。


『がっぅぅぅ』

チェイサーが膝をつく。

「ユーズ、《物理攻撃》」

ユーズレスの強化された左腕の物理攻撃をチェイサーが食らい。その凄まじい衝撃により五十メートル後方まで吹き飛ばされる。チェイサーは自分が壊していたスクラップの山に埋もれる。


『この出来損ないのペテン野郎が』


「チェイサー、もう止めるんだ。お前では、ユーズには勝てない。だって、お前は元々……」


『うるせぇ、うるせぇ、だまれー』


 チェイサーは両の腕の前腕部を分離して、スクラップの山に腕を突っ込む。


『《高速演算》、《結合》』


 チェイサーの両の腕が部品を結合し巨大な砲身へと変化する。チェイサーはその星々をも砕きそうな砲身をユーズレスに向ける。


『避けたきゃ、避けろや。ただし、オトウサンは蒸発しちまうだろうがな。《必中》、《演算》』


ギュイーン


 砲身がユーズレスに狙いを定め大気中の魔力が収束し、空間が歪んでいく。

ユーズレスは、アナを見た後に月を見上げて赤い瞳を限りなく点滅させる。

『溜まったぁー。くたばれー、七十六式タイタン』


赤き雷の光がユーズレスを襲う。


その刹那、月より一筋の光が雲を突き抜けユーズレスを照らす。


『《オ……ツ…………キ……ミ》(十五夜)』

ユーズレスは両の掌を前に出し、そこに光り輝く小さな《十五夜満月》が発現する。


 赤き雷が月をかき消そうと迫るが、《十五夜》の引力に飲み込まれた。


 キュィィィィン


 その月夜が奏でるメロディーは、赤き雷ごと《十五夜》は静かに消滅した。

『馬鹿な、国一つ吹き飛ばす俺の最大出力だぞ。なんだ、その馬鹿げた力は……お前は、なんなんだ。そんな力を持っていながら何故壊さない、破壊しない』

「ああ、チェイサーお前の言う通り馬鹿げた力だ。こんなことにしか、使い道のない意味のない力だ」

ユフト師は悲しげにチェイサーに答える。


ガゴン


 チェイサーの両腕が分離され、ボディから煙が出る。どうやら、度重なる戦闘によりコアであるボディがオーバーヒートしたようだ。チェイサーの機体出力が自動的にパワーダウンしスリープモードになる。


『まだだ、まだ俺はやれる。俺は、オカアサンが創った俺は、まだ負けてない』

「チェイサー、もういい。君は、アリスの創ったお前の正式名称はボンド(結合)。ボンド……君は本来、戦闘用じゃない、医療用ユニットなんだ。アリスは戦いを好まなかった。ボンド、君は戦ってはいけない機械だったんだ」

『………………』

ユーズレスの瞳が青色になり通常運転に戻る。


ユーズレスは、二人の会話を記録する。


機械神と破壊神の戦い兄弟ゲンカは父の仲裁により一旦、幕を閉じたかに思えた。

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