序章

第2話 隠された機械神ユーズレス誕生


ユフト師は、7日間不眠の疲労を感じながら電源ボタンをいれる。


『…………………』


『…………………』


『………』


『……インストールを開始します……インストールに成功しました』

機械人形からアナウンスが鳴る。


「よし! 1000と56回目でやっと成功だ……なが、かった…長かった」

ユフト師は、歓喜の声をあげる。瞼は見開き、両手には力が入る。助手である機械人形、インテグラ(始まりの機械人形)とアナライズ(二番目)のバックアップと演算補助により、やっとのことで起動に成功する。


『UFTシリーズ ロットナンバー U―10 統合育成大器晩成型 本機の起動を開始します。本機の個体名を登録しますか? 』

ユフト師は一考し、慣れた手つきで一字一字、ボタンをタッチする。

「機械生命に名前をつけるのは当たり前じゃないか」

『……インストールを開始します』

『アップデート終了しました。本機は十番目の子〖テンス〗、個体名ユーズレス、愛称ニックネームをユーズと認識します』

機械人形の瞳がブルーに点滅している。

「おはよう、ユーズ我が子よ」

ユフト師は精一杯の祝福を贈る。


『オハ……ゴザマ……ス、 オト……サ……ン』


ヴァリラート歴史5649年

国家機械技師ユフト師人形たちの父の最後の子、隠された機械神、機械人形ユーズレスの記録が始まる。






2

ヴァリラート歴最後の年 〖機械厄災戦争〗


『オラオラオラオラぁー。どうした役立たず! お前のお兄さん達はもっと歯応えがあったぞ』

チェイサーのカスタマイズされた手が、ユーズレスを襲う。

『………』

ユーズレスは猛攻に耐える。

『最も、兄弟みんなスクラップになっちまったけどなぁ』

チェイサーが自身より三倍はあろう約六メートル半の斧(巨帝)を振りかぶる。

「ユーズ、《器用(小)》・《物理防御(小)》」

『………』

ユーズレスは赤い瞳を一回点滅させる。ユーズレスは手の甲で器用に斧を左側に滑らせる。

「ユーズ、《物理攻撃(小)》」

ユーズレスは体勢を崩してがら空きになったチェイサーのボディに左腕の全力を叩き込む。


ドスン!


『へへへ、なんだぁ。ネコパンチかぁー、ちっとは気合い入れろやぁ』

チェイサーが無造作に斧(巨帝)を振るう。

「インテグラ、アナライズ、補助、ユーズ《演算(大)》」

ユーズレスは柄の長い部分に自身を当てる。その衝撃で後方に吹き飛ばされる。瓦礫に衝突し煙が舞う。

『なんだぁ! 兄弟(一番~九番)の能力は使えるくせに全部三流か。確かそういうの、器用貧乏っつたっけかぁ』

「心が貧乏なお前に言われたくないな!チェイサー、目を覚ませ。こんなことをしてもきっと、アリスは喜ばない」

ユフト師はチェイサーをなだめる。


『黙れ、黙れ、黙れ! 人間が始めた戦争だ、お前らのゲームの為に作られたのが俺達機械人形(ゴーレム)だ! お前だって遊びたくて、遊びたくて、俺達を作ったんだろう。

「機械は人の幸せの為にあるものだ。チェイサー、アリスのことは私もお前以上に悲しい」

『今更なんだ、何で助けてくれなかった。この役立たずが! おかあさんの気持ちを踏みにじりやがって! おかあさんはなぁ、最後にお前の名前を呼んでたんだ。息子(ゴーレム)の俺じゃなくてなぁー! 』

「………チェイサー、アリスには……いや、それでも私はいう。機械は人の幸せの為にあるべきだと」

ユフト師は暴走状態になっているチェイサーを見る。その視線は悲しげである。


「PX-01a〖チェイサー〗、唯一のアリスの子よ(ゴーレム)。母より、君の本当の真名を預かっている。君の本当の名前は…」


ガゴォォォォォォーン

チェイサーが地面を殴る。その振動(怒り)は凄まじい。


『黙れ、黙れ、黙れぇぇぇー! 今更何もかも遅いんだ。あぁ、そうだ。機械は人の幸せの為にあるんだなぁ、だったら俺たち機械の幸せは何なんだ!こうやってニンゲン様のおままごと(戦争)にお付き合いすることかぁ! あぁ、そうだよ。そうだ。俺は今、全てを壊せて最高に幸せだよ。ありがとうございますね。おとうさま』

風が鳴く。チェイサーの周りの魔力が暴走している。

ユフト師は決意する。もはや、セーフティが外れた彼を止めることは叶わないであろう。

瓦礫の中から赤い瞳が光る。

補助魔法(大)神殺し(グングニル)』

煙の中から光の槍が音速で放たれる。

『ビー、警告、警告、ちぃぃぃぃ』

インテグラとアナライズの補助を受けたユーズレスの光の槍(魔法の槍)はチェイサーの右腕を貫いた。


「チェイサー! ユーズ、兄弟同士殺し合いは止めなさい」

『いいぜぇ! 生まれは違くても、流石は兄弟だ。まだまだ楽しめそうじゃねぇか。兄弟ユーズレス

チェイサーは言葉とは裏腹に、一瞬とても悲しそうな顔をした(誰か俺をスクラップにしてくれと)。


天上の神々は泣く。ニンゲンの都合で、争わなければならない機械人形(ゴーレム)達のために泣く。しかし、神話創世の時代より神々は地上に干渉する権利を持たない。


機械人形ユーズレス、彼は基本的に戦いは嫌いだ。だが、この機械人形は戦う。父のため、兄弟のため、そしてこの傷ついた機械人形チェイサー(マザコン)の為に…

古代語で【逆鱗に触れる】【地雷を踏む】等という言葉がある。

『ダ……マレ、……ヤロ……ウ……』

どうやらチェイサー(ボンド)は、機械神の逆鱗に触れたようだ。

ユーズレスは、赤い戦闘モード瞳を一回点滅させた。

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