第7話 俺が意志を継ぐ。

「今は剣術の練習時間だったよな? んじゃあ、また外に出るか。見てやるよ」

「あ、先生。もうすぐで9時になる10分前なので、ちょうど今は次の勉強の用意時間です」

「あぁ、そうなのか。悪い悪い」


 そう言えば………この学校に来て教師をする事になったのはいいんだが、時間割とか学校の決まり事なのどの説明をしてもらってないな。


 普通、説明がなくても注意事項の書かれた紙くらい渡すだろ。

 渡されたのは生徒の名簿だけ。

 説明されたのは、ごく一部。


 なんだぁ、この学校は………教師は好きなように行動してもいいってか?


 やっぱり………何かがおかしい学校な気がするな。

 まぁ、数少ない大学校とは言ってたし、本当にこれと言ったルールはないのかもしれないけどさ。


「ところで、先生は………どうして私達の担任をしようと思ったのですか?」


 腕を組んで色々と考えていると、シャルちゃんが俺の前に来てそう聞いてくる。


「えっ? そ、そうだなぁ………」


 俺はしばし焦りだす。


 なぜならば、俺がこの学校の教師になるとは思っていなかったからだ。

 目が覚めるとこの学校の正門前に立っていたなんて言っても、信じてもらえる訳がない。


 そもそも、この世界は俺が産まれ育った世界なのか、それとも全く異なる別世界なのかも分からない。

 俺が死んでから何百年も先の未来なのかもしれいない。


 少なくとも、山下の学校の構造や、この子達が着ている制服とか見たことない物で溢れてはいる。


 マズイ、どう言えばいいんだ………何か、何か俺に合っている何か………はっ! そうだ!!


「あぁ………実はな、ここはかの有名な剣術の大学校なんだろ? 俺も………えっと、若い頃は剣術を習っていたんだ」

「………まぁ、この学校は剣術を主体としていますから、ある程度剣術の実力を持った人しか教師にはなれませんが」

「……………」


 そ、そうだよな。

 確かにここは剣術の学校だって校長先生も言ってた。

 そして俺は、世界最強とも言われていた剣士。

 剣術の事は物心ついた頃から爺ちゃんに厳しい鍛練を施されてきた。

 これなら説明出来ると思ったが、シャルちゃんの言う通り、剣術に実力がねぇとここの教師なんてなれんよな。


 ん? 待てよ??

 俺がこの体で目が覚めた時には、すでに学校の前に居たよな?

 校長先生もこの体の持ち主の名前を知ってたし、何も言われずすんなりと校内へ招き入れ、教師にした。

 と言う事は、ギャドルグさんって………結構すごい剣術の実力を持った人なのか………?


 ギャドルグと言う人が存在していたのなら、なぜ俺はギャドルグさんの体になっている?

 死ぬ前の記憶もハッキリある。

 名前も覚えている。自分、家族、愛用していた剣につけた名前も全部。


 学生時代の頃に友達から進められて本を読んだ事がある。転生物だ。

 主人公がある物語の死んだ主人公に転生し、その主人公が死んだ100年後の世界で有名になると言う内容。


「……………」


 俺はある可能性を見いだした。

 そして、今の姿を手の指先から足の爪先まで、軽く見下ろす。


 死んだ人が、死んだ別の人になって生き返る。

 まさかとは思ったが………もしかすると、ギャドルグさんはこの学校の教師となったが、学校に入る前に何かしらの原因で命を落とした………?


 亡骸となった瞬間に、俺がこの体の持ち主として転生してきた?

 それなら、立ったまま目が覚め、学校の前に居た事も辻褄が合う。

 

「そっか………そう言う事、だったのかもしれないな」

「………?」


 俺がボソッと呟いた発言に、シャルちゃんは首を傾げる。


 確信を持てた訳じゃない。

 けど、これが最も可能性が高く、唯一辻褄が合う結論だと思う。


 俺は右手をグッと力強く握る。


 ギャドルグさん、もしもこの推測が合っているのであれば………まず、俺の意志ではないがこの体を勝手に使わせてもらってる事を謝りたい。


 そして、僅かにあるんだ。

 俺の知らない何かの記憶が………。


 俺じゃない、誰かの記憶………これはおそらく、ギャドルグさん、あなたの記憶なのだろう。


 他にも命を落とした人はたくさん居るだろう。

 だが、こんな中でも俺はギャドルグさんの体になった。そして、俺が最も得意とする剣術の学校の教師になった。

 もしかしたら、俺はギャドルグさんと何かしらの繋がりがあったのかもしれないな。


「シャルちゃん、実はもう1つこの学校の教師になろうと思った理由があるんだ」

「………? そうなのですか? 是非お聞きしたいです!」


 シャルちゃんは俺へ理由を求める。


「俺にはな、ある教師になる事を夢見てた知人が居てな。その人が、病気で亡くなったんだ」

「………っ、それは………お気の毒に」


 シャルちゃんの表情が少し暗くなる。


「俺は若い頃、剣術を習ってたって言ったろ? だから、その人が望んでいたこの学校の教師になる夢を、俺が継いだ。だから、ここに来た」

「………そうだったのですね。先生は、知人さん想いのとてもお優しい方ですね」

「そこまでじゃねぇよ」


 ギャドルグさん、あなたがここの教師になるのが夢だったかは知りませんが………少なくとも、この学校の教師になる意志はあったのだと思います。


 なら、この体を継いだ身として、俺があなたの意志を代わりに継ぎましょう。

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40代のおっさんに転生した最強剣士。落ちこぼれ美少女達の教師になったら、いつの間にかモテてたんだが。 雪椿.ユツキ @Setubaki_Yutuki

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