第6話 生徒達

「じゃあ、まずは………」


 教卓の上で名簿を開き、生徒達の顔写真と名前を一通り見る。

 シャルちゃんはすでに自己紹介してもらってるから、まずはこの子にしようか。


「えっと………キーノ・レーナイフン」

「はーいっ! キーノ・レーナイフンだよ………じゃなくて、です!」


 名前を読み上げると、パッと右手を上げて自分をアピールしてくる1人の生徒、キーノ・レーナイフンちゃん。


 彼女は黒い髪のツインテールに、所々赤のメッシュが入っているのが特徴的だ。

 そして何より元気で明るい。


「キーノちゃんは元気がいいね。とても良い事だ」

「はいっ! ありがとーございます!」

「キーノちゃんは、何か好きな事とかあるのか?」

「うーん、好きな事かぁ………皆と一緒に居る事かな?」

「お、いいじゃねぇか。仲間を大切にする良い心を持っている。ありがとうな」


 キーノちゃんのニコッと嬉しそうな笑顔を見た後、俺は再び名簿へ視線を向ける。


 さて、次は………っと。


「アリスタリア・フォン・ヘルジークちゃん」

「あっ、はい。アリスタリア・フォン・ヘルジークです。名前が長いので、お気軽にアリスと呼んでください、先生」


 とても綺麗な声、青紫色のロングヘアに、水色の瞳をした彼女は、さっきシャルちゃんに寄り添っていた子だな。


「アリスちゃんは、何か好きな事とかはあるかい?」

「私は、歌を歌ったり、ダンスをするのが好きなんです」


 ほう、歌を歌ったりダンスをするのが好みなのか。

 歌ならともかく、ダンスが好きって言う人は珍しいな。

 少なくとも、俺が生きていた世界ではダンスが好きって言う人は居なかったな。


「歌とかダンスが好きなら、なぜこの学校に進学したんだ? ここは剣術の学校だろう?」

「それは、実はシャルちゃんと幼馴染み同士で、シャルちゃんが剣術にすごく興味を抱いていたので、私も釣られてここに来たんです」

「もうっ、余計な事は言わなくていいよ! アリスぅ!」


 アリスちゃんの話に、照れ臭そうに反応するシャルちゃん。

 確かに、仲の良い幼馴染み同士のようだな。実に微笑ましい。


 さて、次は………おや?

 この子の名前は少し他の子とは違うな。


「えっと………ラルファ………?」

「私だね。私はラルファ・東来君とうらいくん。皆とは少し違う名前なの」


 1人だけ名前に漢字が使われている特殊な彼女、ラルファちゃん。

 薄い茶髪のショートポニーテールに、アリスちゃんと同じ水色の瞳。

 

 このDクラスの生徒の中でも、めちゃくちゃお姉さん感が溢れ出ている生徒だ。


「なんでラルファちゃんには、名前に漢字が使われているか、聞いてもいいか?」

「はい、まぁ………そんな大した事じゃないですけど、ただ単に私のお父さんが漢字好きで、どうしても私の名前に漢字を入れたかっただけみたいですよ」

「そ、そうか。教えてくれてありがとうな」


 まぁ、自分の子に名前をつけるのはその親の権限だから、とやかく言うつもりはないが、そこはちゃんとした名前をつけてあげてほしいところだな。


 名前ってのは、親が初めて子供に送るプレゼントだ。

 一生背負っていく物。

 せめて名前くらいは、ちゃんとした名前をプレゼントしてあげねぇと、中には名前でイジメを受ける子だって居るんだ。


 おっと、とやかく言うつもりはないって言ったのに、つい言ってはないが思ってしまった。


 さて、次だ。


「次、イリス・ヴィラーナ・ノル」

「………はい、イリス・ヴィラーナ・ノルです。よろしく、お願いします」


 この子はさっき、皆の木刀をまとめて倉庫へ片付けに行ってた子だな。


 灰色のショートヘアに、青い瞳。

 声や喋り方、雰囲気からしてとてもおとなしめの性格なのだろう。


「イリスちゃんは、何か好きな事とかはあるか?」

「………えっと、わ、私もキーノさんみたいに皆さんと一緒に居る事………です」

「おぉ、キーノちゃんと同じか。仲間想いで良い事だ」


 なんだ、結構皆仲間想いっぽくて、いいクラスじゃねぇか。

 

「よし、次だ。ルシーナ・ライブル・シュバルツ」

「は、はい。ルシーナ・ライブル・シュバルツです。よ、よろしくお願いします」


 この子もイリスちゃん同様、結構おとなしめの性格なのかもしれない。

 そして、見た目がかなり特徴的だ。


 髪色が黒と白で半分に分かれており、瞳も黒と白のオッドアイ。

 髪色と瞳の色が両方とも左右対称になっていて、例えば、左側の髪が黒なら左目は白。右側の髪が白なら右目は黒と、髪と瞳で色が対称になっている特殊な子だ。


「ルシーナちゃんは変わった見た目をしてるな。それは、生まれつきなのか?」

「は、はい。生まれつき………この姿です」

「なるほど。教えてくれてありがとうな」


 ほう、世の中には変わった人も居るもんだなぁ。


 そして、残すところはあと1人。

 俺がずっと気になっていた生徒だ。そう、水色のポニーテールをした眼帯をつけた生徒だ。


「次、最後の………ケイラン・レッヴァーノ」

「……………」


 彼女は顎を手のひらの上に乗せながら、日光を浴びつつ窓の外を向いている。

 眼帯で視界が覆われているから、見えないはずだが………。


「ケイラン………ちゃん?」

「……………」


 名前を呼んでも反応がない。

 まさか、目だけじゃなく耳も聞こえなかったりするのか?


「ケイランについては、私が紹介します」


 そこで手を上げたのはシャルちゃんだった。


「ケイランは生まれつき治療が出来ない難病、過剰光燃焼症候群かじょうこうねんしょうしょうこうぐんと言う、病気を患っていまして」

「か、かじょうこうね………なんだ?」


 名前が長い上に読みずらい。

 少なくとも、俺は聞いた事のない病名なのは確かだ。

 そもそも、目に関する病気自体知らないと言うか無かったからな。

 この世界特有の病気なのかもしれん。


「この病気は、通常の人よりも何千倍も光が強く見えてしまう病気で、ずくに瞳孔が焼け失明してしまうんです」

「えっ!? じゃあ、ケイランちゃんはもう………」


 俺は思わず驚き散らかす。

 つまり、光を少しでも見た瞬間失明するって訳だろ?

 とんでもない病気だなぁ!?

 そんで、ケイランちゃんはすでに失明してるって事なのか?


「いえ、実はまだ失明はしてないんです。幸いケイランは、生まれた瞬間瞼を閉じたまま光から顔を逸らそうとする仕草をしていたそうで、医師がすぐに調べた結果、その病気であると判明し、ケイランが光を見る前に眼帯をつけ、失明を逃れたのです」

「おぉ、それは本当に幸いだな………よかった」


 まさに奇跡だな。


 まぁ、ともかく………これで全員の自己紹介が終わったな。


「よし、改めて………今日から君達の担任として、面倒を見る事になった。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします。先生」


 シャルちゃんの後に、ケイランちゃんを除いた全員が『よろしくお願いします』と声を合わせて言ってくれる。


 さて、ここから俺の新しい人生が始まる。

 すでにおっさんからのスタートではあるがな………。

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