第5話 Dクラスの教室へ

「ギャドルグだ。よろしくな」

「………よろしく、お願いします」


 俺とグリサさんの前に集まってきた女子生徒達に軽く自己紹介。

 一番先頭に居た銀髪の美少女が、俺に対して一礼をする。

 彼女の一礼に合わせて、水色の髪をした女子生徒以外の5人も、軽く頭を下げてくる。


 木刀を片手に突っ立っている水色の髪をした女子生徒は、両目を覆い隠す真っ黒な眼帯を付けている事に、俺は黙ったまま驚く。


 彼女は目が見えないのか、はたまた大きな怪我をしているのか知らないが、両目が見えないのに皆と剣術の練習をしていたのか。


 目が見えないとは可哀想に………。


「ではギャドルグさん。私はこの辺で、まだ仕事も残っていますので、失礼します」

「えっ? あぁ………はい。ありがとうございました」


 グリサさんはニコッと微笑むと、登ってきた階段を降り始めた。


 グリサさんの姿が見えなくなってから、俺と生徒達の間に沈黙の空気が漂う。


 マズイ、自己紹介はしちまったから何話したらいいのか全く分からん………。

 しかも、俺の目の前に居る7人の生徒は全員女の子だし、女の子と関わった事全くないからどう接したらいいのか分からんがな………。


 クソッ、何が『教師楽しそうじゃん』だよっ!

 今この姿だと40代くらいだけどよ、実際この姿になる前は22歳だったんだぞ!?

 突然教師になっても………教師としての知識が………あれ、なぜだ?

 なんだか分かる気がするんだが。


 俺は教師なんてやった事は当然ない。

 だけど、なぜか分からないが教師としての立場と言うか、仕事内容と言う、とにかくなんか分かるんだ。

 まるで、すでに教師として働いていたかのように。


 不思議な感じだ………。


 ただ、この沈黙状態のままだとさすがに気まず過ぎる。

 ここは何か話題を出して、この空気を破壊せねば。


「えっと………なんだ、剣術の練習中なのか?」

「はい、今は剣術の自習練時間なので、皆で練習をしてました」

「そ、そうか」

「……………」


 おっと、逆に空気を悪くしてしまったのか、この銀髪の子の表情が暗くなってしまった。


「シャルちゃん、大丈夫だよ。ギャドルグ先生を信じようよ」


 青紫色の長い髪の美少女が、銀髪の子にそっと寄り添う。


「………うん。そうだね、なんかごめん」

「信じる?」


 まさか、こんなおっさんが担任の教師としてくると思っていなかったから、かなり信用されていなかったのか?


 まぁ、初めて会う相手だから信用されてなくてもおかしくはないが………これはこれでなんかショックだなぁ………。


「あぁ、そうだ! 自己紹介がまだでしたね。初めまして、私はラッシャル・シーノ・スラーミアと言います。皆からは、シャルと呼ばれているので、お気軽にそうお呼びください」


 ラッシャル・シーノ・スラーミアちゃん………だいぶ長い名前なんだな。

 長い銀髪のロングヘアに、赤紫の瞳。

 名簿に載っていた顔写真と名前を見たから、誰が誰とかはだいたい把握してはいるものの、なんて美しい子なのだろうか。


「そう言えば、名簿には君の名前の隣に『R』って書かれてあるんだが、これは何を意味しているんだ?」

「あっ、それはおそらく………クラスのリーダーを表しているのだと思います」

「クラスのリーダーとか居るのか」

「はい、リーダーは主に授業を始める・終わる時の挨拶を代表して言ったり、先生からの配布物を代わりに配ったりするんです」


 なるほど………簡単に言い変えるなら、俺の場合は日直みたいなもんか。


「とりあえず、一旦教室に案内してくれないか? ここで立ちながら自己紹介するのも、なんかアレだしな」

「そ、そうですね………! ごめんなさい、すぐにご案内します! 皆、木刀を一旦片付けよう!」

「あっ、なら私がまとめて倉庫になおしておきます」

「本当っ? ありがとうイリスちゃん!」


 イリスと呼ばれる灰色のショートヘアをした美少女は、7人分の木刀を集めて、倉庫と思われる小さな小屋に向かって歩き出す。


「それじゃあ、ギャドルグ先生。教室へ案内致します。こちらへ」

「おう」


 俺は片手に名簿を持って、シャルちゃんの案内に従いDクラスの生徒達が使っている、木造の校舎の中へと入る。

 そして、俺の後ろをイリスちゃんを除いた5人がついてくる。


 校舎に入ると、まず最初に下駄箱。

 まぁ、下駄箱とは言っても普通に靴を脱いで専用の上靴に履き替えるだけ。

 脱いだ靴はそのまま綺麗に揃えて置いておくだけだ。


 靴と上靴を収納するスペースがないとか、これは果たして下駄箱と言えるのだろうか。

 だが、思ったり中は綺麗でちゃんと掃除されているようだった。


「うーん………ギャドルグ先生って結構足が大きいんですね………どの上靴も入らないかも。申し訳ありませんが、スリッパではダメでしょうか?」

「いや、別にいいよ。スリッパでも」


 シャルちゃんが用意してくれた最も大きな上靴でも、残念ながら俺の足には合わなかった。

 と言う訳で、大きめの黒いスリッパを使う事に。


「では、こちらです。ここを右に曲がったら、すぐ私達Dクラスの教室があります」


 そうして案内されたDクラスの教室。

 廊下側にも外側にも横に長い窓が取り付けられており、黒板に教卓、そして机と椅子のセットが合計で20個。


 なんだか懐かしいな。

 俺の通ってた学校の教室にすごく似ている。まるで、学生時代に戻ったかのようだ。


 おっと、懐かしさに浸ってる場合じゃなかったな。


「よし、とりあえず全員一回自分の席に座って。軽く自己紹介の続きでもしようか」

「はいっ」


 シャルちゃんの返事と同時に、生徒達は各自自分の席へと移動し、席に座る。

 そして俺は教卓へ。


 おぉ、この俺が教卓の後ろに立って教師の立場になるなんてなぁ。

 教卓から生徒達を見下ろすのはこんな感じなのかぁ。あの時の先生はいつもこの光景を見ていたんだな。


 我が生徒達を見下ろしていると、後からイリスちゃんが駆け足で教室へ入ってきて、急いで席に座った。

 これで全員揃ったな。


「よし、じゃあ………自己紹介の続きとしようか」

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