第2話 鏡に映るおっさん

「はぁ!? こ、これが俺!?」


 茶色の髪に茶色の瞳。

 口周りを触ったら少しチクチクする。極力短く剃られているようだが、髭も生えている。


 パッと見た感じ、そこまで老いてる訳ではなさそうだ。ざっと40代くらいってところだな。


 てか、なんで死んだのに逆に老いてんだよ!!

 生き返ったかと思ったら、訳の分からん場所に居るし、鏡を見たら俺はおっさんになってるし!!


 まさか………この姿、俺が老いた時の自分だったりして………。

 だとすると………俺の未来の姿?

 ならここは、何十年か先の未来の場所??


 いや、そんな事はあり得ない。

 なぜなら俺は、元々金髪だったからだ。爺ちゃんもハゲてた訳じゃないし、ちゃんと金髪だ。


 俺の一族は皆金髪。

 いくら老いていようが、髪の色が変わる事はない。


 だとすれば、今の姿は誰かも知らない他人の体。

 確かに俺は一族に代々伝わる希少な病気を持って命を落とした。

 目が覚めると、誰かも知らないおっさんの姿になっていた事を考えると、思い浮かぶ可能性は2つ。


 1つ、死んだ後の俺の魂が長年に渡って彷徨い続け、この男の体に乗り移った。

 2つ、これは噂で聞いた事のある話だが、死んだ者が新しい命となって生まれ変わる。


 だが、この2つ目の可能性に関しては2種類あるとか。


 さっきも言った通り、新しい命となって生まれ変わるのと、となって生まれ変わる事。


 可能性としては、2つ目のすでに命を落とした別の者に生まれ変わるの方が高い。

 だが、俺は目を覚ました時、すでに立っていたんだ。


 立ったまま死ぬとか聞いた事もない。

 それを含めて考えると、1つ目の可能性も高く思えてくる。


「分からねぇ、分からねぇ。考えれば考えるほど分からんくなってくる」


 ダメだ、どっちとも可能性が高過ぎて逆に分からなくなってしまった。


「ともかく、俺はなんか知らねぇが………このおっさんになっている。この事実を飲む事しか出来ねぇ」


 鏡に映るおっさん。

 目で見る光景、体を動かした時の感覚、全てが無駄に現実的過ぎる。

 俺だって夢を見る。

 だが、夢の中では感覚がないんだ。

 それもそのはず、だって寝ているのだ。体自体は全く動いていないのだから。


 信じがたい事ではあるが、信じざるを得ない。

 

「はぁ、考えるだけで疲れてきた気がするなぁ。これが年の差ってやつかぁ?」


 少しではあるが、体が重くなった気がしなくもない。


「変に考えるのはやめよう。失った命が違う形で返ってきたとでも思っておくとするか」


 そうだ、そう言えば………この学校の校長が待ってたんだっけな。

 だいぶ時間食ってるだろうし、そろそろ戻らねぇと。


「おわっ!?」

「おぉ!?」


 トイレを出ようとしたら、なんちゅうタイミングだろうか。

 スーツ姿の男とばったり出会し、危うくぶつかるところだった。


「あぁ、すみません。お時間が掛かっていたようでしたので、どこか具合が悪いのかと心配になってしまい」

「いえいえ、ちょっとお腹の具合が良くなくてですね。もう大丈夫なんで、お気になさらず」

「そうでございますか。くれぐれも、無理はなさらないでくださいね。では、校長先生がお待ちですので、こちらへ」


 スーツ姿の男に案内されるがまま、俺は校長室へと招かれた。


 校長室に入ってまず俺の視界に入ってきたのは、ニコニコと微笑むハゲたおっさん。


 鼻下に白いチョビ髭を生やし、電気の光を反射させるほど、ピッカピカのハゲ頭。

 なんて言うか………太陽みたいに眩しいな。


「よくお越しくださいました。どうぞ、お掛け下さい」

「し、失礼します………」


 俺はハゲたおっ………じゃなくて、校長先生と1つ小さなテーブルを挟んでフカフカの椅子に座った。


 なんだこれは………!?

 座った時のこの弾力………お尻が全く痛くねぇ。

 世の中にはこんなフカフカな椅子があるんだな。俺なんか、石か床の上でしか座った事ねぇんだぞ。


「ホッホッホッ………どうやら、座り心地が良さそうで」


 フカフカな感触に気を取られる俺に、ハゲ………じゃなくて、校長先生がチョビ髭を弄りながらそう話かけてくる。


「えぇ、まぁ。こんなクッションみたいな椅子には………座った事がないもんでして」

「ホッホッホッ。そうでしたか。それはソファと言う椅子でしてね。そう珍しくない椅子なのですが………お気に召されたようで何よりです」


 何!?

 こんなフカフカな素晴らしい椅子が珍しくないだと!?

 

 ここは一体どんな世界なんだ。

 この世界には、こんなフカフカな椅子で溢れ返っているとでも言うのか??


 どうやら俺は、とんでもない世界に来てしまったようだ。

 そもそもこの世界自体、俺が死んだ世界の未来なのか、全く異なる別世界なのかは知らんがな。


 座り心地にも慣れてきたところで、俺はハ………校長先生と正確に向き合った。


「では、そろそろ本題へ。まず、ようこそスタンドゥース剣術大学校へ。この度は、我が校の教師に希望してくださり、誠にありがとうございます」

「……………」


 校長先生は両手を翼のように広げ、俺を歓迎してくれる。


 だが、俺の聞き間違いだろうか?


「………は? 教師??」

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