第2話 あなたにはいつも
――無能な淫魔。
淫魔は本来、相手を誘惑して支配下に置く能力がある。
けれど、レンナにはそれがない。
だから、淫魔として生活はできないし、かといってそれ以外に特別な能力があるわけではなかった。
そんなレンナを受け入れてくれたのが、アイリンである。
「あの、それでどうすれば……?」
「まあまあ、楽にしてていいよ」
楽にしろ――と言われても、こういう試験をする時は危ないからと大体、実験台に拘束される。
今回も同じように動きを封じられて、アイリンは少し離れたところに桃色のスライムを放った。
それはゆっくりとした動きで、レンナに近づいてくる。
「ひっ! こっち来てますけど!?」
「近くで女の子の匂いがすると近づくようになってるから」
どういう仕組みなのか分からないが――アイリンが言うならそうなのだろう。
このスライムもまた、彼女の作り出したキメラ――服も溶かすと言っていたから、そういう代物なのだろう。
それに――媚薬とも言っていた。
靴下の辺りに張り付くと、早速その力なのか――じんわりとした温かさと共に溶け始める。
さすがに皮膚まで焼けるような感じだと焦ってしまうが、そこはレンナの作った代物――一先ず安全そうではあるが。
「……なんか、すでに皮膚がすごい熱い感じはしますが……?」
「この媚薬スライムの媚薬は皮膚から吸収して、そこを敏感にしていく優れ物だから」
「ええ……これ、どういう動きするんですか……?」
「それはもちろん、気持ちいいところに移動して、媚薬スライムがいい感じにしてくれる」
「いい感じって――んっ」
言うが早いか、だんだんとスライムは範囲を広げて――レンナの身体を少しずつ這っていく。
その名の通り――媚薬の効果もあるのだろう、だんだんと呼吸が荒くなっていた。
「とりあえず、半日くらい様子みよっか」
「半日!? 長くないですか!?」
「まあ、それくらいしないと安全かどうか分からないし」
「だ、だから、安全かどうかを私で確認するのは……っ」
そこまで言おうとしたところで、すでにスライムは全身に広がり、服もほとんど溶かされてしまった。
――身体も敏感にすると言っていたが、代物としては優秀なのだろう。
アイレンはそんなスライムに襲われるレンナの姿を黙々と観察している。
レンナもさすがに恥ずかしくなり、
「あ、あの、あんまりじろじろ、見られると……」
「大丈夫、見慣れてるから」
「そういう意味で言ってないんですけど!?」
――本当に、どうしてこんな人のことを好きになってしまったのだろうかと、レンナは小さく溜め息を吐く。
その溜め息にすら、やや艶めかしさも混じっていたが。
「レンナ、あなたにはいつも助けられてるよ。わたしには、あなたが必要なの」
「! アイレン様――この状況で言うことではないですよね……!?」
「でも事実だから」
「……っ」
媚薬スライムなどという――とんでもない代物の実験に付き合わされ、服を溶かされて敏感にされるという扱いとしてはかなりひどいことをされているのだが、それでも彼女のことが嫌いになれない。
「なんかレンナの反応が少しよくなったね」
「そういうのは言わなくていいですから……!」
――ただ、恋心などという言葉とは無縁そうなアイレンに気付いてもらうのは、簡単なことではないのである。
落ちこぼれの淫魔は魔女に飼われている 笹塔五郎 @sasacibe
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