第十八話 されど悪役

「その子を殺して何になる!」




 貴族の男から奪い取るように接近するが、奇麗にかわされてしまった。


「お前は何をバカなことを言っているんだ? コイツのことを知らないとでも言うつもりか?」

「あぁ、知らない。だがそんなことはいい。その子を渡せ」

「…………ぶはっ! これは傑作だ。アステラが知らない人間を連れてシャーレを攫っていったと聞いた時にはビビったがまさかこんな奴だとは!」


 貴族の男はあからさまに僕を馬鹿にしていて、見ていて気味が悪くなる。


「手土産に教えてやろう、こいつは俺の姪。そしてテスラの未来を担ってた娘だ。今日この時までだがな!」


 この人………… 僕と同じ境遇なのか、なのにどうしてここまで違うんだろうか。


「あぁ、情けをかけるのも次期王の務めだ。去れ、命だけは見逃そうぞ」

「いや、お前は仲間なんかじゃないな。僕は権力なんか興味なかった、それに! 他人に迷惑をかける気はない!」

「ふん、逆らうか。まぁいい、ブラッドやれ」

「はっ」


 黒服の男、ブラッドが切りかかってくる。


「やめてくれ、ここはいったん話し合うべきところだと…………」

「あら残念、そんなこと言われちゃあ殺すしかないじゃん。正直あんた強いから期待してたんだけどなぁ。でも仕事だからね、大人しくここで死んでくれ」


箱庭ハウスガーデン


 なっ!? あたり一面が透明な灰色の壁に囲まれる。


「残念ながら敵にいちいち解説してやるほどお人よしじゃないんだよね。てことで自分で探り探り頑張って」


 貴族の男が女の子を担いで去ろうとしている、だが壁に阻まれて出ることができない。これじゃ、捕まえに行くことができない。

 この壁の性質は多分、外部からの音声と侵入を遮断するやつだ。ならばどこからか出られるはず!


「おーい、研究してるのはいいけど戦いに集中してくれないと困るよー」


 彼が城から離れた建物に向かっていく。フィオにもあった隠し部屋のような建物があるところなのだろう。

 そうやって考え事をする間にもブラッドは切りかかってくる。さっきまでと違って、殺すというより嬲る感じの剣技だ。


「いち、にー、さんはつめ。あら、当たっちゃったか。でも、流石にこれはよけれるよね?」


 ――――ギリッ


 左肩に強い痛みが走る。


(彼を倒してから追いかけたところで間に合わないかもしれない)


 そんなことを考える間に一発一発と攻撃を入れていくべきなのはわかる。でも、何度戦っても人間を切りつけるなんて抵抗が…………


「迷ってるね。だが戦いってのはなんだよ」

「そんなことない! 誰とだってきっと和解の道はあるはずだろう! 僕はあなたとも戦うつもりはない」

「ほんとにそうか? 前にも戦ってきて殺してきたんじゃないのか?」

「……………………」


 喋りながらも男はヘラヘラと笑っている。そんな時、真上から影が光のような速さで流れてきた。

 確かに夜盗もワーキヤも救えなかった。でも、殺すなんて本当に必要だったのだろうか?


「アステラさん!」


 アステラさんは僕に手を振りながら何かを話している。だが、ハウスガーデンの魔法によって何を言っているのか聞き取れない。


「いろいろと展開が激しいねぇ。遊んでたらあっという間に夜になってしまいそうだ」


 状況は限りなく最悪、アステラさんとの意思疎通が不可能、ブラッドは絶え間なく切りつけてくる。女の子は連れ去られてしまった。


(せめて………… あの女の子が無事であれば…………)




◇◇◇




 ほのかに暗い道、シャーレは引きずられてる痛みによって目を覚ます。


「もう起きたか。もうちょっと寝とけばいいものを」

「ここは?」


 強制睡眠によって状況を呑み込めてないシャーレは呆けたように訪ねてしまう。

 そんなシャーレを無視して貴族の男、ヒエルは歩みを進める。


「いやっ! やめて!」


 イーロンはある一つの部屋にたどり着くとシャーレを鎖につないでいく。


「あぁ、長かった。静かに泣いた日々も今日で終わりなんだ!」


 狂気的な笑みを浮かべるヒエルにシャーレは怖気づく。


「いったい………… 何をするつもりなんですか…………?」

「あぁ、察している通りだと思うぞ」


 シャーレは思わず震える。これから起こる展開、縛られた両手、すべてを察してしまったから。


「お願いします………… お願いします………… お願いします…………」

「…………やめろ。お前は何も言うな」


 ヒエルがシャーレを黙らせる。


「あぁ、かわいそうな子羊、恨むなら俺ではなく親を恨むのだ。お前の親は揃ってクズだ」

「お母さんとお父さんを悪く言わないでください!」


 弱々しかったシャーレの声に怒りがこもる。


「あぁ、なんと健気で………… バカらしい。かわいいなぁお前は」


 ヒエルがシャーレを愛おしそうに、そして憎らしそうに撫でる。あまりに気持ち悪さにシャーレは目に涙を浮かべている。


「あぁ、確かに愛した彼女にそっくりだ。特に目元、何度見てきたかもわからないよ」

「あ…………愛した?」


 何かを察したシャーレは本能的に尋ねたことを後悔していた。




「ああ、お前の母親はな、俺の元婚約者だ」


――――――――――――


入院中により次の話が遅れます。申し訳ございません。


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