第十七話 私は貴方を知らない

~フィオ王国にて~




(サンドラなぜ避けるの?)


 何かがおかしい………… 何がおかしい?


「いらっしゃいマーサ、顔色が悪いわよ」

「おばさん、特に何ともないわ」


 頭にモヤがかかってうまくいかない。ここ最近は眠れないことも多い。


「もしかしてあの男の子と何かあったの?」

「あの…………男の子?」


 サンドラ? でもサンドラはここに連れてきていない。じゃあおばさんが言っている男の子って?


だって言っていた男の子、最近は見かけないわよね。うーん、でもあの黒髪の男の子、どこかで見た気がするのよね」

「簒奪者アレクサンダー?」


 そんな特徴を持つのはソイツかルータス様しかいない。ただルータス様とここに来たことは。


「そんな大層な二つ名を持ってる子だったの? よくわかんないけどねぇ、大事な人は長くはまってくれないのよ。恋愛ってのはね、守ってばかりじゃダメ。だからね、一回当たって砕けないとだめよ」

「当たって………… 砕ける」


 サンドラが距離をとってくるのはある日を介してから。その日は祖父に強いお酒を進められて何も覚えていない………… はず?


「そうよマーサ。応援してるわ」

「ありがとうございます」


 何かが引っ掛かっている。確かに私はサンドラが好きだったはず。なのに、なにこの感情?




(わからない。なにもわからないよ)


 どこだろうサンドラ、一回あってみないと。


「おばさん、今日はここで上がらせてもらうね」

「はいよ、心残りのないようにね」


 おばさんが見送ってくれる。なんだろう? 私の隣に男の子がいる光景がフラッシュバックする。

 走る速度が上がる。最近宿にサンドラは来ない。


「サンドラ、どこ」


 サンドラと巡ったお気に入りの場所を探す。一つ、二つ、三つ。

 ――――二十七、あっ、いた。


「サンドラ!」

「マ、マーサ」


 サンドラがずるずると引き下がっていく。なんで?


「最近の仕事は終わったのか?」

「うん、終わらせてきた」


 ここは三人で初めて泊まった宿。今の宿とは違ってちょっと古いけど安いからって理由で泊ったんだっけ。


「それで………… どうしたの?」

「うん、パーティーなのにみんな会えなくて寂しかったから」

「もしかして………… 思い出してくれたの?」

「思い出す? いったいなんのこと?」


 サンドラ、なんで武器を構えてるの。


「いいんだ、忘れてるなら。何があったのかわからないけど信じてるよ」

「お願い! 教えて!」


 思わず声を荒らげてします。サンドラ、ビクっとしないでよ。いつもみたいににっこり笑顔で語りかけてよ。なにが、なにが私を蝕んでるの?


「四人目、四人目の誰かを覚えてる?」

「よにん…………め?」


 何を言ってるの、四人目ってなに。


「わからない」

「あぁ、いいんだ。そっか、今マルガレータの調子が悪くてさ。失礼するよ」

「う、うん」


 そういってサンドラが宿に戻って行ってしまった。




◇◇◇




 どうして、こうなってしまったんだろう。


「あぁ、かわいそうなマーサ。何かしらの隠し事を受け、仲間とも疎遠が進んでいく悲しき人間」

「ル、ルータス様!」


 あれ? なぜ私は王城に? ルータス様がなぜここに?


「マーサ、再び聞こう。この世は殺すか殺されるかだ。そして私はお前の中にある『殺』の権能を覚醒させられる」

「『殺』の権能?」

「あぁ、この国にいたというだろう? 百戦錬磨の武将が。その力はお前に宿っているのだ」


 ここで受け入れれば、誰にも負けない力を手に入れられる。そしたら簒奪者アレクサンダーを殺して………… 殺して?


「迷うことはないマーサ。ここで受け入れればワーキヤの死も、何もかも報われるのだぞ」


 国を救えばサンドラは褒めてくれる? また、パーティーで仲良くできる?


「あぁ、お前が望むものはすべて与えよう」

「!?」


 思考が読まれてる? いや、ルータス様なら当たり前なのだろうか。


「サンドラへの未練。それは果たして恋心なのか? お前が勝手に勘違いしているだけで実は何もないかもしれないだろう」


 勘違い…………? そんなことはありえない! 私たちは三人だからこそパーティーで、私はサンドラを…………

 私はサンドラを愛しているよね? みんながいるからここまでこれたんだよね?


「気にするな。アレクサンダーを殺し、平和になった時にはきっと三人で笑いあえるだろう?」

「わかりました。『殺』の権能、覚えます」

「あぁ、それでいい」


 ルータス様が極上の笑みを浮かべる………… ルータス様…………? なぜ私は様をつけているの?


「我が『与』の権能にて命ずる。我が配下、マーサ=ルートムにさらなる力を与えよ」

「!?」


 全身電流に打たれたような痛みが走る。でも、なぜか体の芯から強い力が湧いてくる。


「これがお前の力だ。お前の今はRank7をも超える力を持っているだろう。

「そうですか………… ありがとうございます…………」


 眠い………… ふらふらする…………


「眠っていいんだよマーサ」

「はい、わかりました…………」


 そのまま深い眠りに落ちていく。




「あぁ、アレクサンダー。待っておけよ、お前の仲間がお前を殺しに行くからな」


――――――――――――


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