第十四話 怪しい会談

「帰れ!」「帰れ」「不採用」「いらない」「帰れ」「帰れ」「帰れ!」




 バイト活動ダイジェスト。無事大爆死。


「テスラの国は基本的に働き手には困っていないと書かれていたがまさかここまでとは…………」


 どこの国よりも発展しているといわれるテスラを見回す。

 テスラにはほかの国とは違い電磁鋼と言われる鉱石を取る技術が存在している。


 この電磁鋼というのは雷属性の魔法を常時発動することができて一般的な機械を自動化したり、弓とは違う遠距離の武器になるらしい。それはいつか見てみたいなぁ。


「そんなことより、働くところないってどうしたらいいんだ?」


 思わず頭を抱える僕、そんなところに病室に待ち構えていた女の人が現れる。


「ハーイ、順調?」

「全然ですよほんと~」

「アハハー、それはそうだろーねー。だってこっちの人ですら仕事に困ることも多いんだから」

「そんなに………… というかあなたの名前は?」

「レディにあなたは失礼じゃないのー? まぁいいや、ワタシはアステラ。警備隊のタイチョーだよ」

「…………?」

「『?』じゃないよ? 握手、手を差し出されたら差し出し返すの。こっちじゃ常識よ?」


 なるほど、いきなり手を差し出してきたから困惑してしまった。これは握手といって友好の証になるらしい。


「ところでイッツオーライ? 警備隊は働きたがる人がいないから常に人員募集中だけど戦える?」

「Rank2で戦えますか?」

「Rank2!? よくレッドヘル通過できたわね…………。 うーん、Rank2じゃ戦えないわよ」


 やんわりと断られてしまった。アステラさんはすべてを見透かしたかのようにほわほわしてる。


「テスラも難儀でしょう? でもワタシも鬼じゃぁない。だーかーらー取引しない?」

「お、お願いします」

「ナイス! じゃあカフェなり話せるところいこっか。もちろんワタシが奢るヨ」




◇◇◇




 そういって連れ込まれたのはオシャレなカフェ。黄色い屋根にモダンな床、フィオ王国にはない形の建物だ。


「いいでしょーここ、アンティークって感じしない?」

「アステラちゃん、前はクラシックって言ってなかった?」

「ちょ、おじちゃん。カッコつけてるのに空気ぶっ壊さないでよ!」


 アステラさん横文字好きだなぁ。会話の中に横文字をいっぱい使っている。


「それで今日も大事なお話?」

「ソーダネ、話できるところを用意してほしいな」

「はーい、ついてきてね」


 おじさんに連れられて奥に入っていく。さっきまではモダンだったのに段々とレトロっぽい雰囲気に変貌していく。

 行きついた先には、部屋ごとに仕切られた個室のような場所だった。


「座って座ってー。はい、おじちゃん利用料。帰りはこっちから戻るから来なくて大丈夫ダヨー」


 おじさんを帰して席に座るようにアステラさんが促す。そして、アステラさんが席に座り扉を閉めると雰囲気が変わった。


「前回は知らなかったけどアナタ、現在指名手配中の国家転覆殺人犯、アレクサンダー=フィオ王弟陛下って言われてるんだね」

「!?」

「ふんふん、その感じ知らなかったクチだね。まぁ正直、国のほうも慎重に真偽を見守ってる。それに、アナタはそれ以外の価値もあるしね」


 ごくりと生唾を飲み込む。相変わらず横文字を好んで使っているが、最初の時ともさっきとも違う、人を凍り付かせるような眼をしている。それに、トーンが真面目になった。


「正直鎖国って大問題なんだよね、フィオとはそれなりに外交してるほうだから流通が途切れて野菜の供給量が思いっきり低下しているの」


 淡々とアステラさんが語っていく。


「そんな時に現れたのは君。ここで私たちがすることのできる選択肢は二つ、まずはあなたをひっ捕まえて差し出すこと」


 後ずさることはできないのに思わず後ずさる。今捕まってしまえば僕は確実に殺されるしサンドラ達に顔向けができなくなってしまう。


「そう怖がらないで、こっちの選択肢は警備隊の私が決めれるほど有力じゃないから」


 ぽんぽんとアステラさんが宥めてくる。


「それで二つ目、こっちはあなたと友好関係を結んで交渉材料にすること」

「僕とですか?」

「そうそう、うまくいけば輸入再開のめどにもなるし、勇者としての責務もあなたが達成できるでしょう?」


 アステラさんの瞳が怪しく光る、人が何かを企んでいる証だ。でも、それに乗っかるだけの価値はあると思った。


「まぁいいです、手を組みましょう」

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