第十三話 多分強い女の子
「捕まえないでぇ、別に悪いことしてるわけじゃないんですよぉお」
頑強そうな男二人に引きずられる僕、当たり前だ。金も入国許可証も持ってないアホを取り逃すほど馬鹿な国なんて存在しない。
「あんた密売人かなんかか? それにしては何も持ってないけどあれか? 盗賊に身ぐるみでも引っぺがされたか?」
「いえ、このままの状態でここまで来ました」
嘘をついて投獄されるなんてもってのほかなので正直に白状する。
「はぁ? あんた冗談でも言ってるんか?」
「い、いえ………… 本当です」
「レッドヘルはどうした、その装備で避けてこれるわけがないだろう?」
「レッドヘルって赤い土のことですかね? あれなら避けて通ってきました」
男二人にポカンとされる僕、横腹から血がにじみ出てて思考が正常に回ってない。
「大丈夫かあんた! おい、これどうすっかお前」
「やばいっすな、一旦は身柄を拘束する必要があるっすけど栄養失調と出血多量の症状が酷いっす」
「仕方ねえ、冒険者カードは持ち歩いてるみたいだから預けていったほうがいいかもしれん」
「そうっすね、姉御には俺から謝っておくから連れて行ってほしいっす」
フラフラで思考がまともにできない僕を大男がいきなり担いだ。
(これは…………?)
横向きに担がれたことでうつらうつらしていた状態がガクっといってしまいそうになる。
「……こいつ…………明らかに様子が………………緊急でやってくれ」
断片的に入ってくる情報からみて、治療はしてもらえるらしい。
「あ、ありがとうございます…………」
「お前、黙ってろ! 死ぬぞほんとに!」
「す、すいません…………ごふっ」
やばい、何回倒れれば気が済むんだろう僕は。こんなに貧弱だったら勇者として失格じゃないのだろうか?
『スリープ』
◇◇◇
ブーン、ブーン、ブーン……
あれ…………? デジャブ?
「ようやく起きたんですね。いろいろと話を聞く必要があったので困りましたよ」
うわっ、ってあれ? 立ち上がれない。
目の前にはよくわからない女の人が座っている。寝ている態勢で横向きに彼女が見える。
「え…………?」
なぜか手足には鎖がつけられている。あたりは………… 白い壁?
「一応手足を拘束魔法で縛ってるわ。あなたが無害だと判明したら開放するわ。”無害だと判明したら”だけどね」
目の前の女性は軽やかに恐ろしいことを口走る。赤髪のショートヘアの女性の片手には僕の聖剣が。
「それ、僕の聖剣」
「はい、存じております。では、質問を開始しましょう」
彼女はいきなり立ち上がって僕に向き合った。
「まず、あんたのカードを見たわ。勇者みたいだね? しかし勇者はある国でしか生まれない。そこで一つ目。あんたの出身国は?」
「フィオ王国です」
「
そういうと彼女は次から次へと質問をしてきた。
「聖剣は何の魔法に反応する?」
「光魔法」
「フィオ王国の国王は?」
「…………ルータス」
「
すべて終わると彼女は拘束魔法を解除してくれた。
「ふふ、悪かったわね。それでどうだった? 興奮した?」
「してません!!!」
「はははっ! 元気になってよかったよかった」
起き上がって周囲を確認する。どうやら僕は療養施設か何かに入れてもらってたらしい。結構深くまであったお腹の傷がきれいさっぱりなくなっている。
侵入者として捕まると思っていたから助かる。
「侵入者として捕まえなかったけど、勇者としての特権は期待しないほうがいいわ」
「!?」
彼女は僕の心を見透かしたように話しかけてくる。この強さはわかる、僕じゃかなわない。
「勇者って昔は特権階級だったみたいだけど今は別にそんなことはない。まぁ仕方ないわ。数百年に一度、しかもとある国でしか生まれないというんだから」
「そうですね、仕方がないことなのかなと思います」
「だから勇者なんて知っててある程度待遇をよくしてくれるのは一部の人だけ。多分普通に働かないと追い出されるわよ」
もちろん当然のことだ。仕方ない。しっかりと気を持って働こうと思う。
「あと、フィオ王国から旅に出たのだったら言っておくわ。フィオ王国はいろいろとヤバイことになってるみたいだから。戻るんだったら気にしたほうがいいわよ」
「ありがとうございます」
そういって女の人は去っていった。
そういえば伝達玉が音を鳴らしていた。サンドラからの報告が来たのだろうか。
『アレク、無事であることを祈っている。とりあえず大事なことから話していく。まず、国がお前に手配状を出した。理由は側近ワーキヤの殺害だとよ。だから、十分に気を付けてくれ。次だ、先日王国が正式に鎖国令を出した。これからは各国からの帰国、入国、輸入などのすべての外交が制限されるとのことだ。だから戻ろうにも戻れないと思う。なにせフィオ王国の結界術と防衛力はホンモノだからな。ということで無事を祈る、また三日後』
サンドラ………… サンドラこそ無事なのだろうか………… 愚問か。彼ほど強くて勇ましい人間がルータスに負けるわけがない。いや、負けてほしくない。
「よし、僕も頑張らなきゃ」
サンドラが応援してくれてるんだ。今は前を向いて頑張ろう。
とりあえずバイトでお金を稼ぐところからかな。
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