第十一話 新たな旅路
――――バタンッ
(ここはどこだろうか?)
あたり一面緑が広がっている。もう、立ち上がる気力すらないが大丈夫だろうか。
体を渦巻く強い倦怠感が己を支配している。
眠気に負けてはいけない。動き続けないと殺され――――
――――――――――――
――――――――
――――
ブーン、ブーン、ブーン……
「ん…………?」
何かが震えている。それも僕のお腹あたりで。
気だるい体を動かしてみるとそこには青透明で大きな玉があった。
「なんだろう? これ…… うわっ!」
おそるおそる玉に触れてみると、突然文字が出てきた。
『アレク、テレポートの際に
浮かび上がってきた文字を再び触れると消えてしまった。そっか、サンドラは無事なのか。
体を起き上がらせる。見上げれば空はオレンジ色に染まっている。
「眠ってしまっていたのか…… どうしようか。これからどこにいけばいいんだ」
本当ならば今すぐにでも戻ってルータスを殺しに行くつもりだった。でも、サンドラに戻ってくるなと言われたからには戻るわけにもいかない。
辺りを見回す。一面に広がる草、木、岩………… そして遠くに見えるフィオ城。残念ながら人の気配はしない。
(このままじゃ暗くなるな、急いで隠れられるところを探そう)
現在の所持品は背中に担いだ聖剣と伝達玉、シルバーカードぐらいだ、服装も一般的な冒険者のモノで夜を越すなんてできるわけもない。
『
幸い城がうっすらと見える位置で助かった。僕は城と反対の方向に走り出す。
速く、速く、速く。ただし、どんなに速く走っても目標物は見当たらない、どんどん日が沈む。
走り続けて一時間は経過したころだろうか。目の前にはありえないものが広がっていた。
「あたり一面………… 真っ赤だ…………」
段々と木々が減っていったかと思ってみてみれば、目の前には赤い土が広がっている。
なにも生えてない真っ赤な土地、植物すらも生えないということは死地の可能性が高い。そして、その先には人工物がうっすら見える。
(多分あの先は街だ。でも、ここを通ろうものなら間違いなく危険だ)
日は落ちつつあるが、仕方なく迂回しようとしたところで問題は起きる。
「これはっ………… スライム?」
昔、本で見たようなスライムが赤い土の中から現れる。ただ、挿絵で見たスライムは銀色や青色だったのに対し、このスライムは赤い。
「かわいいけど、敵は敵だ。処理しないと」
背中から聖剣を引き抜き、構える。サンドラに言われたように剣先が敵に当たることを意識する。
「おりゃあ!」
ふにゃあっとした変な声が思わず出てしまう。だが、剣はきれいにヒットしスライムはシュウウと音を立てて消えた。
(まぁまずまずかな)
スライムを倒し、先へ進もうとすると、さっきよりも恐ろしい光景が目の前に広がった。
「はっ!?」
赤い土からどんどんスライムがあふれ出てくる。一匹や十匹などではない。それこそ千匹や二千匹だ。
(いったいなにが…………)
無数のスライムが僕に襲い掛かってくる。十匹程度ならまとめて処理できるかもしれないが、この数はとてつもなく苦しい。
『スラッシュ!』
習っていたスキルを使って敵を一掃する、だが次から次へと敵は土から出てくる。
「いったい! なんかい! きりつければ! 終わるんだ! 『スラッシュ!』」
僕は最近までは王族だった。サンドラたちと違って戦闘は習っていない。
そのせいでただでさえ戦えなかったのだが、サンドラに死ぬような修練を受けてようやくある程度の動きができるようになった。
だから戦闘経験もなかったから、最近ようやくオークを倒したぐらいの実力しかない。
アレクサンダーが約千体ほど倒したころ、急激な変化が起きた。
スライムが今度は土に吸い込まれ始めたのだ。
(いったいなにが!?)
驚くアレクサンダーだが、正直言って好都合だった。赤い土からスライムが出てきても察知されない程度に距離を取り、木を切り倒す。
「…………ファイァア?あっづ!」
フーッ、フー。真っ赤になっている手に息を吹きかける。氷魔法と炎魔法はなぜだかうまくいかないことがおおい。ただ、大魔法使いでも炎や氷魔法は杖を使うってマルガレータが言っていたから仕方ないのかな?
時間をかけて火をつけて座り込む。食べ物は我慢するしかない。
「うぅ………… 疲れた。勇者ってのはこんなに疲れるもんなのかぁ」
今日はいろいろなことがあった。大事な友達とはぐれてしまった。
このまま悪いことが続くわけではないけど思わず気が滅入る。
「神様、明日はいいことがありますように」
真っ暗になりつつある空に流れる星に祈りをささげる。いつかは平穏で楽しい生活をできると願って。
とりあえず、明日は赤い土の先へ行ってみよう。
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