第八話 マーサ帰還

 周囲に響く足音、それは段々と轟音に近い音になってこちらに近寄ってくる。




「サンドラ! マルガレータ!」


 その足音は僕らの部屋にまで来て止まった。


「無事だった?」


 マーサは周囲を見回し、僕を見つけると身構える。


簒奪者さんだつしゃアレクサンダー、あなたは何をする気なの?」


 待て待て待て、簒奪者って何? マルガレータもサンドラも状況についていけずにポカンとしている。


「祖父から聞いたわ。嘘をつくなら殺すわ」

「待って待って待って! どういうこと?」

「そう、噓をつくのをやめる気はないようね。『ライトポイズ

「とまれマーサ」


 サンドラが制止する。マーサは予測していたかのように戦闘態勢を解いた。


「話を聞いてやってくれ。仲間だろう」

「はぁ、わかったわ。話は聞いてあげる。でも、嘘だとわかったら殺すわ」


 サンドラが部屋から出るように促す。それと同時にマルガレータはパタパタと片づけを始めた。


 二分後、マルガレータを含む4人が集まったところでその話し合いは始まった。


「まずマーサ、簒奪者ってなんのこと?」

「さっき祖父が手紙を送ってきた。王族には他人の奪いたいモノをなんでも奪える人間が数世紀に一度生まれるって。それを発現したのがアレクサンダーだって、そしてその力を使って聖剣の所有権を奪ったのじゃないだろうかってね」


 簒奪者、聞いたことはある。全ての力を奪って国の王として君臨した邪王。

 それが故に王族の血族には簒奪者の力が紛れていて、実際何人かがその力を発現させて処刑されたという歴史がある。だが、簒奪者は六代ぐらい生まれていない。


「僕にそんなスキルは持ってない。聖剣に選ばれた理由は謎だし僕はサンドラほどお似合いな勇者はいないと思う。信じてもらえないかもしれないけど」

「マーサ、おじいさんが間違ってるっていうつもりはないけど、俺はアレクがそんなひどいことをする奴には見えない。王子様だったってことを抜いてもこんなに優しい人はなかなかいないよ」

「マーサさん、私もアレクさんはいい人だと思います。まだマーサさんはアレクさんのことを知らないと思いますから、もっと話してみましょ」


 まさかの3対1に狼狽えるマーサさん。先ほどの覇気は失ってきている。


「いやでも、サンドラの聖剣だし…………」

「アレク、聖剣持ってみて」


 サンドラに促されて背中に持っている聖剣を取り出す。

 すると聖剣は光を強く纏う。


「マーサ、別にいいんだ。俺はアレクと友達になりたいしできれば仲間として認めてあげてほしい」


 正直言ってマーサさんには申し訳ない。サンドラはマーサたちとは五年単位の知り合いだと言っていた。


「あ、そうだ。マーサもアレクとしっかり話したらわかるよ! だから、今日は一緒に出掛けてみない? 夕方まで」


「「えっ」」




◇◇◇




 気づけばマーサと一緒に外に放り出されていた。サンドラは時々無鉄砲なことをする。自分に問題があるから解決したいとはいえ、さすがにこの状況はきまずい。


「ご、ごめんなさい」

「サンドラ、時々向こう見ずなことするからいい。私もいきなり襲い掛かって申し訳なかったと思ってる」


 会話が途切れる。距離が近いのに川を一つまたいだぐらいの距離を感じる。

 何を話せばいいのだろうか。


「マーサさん」

「…………なに」

「いえ特に何も…………」


 会話がつながらない。何を言っても悪いほうに転がる気がしてうまくいかない。


「…………ここの店にでも入りましょうか、サンドラは別に一緒に話せとか言ってないし別に気にしないと思うわ」


 マーサが指さしたのは緑の屋根の建物、民家をお店にしたような雰囲気を漂わせていて一見しただけじゃお店だとはわからなかった。




――――カランッ


 中には机は並んでいるだけで人は座っていない。


「あら、マーサ。さっき帰ったのにどうしたの?」


 店員さんがマーサさんに話しかける。どうやら結構な頻度で通っているようだ。


「あらま、こちらは前言ってた気になってる人?」

「ちょ、おばさん黙ってください」


 どうやら店員さんはサンドラと勘違いしてるようだ。それはマーサさんが可愛そうなのでやんわりと否定しておく。


「いえ、私はマーサさんの付き添いというかなんというか…………」

「あらま!」

「変な誤解を生むようなこと言わないで! とりあえず座るわよ」


 顔を真っ赤にしてしまったマーサは椅子につく。その対面に座れと手で示されているので僕はそこに座った。


「…………ハニーブレッドを一つ、あんたは?」

「えっっと、マーサさんと同じので」

「はーい、ハニーブレッド二つね」


 そういうと店員さんは店の奥に下がっていく。再度メニューを見てみる、よく見なくても全体的に良心的な価格をしている。


「ここで働いてるんですか?」

「そうね、装身具が高いのと貯金をするために働いてるのよ」

「わぁ…………貯金まで! えらいですね!」

「マルガレータがよく装備を破ってくるのよ。あの子は縫って解決したがるけど、本当に大事な時に装備がないと困るでしょ。だから内緒で貯金してるの」


 疲れてるのかちょっと距離が離れてるからか、そのあとのマーサさんはいろいろと話してくれた。祖父のこと、マルガレータさんのこと、好きな人(多分サンドラ)のこと…………


「そうね、その人鈍感というかいっぱい自然に囲いそうな人でね、最悪永遠にキープされそうで怖いかなぁ」

「つらいですね。僕だったら選ぶ権利はこっちにだってあるんだ! って言いたくなります」

「そうよね! 私だって選ぶ権利あるんだから気づけば誰もいないなんてことになって後悔しても知らないわぁほんと」


――――――――――――


――――――――


――――


「はーい、ハニーブレッド二つー。ってお熱いわねぇお二人!」




「「ただの仲間です」」

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