第七話 平穏な日常
「さあ、はじめようか」
あたり一面に広がる草原、そこで僕はサンドラと対峙する。
「手加減はなしだ。やれるところまでやろう」
そう言った僕はすかさず剣を構え、最速でサンドラの後ろに回り込む。
…………が盛大に空振りをする。
「全然見切れる上に速さしか考えてないね。もっと次の手を読みながら剣に意識を持っていくんだ」
そこから30分、精一杯切りかかったものの、サンドラはすべてきれいに躱してしまった。
「はーっ…………… お疲れ様、よく頑張ったと思うよ」
「でも、当てることができなかった…………」
息が上がっていた僕は思わず構えていた木剣を落としてしまう。サンドラは呼吸が荒くなってはいるもののバランスをきれいにとっていて、まったく疲れていない。
悔しいとは思わない、でも自分の無力さを痛感する。これじゃ魔物なんて返り討ちにされることだろう。【カサブランカ】は周りから最上位クラスと言われるぐらいには強いらしい。そんなパーティーに入るんだこんなことじゃどうにもできない…………
「………………ふっ……はははっ……ごめんごめんアレク、ちょっといたずらしたんだ。許してくれ」
「えっ、いたずらって……木剣に細工でもしたの?」
「いやいや、そんなことじゃないよ『
そういってクイクイっと手を動かすサンドラ、僕は息が上がりながらも再び加速しサンドラに追いつこうとする――――と、サクっと追いついてしまった。
「やっぱりかー、残念。負けちゃった」
「えっ? どういうこと?」
「俺さ、一応このパーティーの中で一番遅いんだよね。あ、一番早いのはマーサね。だから最初の一撃で分かった。これ、追いつかれるなって。だから身体能力強化しちゃった」
そういってサンドラは反省のポーズをする。サンドラは改めてみても全てのポーズが狙っていてなんというか…………ずるいしかっこいい。
「まぁ、気持ちはわかるから気にしないかな。僕もちょっとしか練習してない人に負けたらつらいかも」
「いや、アレクの練習量は全然ちょっとじゃないぞ? 三方向からの奇襲対処なんてそこらへんのボス戦をやるみたいなもんだ」
サラっととんでもないことをいうサンドラ。(サンドラだけに、って言ったら前苦笑いされてしまった。庶民のジョークってのは難しいね)その発言に驚いているとサンドラが続ける。
「アレクはすげーな。努力家だけじゃなくて冒険者としても才能あると思うわ。明日から探索行ってみるか!」
「えっ、サンドラは開始半年はいかないほうがいいって、まだ一か月しか」
「いや、練習次第では半年ほどいかせないつもりだったけど気が変わった。マルガレータに身体強化魔法教えてもらえれば余裕で戦える。てことでマルガレータを起こしに行くぞ」
「ん、わかったー」
マルガレータはサンドラが無理やり引きずって帰ってからずっと寝ている。確かに僕も朝はちょっとフラっとしたが流石にあそこまでなかった。酒って怖い。
◇◇◇
「おーいマルガレーター、起きろー」
ドンドンと宿の部屋をノックするサンドラ、昨日思いっきり部屋の扉開けて入っていったんだから今回も入ればいいのに…………なんて思うけど相手も一応立派な女性。ある程度の距離感は保っているのだろう。さすがはイケメン。兄がイケメンを嫌っていると言っていたすなわちイケメンはとってもいい人だということが証明されてしまった。
ドンドンドンドンドンドン…………起きない。
「起きないね」
「そうやな、まぁ仕方ない」
サンドラが部屋を開けて突撃する。僕もそれに連なって後ろをついていく。
「わぁ、きれいに整理されてる!」
マルガレータの部屋はとってもきれいに整頓されていた。杖も定期的に磨いているのか隣に奇麗にするための布が置いてある。
僕も部屋をきれいにしたいと思っているが棚の置き場に困ったりして結構くしゃっとなってしまう。コツを今度聞いてみよう。
「起きろマルガレータ! もう昼を回ってんぞー!」
「マルガレータさん! 起きてください!」
――――起きない。
「…………ダメだ。よっしゃ、いくか」
サンドラがマルガレータの杖をとって魔法を唱える。
『ドリーム:インフェルノ』
「ちょっと…………なにしたの」
「まぁみてなって」
歯をキラリと見せるサンドラ。だがその顔が不安すぎてびっくり。
「わあああああああ、サンドラぁぁぁぁぁぁぁ」
発狂して飛び上がるマルガレータ。嫌な予感が的中してしまう。
「サンドラ、ひぐっ…………烈火に突っ込んでいくなんて…………私にはカバーできない…………私が無力だった…………」
寝ぼけ眼でいろいろとブツブツ呟くマルガレータ、かわいそうだと思ってみていると、僕を見て不思議そうな顔をする。
「えっアレク!? あんた一番に死んだんじゃ…………あれっ……あっあっああああああ」
サンドラの満面の笑みを見て何かを察したのかマルガレータは一転して泣きそうな顔になりながら文句を言いだす。
「サンドラぁ、人がいる前で夢見魔法を使うなんてひどいよぉ。私がポンコツ泣き虫だって思われちゃう」
「安心しろ、たぶん昨日の夜で手遅れだ」
「…………昨日の夜…………うっ…………」
頭を抱えるマルガレータ、見てられなくなった僕はマルガレータにフォローを入れようとする。流石にかわいそうだ…………
「そうだ!」
と思っていたらいきなりマルガレータは杖をサンドラからひったくる。
『リトル!』
えっ!? マルガレータがちっちゃくなった!?
「アレクお兄さん、昨日のことは忘れて?」
若干高い声になったマルガレータがかわいくお願いしてくる。うっ…………これに屈するわけにはっ…………かわいい!
てことで許してしまう僕。てかいったい何を許したんだろう? まぁいいか、楽しいし。
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